【DAIS 2026 レポート】Databricksが描く「データ・AIのエコシステム」への進化と、Agentic Enterpriseへの移行 | DOORS DX

1.Data + AI Summit 2026とは

Data + AI Summit会場風景

「Data + AI Summit」は、Databricks社が主催するデータとAIに関する世界最大規模のカンファレンスです。2026年は、6月15日から18日までの4日間にわたり、米国サンフランシスコにて開催されました。

本イベントには、世界中からデータエンジニアやデータサイエンティストといった技術者はもちろん、企業の経営層やDX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引するビジネスリーダーが一堂に集結します。会場では、データとAIに関わる最新技術の発表や、先進的なビジネスユースケースに基づく熱気あふれる議論が連日交わされました。

Data + AI Summit会場風景

今年のSummitは過去最大規模となり、現地参加は174か国から31,309名となりました。オンライン視聴も含めると計10万人以上が参加する巨大なテクノロジーの祭典となっています。特に注目すべきは、日本国内での注目度の高さです。今年は日本からも500名以上が現地へ足を運んでいました。

現地でさまざまな方と直接お話しさせていただきましたが、体感としては「今年が初参加」という方が6割以上を占めていた印象です。このことからも、日本中でデータやAIのビジネス活用に対する期待感が、かつてないほど高まっていることを肌で感じました。

私たちブレインパッドは、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というパーパスを掲げています。

進化し続けるデータとAIを、いかにして具体的な「ビジネス成果」に結びつけるのか。その最前線の知見と熱気を体感し、ビジネス実装を拡大するためにも、ブレインパッドとしても今年初めて本Summitに参加いたしました。

本記事では、現地で体感した熱量そのままに、Summit全体を通じて見えてきた最新技術の大きな潮流や、具体的な事例発表の内容について、次章から詳しく紐解いていきます。

2.Summit全体から見えた大きな潮流

6月16日、17日の2日間、計6時間にわたって開催されたKeynote(基調講演)では、共同創業者兼CEOのAli Ghodsi氏をはじめとする各責任者が登壇し、これからのDatabricksの全体像が語られました。

Data + AI Summit会場風景

今年のDatabricksを読み解く上で欠かせないのが、プラットフォームのコンセプトが従来の「Data Intelligence Platform」から「Databricks DATA+AI Platform」へと刷新された点です。

2026年のKeynoteでは、Open Infrastructure、Agentic Data、Unified Governance、Agentic Work、Agentic Development、Agentic Appsという構成が示され、データ基盤、ガバナンス、エージェント開発、業務アプリケーションまでを一体として扱う方向性が打ち出されました。

この変化はプラットフォームの構造だけでなく、メッセージングにも明確に表れています。2025年までは「AI / BI」というキーワードが並列に語られることもありましたが、今年はAIエージェントを中心とした見せ方がより強くなっています。AI活用が広がった後に生じる文脈理解、統制、コスト、選択肢の管理といった課題に対して、Databricksがプラットフォーム全体で対応しようとしていることが印象的なSummitでした。

プラットフォームの核となる「4つのC」

Keynote全体を通じて強調されていたのが、「Context」「Control」「Cost」「Choice」という4つのCです。

Choice(選択の自由):あらゆるデータ、クラウド、モデルに柔軟に対応できるオープン性。

Control&Cost(統制とコスト):データやAIモデル、利用状況を一元管理し、コストを最適化する仕組み。

Context(文脈の理解):企業固有の文脈を踏まえた、質の高いAIの出力やエージェント開発。

Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋した画像(Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋)

中でも、新しく追加された「Context」が特に重要な役割を担っています。

「Choice」と「Control」という強固な土台があるからこそ、「Context」が真の価値を発揮するというプラットフォームの基本思想が示されました。

全体像を構成する5つの注力領域

この4つのCを軸に、「Databricks DATA+AI Platform」の全体像は大きく以下の5つの領域で示されました。それぞれの最新アップデートについて、図の下から順に見ていきます。

Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋した画像(Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋)

1.Open Infrastructure(あらゆる選択肢を提供する基盤)

Databricksの基本思想である「Choice(選択の自由)」の中核を担うのが、オープンなインフラストラクチャです。

今年のKeynoteには、Apache IcebergのクリエイターであるRyan Blue氏も登壇しました。Iceberg v3によってデータフォーマットの統合が進み、今後は「Delta用」「Iceberg用」とデータを複製・管理する必要がなくなり、単一のマスターデータセットで統合管理できるようになる予定であることが明かされました。

2.Agentic Data(エージェント時代に求められる超高速基盤)

