日本マイクロソフトは、2026年5月28日、Java開発者向けのイベント「Microsoft Java Day 2026」をオンライン開催した。
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同社は2021年から毎年、Javaに特化したイベントを開催しており、今回で6年目。今年のテーマは「AI Driven DevからAgentic Devへ」。AIエージェントが“チームメイト”になる時代に向けた、Java開発の最前線が凝縮された内容になった。
本記事では、Java開発におけるAI活用の“3つのステージ”について語られた基調講演と、ULSコンサルティングの漆原茂氏がゲスト登壇したパネルディスカッションの様子をレポートする。
AI駆動開発によりたった“2週間”で構築されたモダンECサイト
基調講演の冒頭、Microsoftの寺田佳央氏より紹介されたのが、Javaで構築された「スキー用品のECサイト」だ。
現代のECサイトで必要となる機能を網羅しつつ、AI機能も充実する。管理者向けには、売上予測や在庫の滞留、ビジネス機会を提示するAI分析機能を提供。顧客向けには、自然言語で相談すると、スキー場の場所やスキルレベル、予算、在庫などを考慮して最適な商品を提案し、カートへの自動追加まで行う「AIアドバイザー機能」をマルチエージェントで実装している。
このECサイトは、寺田氏自らがAzure Kubernetes Service(AKS)上でマイクロサービスとして構築したもので、そのまま納品できるほどの完成度を誇る。従来であれば複数人で半年以上構築に要する規模のアプリケーションだが、AI駆動開発によって「たった一人で、2週間前後」で実装された。
こうした実例を示しつつ、寺田氏は参加者に向け、「GitHub Copilotを使いこなせてますか?」と問いかける。「今は、コード補完にとどまらず、エージェントを自走させて開発できるレベル。ただAIを『チームメイト』として融合するには、事前準備も必要」と強調した。
AIと一緒に作る「ステージ1」 GitHub Copilotの進化
寺田氏は、冒頭披露したエージェンティックなアプリケーションの開発や、もしくはAI駆動開発を実践していく上で、Java開発者には“3つのステージ”が存在すると言う。
最初のステージは、「AIと一緒に作る」だ。前述のよう、AIが開発のあらゆる面で“チームメイト”になってくれる世界であり、GitHub Copilotでいえば、コード生成や補完はもちろん、テスト自動作成や、自然言語による複数ファイルの一括編集まで任せられるまでに進化を遂げている。
古いJavaアプリケーションを近代化するためには、「App Modernization」の拡張機能も用意されている。「例えば、20年前に主流だったJava 5やStrutsのアプリケーションも、Java 21やSpring Bootへ自動マイグレーションできる。古いままでは、パフォーマンスの向上も望めず、モダンなUIやAI機能などを実装し、運用管理を効率化することも新たなユーザー体験を届けることも難しい」(寺田氏)
他にも、Javaアプリケーションにエージェントを組み込むための開発キット「GitHub Copilot SDK for Java」やAIが自動的にブレークポイントを設定してデバッグまでこなすEclipse版の「Debug Agent」もパブリックプレビューで展開中だ。
しかし、単にLLMを活用するだけでは、複数人が関わるプロジェクトで品質を担保するのは難しい。「それぞれ違うAIを使って、バラバラの回答を得ている状況では、ひとつのアプリケーションとして統合できない」と寺田氏。
寺田氏は、こうした壁を乗り越えるために、カスタムエージェントやAGENTS.md、custom_instruction.md、SKILLSなどをチームで共有して、コードの品質を均一化することが重要だと訴えた。
AIを組み込む「ステージ2」とAIが自律的に働く「ステージ3」
2つ目のステージが「AIをアプリに組み込む」だ。Spring Boot環境に生成AIを組み込むフレームワーク 「Spring AI」やベクトル検索や会話メモリ、トランザクション管理にも対応できる「Azure OpenAI Service+Cosmos DB」などを活用して、実際にJavaアプリケーションにAI機能を実装していく世界だ。
1800以上のAIモデルをデプロイできるのが、AIアプリケーション開発のための統合開発基盤「Microsoft Foundry」だ。モデル選びから運用までをひとつのポータルで完結。冒頭のECサイトも、同基盤で、AI機能のタスクに応じた最適なモデルを利用している。
そして、3つ目のステージが「エージェントの“頭の中”」だ。AIが自律的に動くよう設計する最終段階である。
AIは、「Planner(タスク分割・実行計画)」や「Tools(外部API・DB呼び出し)」、「Memory(会話や状態保持)」、「Retriever(関連情報の取得)」、「Loop(結果の評価と次の実行計画)」、さらには外部ツールと接続するための「MCP統合」といった機能を持たせることで、自ら判断して行動できるようになる。
今回のECサイトでは、前述のSpring AIによって、エージェントの協調を制御する“Orchestrator”をはじめ、ユーザーの意図を汲みとって商品を検索する“Search Agent”、購入フローを管理しておすすめを提案する“Cart Agent”、リアルタイムで在庫状況を判断する“Inventory Agent”といったマルチエージェントを編成している。
