ノーム・シャジール(Noam Shazeer)がグーグルを離れ、OpenAIに加わる。Winni Wintermeyer for The Washington Post via Getty Images
シリコンバレーのパーティーで相手の目を輝かせたければ、「IPO前の株式(pre-IPO equity)」という言葉を口にするだけでいい。確実に効果がある。
グーグルが突然AI人材を失っているのは、不満が原因というよりも、シリコンバレーで古くから続く計算、つまり、どこに最大の株式上昇余地があるかによるところが大きいのかもしれない。
ブルームバーグは6月23日、Geminiの主要研究者であるジョナス・アドラー(Jonas Adler)氏とアレクサンダー・プリッツェル(Alexander Pritzel)氏の2人がグーグルを離れてアンソロピックに移ると報じた。これにより、この検索大手からの注目すべき離職者リストはさらに長くなった。
今回の移籍は、ノーム・シャジール氏やノーベル賞受賞者のジョン・ジャンパー(John Jumper)氏いったAI界の著名人が最近相次いで退社したことに続くものだ。
こうした離職をグーグルのAI戦略への評決として捉えたくなるのは理解できる。グーグルは多くの優先事項を抱えているのに対し、アンソロピックとOpenAIはAIの最前線に鋭く集中していることも一因かもしれない。それがAI人材を引きつけているのだ。
ただ、より単純な説明は金銭的なものかもしれない。
シリコンバレーのエリート人材にとって、成熟した上場企業から急成長中のスタートアップへ移ることは、長年にわたって突出した富を築く最も確実な手段の一つだ。特にそのスタートアップがIPO候補である場合はなおさらだ。
グーグルでは、報酬の大部分が時価総額4兆ドル(約400兆円)超の企業のRSU(譲渡制限付き株式ユニット)に連動している。上昇余地は相当あるものの、比較的予測可能な範囲にとどまる。
アンソロピックやOpenAIでは、状況がまったく異なる可能性がある。今参加する研究者は、相当量のIPO前株式を受け取ることができる。これらの企業が最終的に上場すれば、おそらく2026年末か2027年のロックアップ期間が明けたあと、その株式は大幅に価値が上昇する可能性がある。
シャジール氏は、AIブームのなかで転職がいかに大きな利益をもたらしうるかを示す事例研究だ。
彼は2021年にグーグルを離れ、Character.AIを共同創業した。約3年後、グーグルはライセンス契約を通じて約27億ドル(約2700億円)を支払い、彼を呼び戻した。
シャジール氏はそのスタートアップに相当の持ち分を保有していたため、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、この取引の一環として持ち分を売却し、数億ドル(約数百億円)を手にした。
それから約20カ月後、彼は再び動いた。今度はOpenAIに加わった。
OpenAIは最近、IPOに向けた非公開申請を行っている。移籍に際して新たな株式を取得したとすれば、シャジール氏は再び高収益の流動性イベントに向けて自らを有利な立場に置いたことになる。
トップクラスのAI研究者は、人材獲得競争は未来を築くためのものだと語るだろう。しかしそれは同時に、その未来のより大きな取り分を手にするための争いでもある。