AIエージェント時代に求められる圧倒的なスケールと同時実行性に応えるため、データスタックがリアルタイム基盤へと劇的にアップグレードされました。

Lakehouse RT (Reyden) 新しくリリースされたネイティブなコンピュートエンジンです。Lakehouseからデータを移動させることなく、大規模環境でもミリ秒単位の超高速処理を実現します。デモでは、従来1.169秒かかっていた処理が0.007秒(167倍)へと高速化される様子が公開されました。

Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋した画像(Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋)

LTAP(Lake Transactional/Analytics Processing)トランザクション処理と分析処理を一つの基盤上で統合する画期的なアーキテクチャです。従来のようにETLやCDCを用いて別基盤へデータをコピーするプロセスをなくし、書き込み時点でデータレイクに直接保存します。実際のデモでもSQLのクエリ応答が74.19秒から0.08秒へと短縮されるなど、データ移動を待たない低遅延のリアルタイム分析が可能になります。

3.Unified Governance(AI資産とコストの一元管理)

データやAIのガバナンス、そしてコスト管理(Control & Cost)を担う領域です。

Open Sharing 2026年6月にリリースされた次世代プロトコルです。クラウドや組織の壁を越えて、データだけでなく「AIモデル」や「AIエージェント」などの資産を、本体を移動させることなく安全に共有できます。

Unity AI Gateway エージェントが組織に普及するにつれて生じる「膨大なトークン消費によるコスト増」や「エージェントの制御・トラッキング」といった課題を解決する新機能です。予算や権限の設定による監視はもちろん、用途に応じて低コストなモデルを自動選択し、トークン消費を自動的に最適化してくれます。

Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋した画像(Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋)

4.Agentic Work / Agentic Development(Contextの中核を担うエージェント開発)

今年の目玉とも言える、業務自動化とAI開発を支える非常に重要な領域です。関連機能は「Genie」ブランドに統一され、CEOのAli氏が掲げる「データスマートなAI Coworker」の実現を目指します。

Genie Ontology(最重要アップデート)「Context」の核となる新機能です。組織内の既存ソースから「Ontologyスニペット」を抽出し、企業固有の文脈を体系化します。ポイントは、PageRankに似た「OntoRank」という仕組みを用いて、情報の権威性や優先度をバックグラウンドで自動判定する点です。これにより、無駄なトークン消費を防ぎつつ、他エージェントよりも組織固有の文脈を踏まえた正確で高速な出力が可能になります。Databricksでの社内検証では正確性が約30%向上、処理時間が半分という結果が示されました。Contextの質がビジネス成果の質につながるといっても過言ではありません。

Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋した画像(Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋)

拡充されるGenieファミリー

Genie ONE:「@Genie」とメンションするだけで、SlackやTeamsから文脈を維持したまま精度の高い回答を得られるビジネス向けアシスタントです。

Genie Agents:複数ステップの自律的ワークフロー実行や非構造化データの推論が行える進化版エージェントです。

Genie Zero Ops:パイプラインやMLモデルを自律監視し、修正案の提示から自動修正までを行うバックグラウンドエージェントです。

Omnigent(メタハーネス) Claude CodeやCodex、独自エージェントなど、バラバラの実行基盤(ハーネス)を一つ上の抽象化レイヤーで統合・制御する機能です。また、ツール間でコピー&ペーストをすることなく成果物に直接コメントでき、強力なガバナンスとチーム連携の迅速化を実現します。

Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋した画像(Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋)

5.Agentic Apps(Lakehouse上で稼働する次世代アプリ)

今回のKeynoteで、CDP(顧客データ基盤)やSIEM(セキュリティ情報イベント管理)が、DatabricksのLakehouse上でネイティブに稼働するようになりました。

Customer Lake toCマーケティングに革新をもたらす、新しいエージェンティックCDPです。機密データを外部に移動・コピーすることなく、リアルタイム分析が可能です。顧客プロファイルの分析やリアルタイムでのキャンペーン実行ができることで、店舗での特定行動をトリガーにした即時オファリングなど高速でマーケティング施策やPDCAを回せるようになり、より良質な顧客体験(CX)の提供につながります。

Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋した画像(Data + AI Summit Keynote 2026より抜粋)

LakeWatch Panther社の買収により実現した、AIを活用したオープンなエージェント型SIEMです。ソースコードやチャットログ、LLMの活動履歴など、あらゆる業務データを取り込み、脅威の検知からインシデント調査・レポート作成までをAIが自動で行います。

データとAIを事業成果につなげるための次なる課題(まとめ)