こうしたエージェントの実行基盤として、ECサイトにはAzure Kubernetes Service(AKS)が利用されているが、Azureには他にも「Azure Container Apps」や「App Service」といったデプロイの選択肢もある。「直近では、『AKS Agent Skills for GitHub Copilot』も登場しており、Azureに熟知をしていなくても、AIの対話を通じて簡単に環境構築ができる」と寺田氏。
さらに、デプロイ後の運用フェーズもAIが支える。例えば「Azure DevOps MCP Server」によって、エージェントがワークアイテムやPR、パイプラインに直接アクセスできるようになり、障害対応まで自動化することが可能だ。「開発からデプロイ、運用までのライフサイクル全体でAIを活用することで、今回、2週間で本番環境に近いクオリティのアプリケーションを届けられた」(寺田氏)
基調講演の最後に寺田氏は、「Javaは30年経っても、まだまだ進化している」と語る。「色々な領域からAI活用をスタートできるので、ぜひ充実したAIツールを活用して、アプリケーション開発もしくはアプリケーションそのものをより良くしていって欲しい」とJava開発者にエールを送った。
“ハーネス”や“ガードレール”が必須なAIとの大規模開発
Microsoft Java Day 2026の締めくくりでは、Microsoftの寺田氏とULSコンサルティングの取締役会長である漆原氏によるパネルディスカッションが繰り広げられた。
最初のテーマが「AI駆動開発の現状と今後」だ。
漆原氏は、この1年でAIエージェント化が急速に進み、生成されるコードの質が「文句の言いようがないレベル」にまで向上したと指摘。さらに、AIによるパラダイムシフトの波が最も早く到来した領域が「ソフトウェア開発」だったと振り返った。「ソフトウェアエンジニアリングは体系化され、アウトプットも明確なため、AI・エージェント化しやすい」と漆原氏。
このようにAIの進化が著しい一方で、エンタープライズ領域のシステム開発に携わる漆原氏が強調したのが、「勝手にやらせすぎない」という姿勢で、寺田氏も強く同意した。鍵を握るのが、「ハーネス(手綱)エンジニアリング」であり、人間が道しるべや制限ポイントを設けることが、安心・安全かつ品質を担保する大前提になるという。
加えて寺田氏は、AIの成果物に対して、間違いや漏れがないかをチェックさせる工程を必ず組み込んでいると言及。漆原氏も「AIを“盲信しない”のが重要で、信じきると思考能力が低下してしまう。必要に応じてAIを複数使う、批判的に使うことがポイント」と返した。
なお、両名ともに「バイブコーディング」はまだ現実的ではないという感覚で、「再現性がなく、宝くじを引くような作り方。すべてバイブでやりきるのは抵抗がある」と寺田氏。一方の漆原氏も、「ビジネスサイドの人がクイックに検証するには最適だが、本格的な開発にはエンジニアを揃えるべき。ハーネスやガードレールを整備した上で、バイブ的な開発を取り入れることを薦める」と語った。
AI駆動開発時代には“良いチーム”が“良いもの”を作る
2つ目のテーマは「企業におけるAI人材育成」だ。
漆原氏は、従来の「人月ベース」で大人数を投入する開発スタイルは終焉を迎え、かなりの規模の開発も「数人の“わかっている”人間が回す」ようになると予測する。つまり、今後高まっていくのが開発者一人ひとりの価値だ。一方で、「言われたままに作ってきた開発者」「全体を見てこなかった開発者」は苦しむことになるという。
「AI時代でも、一人の開発者が全部を抱え込むことはない。得意な分野を持つことに加えて、ビジネスサイドの意図を汲みとる対話スキルや、強いチームを作り上げる力などが、これから要求されるスキルセット」(漆原氏)
同じように、AI人材育成のポイントも「チーム」にあるという。漆原氏は、AI駆動開発時代には必要なのは数ではなくチームワークであり、「それぞれ得意な領域を持つ開発者がひとつのゴールに向かって歩み寄りながら進んでいく」形こそが理想だとする。
「AIは人の力が増幅されるだけのもの。だからこそ、チームのパッションが高ければエモいものができ、逆に冷え切った信頼関係のないチームでは、いくらAI駆動開発のツール入れても良いものが生まれない」(漆原氏)
また、寺田氏からは、24時間眠らないAIにつられて人が働きすぎてしまう「AI疲れ」や「AI中毒」への懸念も示された。そのため、個人を追い込まないようチームのゴールを共有し、健全なリスペクトを持って働ける環境づくりが重要であり、それはAIには任せられない領域である。
では、これからのチームにおいて、まだ経験が乏しい若手の開発者はどう成長できるのか。漆原氏は、「AIを使いこなすという一点においては、皆スタートライン。むしろ若い世代のほうが自在に使いこなせるため、チャンスが巡ってくる」と強調する。
ただし、AIをブラックボックス的に利用すると思考力が低下してしまうため、「シニア開発者は自身の意思決定を言語化する義務、若手開発者はそれを聞く義務」があるという。
ディスカッションの最後、漆原氏は、「エンジニアがいよいよ光り輝ける時代が到来している。AIを恐れることなく楽しみ、ビジネスサイドを驚かせるような最高の仕事をしましょう」と、イベントを締めくくった。