今回のKeynoteで示された通り、Databricksは「Choice」「Control」「Cost」という強固な土台の上に「Context」を乗せることで、企業に圧倒的な競争優位をもたらす唯一無二のプラットフォームへと進化しました。

しかし一方で、どれほど強力な機能が提供されても、組織内でデータやAI活用が分断(サイロ化)されていては、「Context」の質を高める効果は限定的になってしまいます。

組織横断でデータやエージェントをシームレスに活用し、サイロ化を解消すること。これは単なるシステム上の課題ではなく、企業の経営層が真っ先に向き合うべき重要な「経営課題」であると、今回のSummitを通じて強く感じさせられました。

3.データサイエンスの視点で読み解く注目ポイント

2章で見た通り、2025年のDAISではLakehouseとUnity Catalogを中心に、データとAIの利用者を広げる方向性が示されていました。これに対して2026年は、その土台を維持しながらAIエージェントが企業内の文脈を理解し、統制を受け、複数の実行環境で継続的に動作するための基盤整備へと重心が移っています。

この変化をデータサイエンスの視点で見ると、単に新しいエージェント機能が増えたという話ではなく、データサイエンティストや機械学習エンジニアが重視すべき設計対象と役割の比重が変わり始めていると捉えられます。

従来の機械学習プロジェクトでは、価値の中心はモデルそのものであり、データ収集、特徴量設計、モデル開発、評価を通じてより高い精度を実現することが主な関心事でした。生成AIの登場後は、基盤モデルを前提に、プロンプト設計やRAG、エージェント設計によって業務価値を引き出すことが重要になりました。

今回のDAISで印象的だったのは、AIエージェントを作ることそのものよりも、企業システムの中でどう運用し、継続的な価値につなげるかへ議論の重心が移っていた点です。

2章で紹介したContext・Control・Cost・Choiceという4つの観点は、Databricks DATA+AI Platform全体を貫く設計思想です。AIエージェントを企業で運用するという観点から見ると、その設計思想を象徴していたのが、Genie Ontology、Unity AI Gateway、Omnigentでした。

それぞれ企業固有の文脈、ガバナンス、複数のエージェント実行環境を統合・制御する基盤という異なる役割を担っています。個々の機能は異なりますが、共通しているのは、企業環境でAIエージェントを運用するうえで必要になる周辺基盤を整備している点です。

これらの領域自体は新しいものではありません。企業知識の管理、アクセス制御、コスト管理、実行基盤、運用監視はいずれも以前から存在していました。しかし2026年のDAISでは、それらを個別の技術としてではなく、AIエージェントを企業へ組み込むための一つの設計思想として整理して示しています。ここに今年のDatabricksの大きな変化を感じました。

この変化を踏まえると、データサイエンティストや機械学習エンジニアが重視すべき設計対象にも変化が生じます。従来からMLOpsやデータガバナンスなど、モデル以外の領域も重要でした。

しかし今後は、それらに加えて、企業知識をどのようなコンテキストとして設計するのか、エージェントにどの権限を与えるのか、どのモデルや実行環境を選択するのか、どの程度のコストで運用できるのかといった要素が、企業でAIエージェントを活用する仕組み全体の品質を左右する重要な設計要素として、これまで以上に重みを増していくと考えています。

この変化は、従来BIやデータマネジメントの文脈で扱われてきた領域にも影響します。KPI定義、業務用語、アクセス権限、セマンティックレイヤなどは、人がデータを正しく理解・利用するための情報として整備されてきました。

しかしAIエージェントが業務判断やアクションに関与するようになると、それらは人間向けの補助情報にとどまりません。エージェントが企業固有の知識や業務文脈を理解し、適切な判断やアクションを行うためのコンテキストとしての意味合いが強くなります。言い換えれば、「人のためのデータ設計」が、そのまま「AIのためのコンテキスト設計」としての意味を持ち始めています。

こうした設計対象の変化に加え、データサイエンティストや機械学習エンジニアが担う従来の運用面での役割にも一部変化が見られます。例えば今回発表されたGenie ZeroOpsは、パイプラインやMLモデルを自律的に監視し、原因分析や修正提案、場合によっては自動修正まで行うバックグラウンドエージェントです。もちろん、これによってMLOpsが不要になるわけではありません。

しかし、監視や障害調査といった運用業務の一部がエージェントへ委ねられることで、人間は個々の運用作業そのものではなく、評価基準や運用方針、ガバナンスなど、より上流の設計へ注力する比重が高まっていくと考えています。

2025年から2026年にかけて見えた変化は、個々の機能追加以上に、その背後にある設計思想の変化でした。Databricksの発表からは、AI活用における設計の重心が、「モデルやエージェントをどう作るか」から、「企業システムの中でAIをどう運用し、継続的な価値につなげるか」へ移り始めていることが読み取れます。この変化は、データサイエンティストや機械学習エンジニアにとっても、今後向き合うべき重要な視点の一つになると考えています。

4.顧客事例・セッションから見えた実装パターン

Kohlerによるマルチエージェントによるサプライチェーン業務変革事例

衛生陶器大手のKohler社がサプライチェーン業務における判断構造をマルチエージェントとともに変えてきており、日本企業においても、非常に参考になると考えます。
ブレインパッドとしても、本事例と同様の思想から、需給エージェントオファリングをリリースしております。

AI Control Towerとしての開発の流れ

Common Data Model

まず土台となるSAP、MES、WMS、Supplier、Logistics、Master DataといったデータをCommon Data Model寄せる

Trusted Data Assets

共通データモデルを作っただけでは不十分であり、AIが信頼して良いデータ資産を作る

OTIF、在庫回転など、Agentと対話するためのKPI定義がそろっているかを重要視して、整備を行っている

Genies + Supervisor

このタイミングでAgentが登場するが、Demand、Supply、Purchase、Inventory、Master Dataなど、業務分掌に沿ってAgentを分けている

万能AIを一体置くのではなく、業務専門家AgentをSupervisor Agentが束ねる構造にしている

Kohler’s Novel Capability

Genieをチャットで終わらせず、Control Towerと進化させるために、よく聞かれる問いや重要KPIを、Metric Placardsとして常設表示する

AI Control Towerとしての開発の流れ

良かったポイントを端的に

地味で大変なCommon Data Modelから始めている(本当は非常に苦労したと思います)

業務ドメインごとにAgentを分け、Supervisor Agentが複数Agentを束ねている

KPIと会話がつながっている(KPIを重要視しているからこそ、価値がある)

チャットをControl Towerに進化させている

得られる示唆

サプライチェーン・AIエージェントの本丸は、再判断力を求めていくことだと捉えて、身に染みております。背景として、企業のサプライチェーン業務はこれまで現場の調整力やベテランの経験に支えられ、第3次AIブーム以降、需要予測、発注自動化などの仕組みを導入し、部門間の擦り合わせとともに業務適用してきました。

しかしながら、今後は人手不足、物流混乱、原材料の高騰だけでなく、需要変動の速さ、地政学リスクなどに対して、吐き出される予測数値も含めて、人がなんとか調整する限界があります。

そのときに、どれだけ早く、正しく、全体最適で判断できるか。今後必要となるのは、需給判断を属人的な職人芸から、エージェントとともにアジリティのある需給判断に変えることだと受け取ることができる良い事例でした。

アディダスによる仮想アナリスト実装事例

スポーツブランド大手のアディダス社がデータ分析の現場が抱える課題を「仮想アナリスト」によっていかに解決し事業成果に直結させるかという、非常に実践的な「青写真(Blueprint)」が示されました。

エンタープライズでAIを実装する上での重要なポイントを紐解きます。

ダッシュボードだけでは解決しない「Why(なぜ)」の問い

多くの企業がデータ基盤を構築し、見栄えの良いダッシュボードによるセルフサービス化を進めてきました。しかし、ビジネスの現場から生まれるのは「なぜ先週のコンバージョン率が下がったのか?」といった、より深く複雑な「Why」の問いです。

ビジネスユーザーはダッシュボードを見た後にデータアナリストに分析を依頼してしまい、アナリストの貴重なリソースがコンテキストに依存した定型的なタスクに奪われてしまうという問題が発生していました。

この問題を解決するためにアディダス社が構築したのが、インテリジェントな仮想アナリストである「DIVA (Data Intelligent Virtual Analyst)」です。DIVAは単なる事実の報告だけでなく、多角的にデータを分析し、ビジネスユーザーの「なぜ」に答えることを目的としています。

AIエージェントを支える「6つのアーキテクチャ層」

DIVAの裏側では、LLMを安全かつ正確に機能させるための堅牢なアーキテクチャが構築されています。単にLLMをデータに繋ぐのではなく、以下の6つの層(レイヤー)を連携させているのが特徴です。

Data Foundations:CRMやセールスデータなどの基礎となるデータ基盤。

Semantic Data Layer:指標やディメンション、関係性を定義し、AIがデータを正しく解釈するための土台。

KPI Governance:KPIのオーナーシップや定義を管理し、AIが勝手に数値を捏造しないための厳格なルール。

Knowledge Layer:ビジネスルールやドメイン知識を保持し、生データ以上の文脈を提供する層。

Agentic Layer:AIエージェントの推論やツール連携などを担う層。

DIVA Experience:ユーザーが実際に触れるチャットインターフェース。

AIエージェントを支える「6つのアーキテクチャ層」

段階的な「分析の深度」の拡張

アディダス社は、AIの自律性を高める前にユーザーからの「信頼(Trust)」を獲得する必要があるとし、段階的なアプローチを採用しています。

V1(WHAT):まずは「売上はいくらか?」「開封率は?」といった事実に正確に答えることで、システムの正確性を証明します。

V2(WHY-Diagnostic): 「なぜパフォーマンスが変化したのか」という診断的な問いに答えるフェーズです。ここでマルチステップの推論やハルシネーション対策が導入されます。

V3(WHY-Enhanced):メールのエンゲージメント低下と消費者行動の変化など、複数のドメインを掛け合わせて分析します。単なるレポートツールから「仮想アナリスト」へと進化する段階です。現在同社はこの地点に到達しています。

V4(WHAT-IF):将来的には「キャンペーン費用を10%増やしたらどうなるか?」といった予測シナリオやシミュレーションの提供を目指しています。

段階的な「分析の深度」の拡張

単なるチャットボットとの違い:厳格な処理フロー

一般的なAIチャットボットが「質問 → LLM → 回答」という単純なフローを辿るのに対し、エンタープライズレベルのDIVAはより複雑で厳格なステップを踏みます。

まず、ユーザーがアクセス権限を持つデータのみに絞り込む「認証(Auth)」を行います。その後、直接LLMに質問を投げるのではなく、過去の分析履歴やセマンティック情報を集約して「コンテキスト(文脈)」を構築します。

続いて質問を小さな分析タスクに分解し、並列で調査を実行。生成された回答がビジネスルールと整合しているか検証を行った上で、最終的な回答とともに「その背後にあるSQLや参照元などのロジック」を提示します。

エンタープライズがAI実装する際のポイント

セッションの最後には、AI実装のポイントが語られました。

プロンプトよりもコンテキスト設計:LLMそのものは最も簡単な部分であり、まずは文脈を構築するパイプラインを作ることが重要。

セマンティック層は必須要件:データがAI対応(AI-ready)でなければ、エージェントを構築する前にデータ層を整備すべきである。

説明可能性が信頼を築く:初日から「どのように回答が導き出されたか」のロジックをユーザーに示すことが不可欠。

妥協のないベンチマーク:131のテストで95%以上の精度を要求するなど、リリース前の厳格なテストが必須。

認証(Auth)こそが最重要:ユーザーは権限のあるデータにのみアクセスできるべきであり、ここは絶対に譲れないポイント。

1点目のコンテキスト(Context)の重要性は、今回のSummitでのKeynoteでも強調されているポイントです。組織のコンテキストをいかに高い質で構築することができるかがより重要になってくると考えられます。

また、AIが使える状態にしておくデータ整備、ユーザーに合わせたアクセス権限はいずれもDatabricksの強みを発揮して実現ができます。

これらの知見は、今後データとAIを活用して事業成果の創出を目指す日本企業にとっても、極めて示唆に富む実践的な事例と言えます。

5.データとAIを事業成果につなげるための論点

今回のDAIS 2026を通じて強く感じたのは、データ・AIの活用が「業務への組み込み」へ着実に移り始めているということです。

AIエージェントが企業の業務判断やアクションに関わるようになると、単にデータを集めるだけでは不十分です。売上、在庫、顧客、案件、LTVといった言葉が、その企業の中で何を意味するのか。そしてその背景には何があり、どのデータを公式なものとして扱うのか。どのKPI定義を優先するのか。こうしたContextが整っていなければ、事業判断や業務自動化に使える状態にはなりません。

Databricksの怒涛の発表は、現在考えられるData&AI領域の少し先の市場・技術トレンドを全部乗せしたような形で且つ、強くて速い開発力を非常に感じました。

今後、企業に求められるのは、AIを前提としたBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が重要になってくると確信しております。

データとAIを事業成果につなげる本質は、AIを導入することそのものではありません。企業固有の業務文脈をAIが正しく理解し、人とAIが協働して、より良い判断を積み重ねられる状態を作ることにあります。私たちも、データとAIを単なる技術導入で終わらせず、企業の業務や意思決定の変化につなげるための取り組みを、より一層深めていきたいと考えています。

最後は今回のDAISでの戦利品を掲載して、締めさせていただきます!

DAISでの戦利品