【特別寄稿】 生成AIを活用して生まれた、現場のニーズを解決する農薬検索システム「ACFinder Browser Edition」の使い方 | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」

農薬を使用する上で、正しい情報を把握・管理することは、すべての生産者にとって必要なことです。農薬メーカーの情報はもちろん、メーカーを超えて同じ作物や用途に合わせた農薬を検索できるシステムもあります。

ただ、既存の農薬検索システムは、正確な情報を検索する側にも知識が必要とされ、あいまいな情報やうろ覚えな知識をシステム側が吸収してくれるような柔軟性は持ち合わせていませんでした。薬剤の名称や対象作物など、名称が少しでも間違ったり、品種名まではわからないときに調べようとすると、かえってやりにくい面もありました。

そういった悩みに対して、現場のニーズと利便性を満たすべく、大阪府 環境農林水産部 農政室推進課 病害虫防除グループの小林彰一さんらが独自に開発したのが、農薬検索システム「ACFinder Browser Edition」 です。
「ACFinderBE」の画面。環境を問わずウェブブラウザーから利用できる
特別なソフトやハードを購入する必要なく、インターネットにつながっている端末からであれば、ウェブブラウザーを介していつでもどこでも検索でき、エクセルなどへのデータ書き出しや印刷にも対応。プログラムのソースコード自体もオープンソースソフトウェアとして、「MITライセンス」に基づき公開されています。

今回は、そんなシステムを開発した小林さんから「ACFinder Browser Edition」の使い方や特徴に関する紹介記事をご寄稿いただきました。ぜひ読者の皆様に役立てていただければ幸いです。

はじめに
現代の農業生産現場において、農薬は欠かすことのできない重要な資材の1つであり、その使用にあたっては農林水産省の農薬登録に従う必要があります。

農薬再評価制度の導入に伴う登録内容の頻繁な変更や、作用機構(RACコード)に基づく抵抗性管理など、取り扱うべき農薬情報は高度化・複雑化しています。

これに伴い、普及指導員や農協営農指導員、指導農業士といった現場の専門家には、これまで以上に正確かつ迅速な情報提供が求められており、情報のミスマッチによる法令・コンプライアンス違反のリスクも増大しています。

農薬登録情報の検索については、農林水産省が運営する「農薬登録情報提供システム」を始めとして、多くのデータベースが運用されていますが、 その多くが単なる条件絞り込み方式です。

そのため、検索結果を人力で転記し資料化する二次作業が必要になることや、転記ミスを防ぐために複数人によるチェックが欠かせないことなどが、技術資料作成の際の大きな負担となっていました。

それらの課題を解決するため、筆者らは府県病害虫防除所の実務を通じて得られた知見を生かし、「ACFinder Browser Edition」(以下、「ACFinderBE」)を開発しました。本稿ではその特徴について概説します。

農薬検索実務の課題・開発の背景
都道府県病害虫防除所が作成する病害虫防除指針や、JAや農業改良普及センターが作成する農業技術資料、農産物直売所での農薬使用履歴様式などには、農薬の具体的名称や対象病害虫名、使用時期、希釈倍数、毒劇物の種類、RACコードなどの情報が記載されています。

これらの資料は病害虫防除所職員、JAの営農指導員、都道府県の普及指導員等が作成していますが、農薬情報については年間36回程度の頻繁なデータ更新がなされており、10万レコードの登録情報のどこが変更になったのかを把握することは、専門家であっても容易ではありません。

農林水産省農薬データベースなどを参照し、最新の登録情報を踏まえて作業を行う必要がありますが、それらのデータベースは上位・下位の作物群の関係性や、「〇〇を含む」「〇〇を除く」など農薬登録特有の条件設定に十分対応できません。

また、一般の農薬検索サービスで得られる結果には農薬登録情報の全内容が記載されており、前述のとおり手作業による編集加工の作業を踏む必要があるため、作業中に人為ミスが発生するリスクがあります。ミスを防ぐためにトリプルチェックを行うなどの対策が必要となり、大きな負担となっていました。

このように農薬登録情報が複雑高度化するなかで、効率的に農薬登録情報を入手・加工する技術が求められています。

そこで、農業現場の指導者(都道府県普及指導員、JA営農指導員)や、農業生産法人の農薬管理責任者を主なユーザーとし、スマホやPCブラウザから簡単な操作で最新の農薬登録情報を入手し、資料作成や時点修正の負担を軽減するためのシステム開発を進めました。

「ACFinderBE」の特徴と技術的優位性
「ACFinderBE」は、それまで20年以上運用されてきたWindows版農薬検索アプリケーションソフト「ACFinder」の後継として開発されました。

長年の運用で改善を積み重ね、操作性の良さ、表記の揺れへの柔軟な対応、SQL言語による高度な検索条件設定や結果出力を利用することができます。

これらの機能や操作性は「ACFinderBE」にも継承されています。

たとえば、先に指摘した上位・下位の作物群の整合性については、「ACFinderBE」では「ぶどう(巨峰系4倍体品種)」を作物名のキーワードに設定して検索した場合、上位作物群である「大粒種ぶどう」や「ぶどう」だけでなく、「ぶどう(ピオーネ)」「ぶどう(ふくしずく)」など下位の個別品種まですべて検索可能です。

逆に「ぶどう(巨峰)」を選択した場合は「ぶどう(巨峰(施設栽培))」は検索されますが、「ぶどう(ピオーネ)」は検索対象としないなど、正しい検索を実現しています。

1.多様な機種で動作可能
「ACFinderBE」はHTML5準拠のブラウザで動作するよう設計されています。Microsoft Edge、Google Chrome、Apple Safariなど、現在の一般的なブラウザで使用できます。

また、スマホやタブレットなど解像度の低いモバイル端末においては、タッチ操作に特化した専用画面に自動的に切り替わり、文字入力を極力減らす操作が可能です。

ブラウザから表1の設置場所URLのいずれかを開くと、ブラウザ内に最新の農薬登録データが転送され、PC等の大画面横置き状態では「デスクトップ(DT)モード」(図1)、スマホ等の小画面縦置き状態では「モバイル(Mobile)モード」(図2)のトップ画面が表示されます。

利用に際して、事前にインストール作業などは一切必要ありません。

「ACFinderBE」設置場所一覧

図1 ACFinderBE(DTモード)の動作画面

図2 ACFinderBE(Mobileモード)の動作画面

2.表記振れへの柔軟な対応
農薬名は独特の言い回しで発音しにくい場合があり、「アファーム乳剤」を「あはーむ」、「アディオン乳剤」を「あじおん」と発音するなど、高齢の農業者の言い間違いや聞き違いは農業現場でしばしば起こります。

これらの表記の揺れに対応し、薬剤候補名に含めるなどの柔軟な候補選定を実装することで、操作性を向上させています。

作物名についても、作物分類表に記載されたすべての作物名とその上位・下位の作物群の関係を定義しています。
例えば、大阪府のオリジナル品種の愛称である「にじのしずく」で検索すると、種苗登録での正式な品種名である「ぶどう(ポンタ)」がヒットするなど、単なる文字列の照合ではなく、正しい作物名を選択できるように実装されています(図3、4)。

図3 農薬名の振れへの対応

図4 作物名および品種名の対応の様子

3.機能ごとの高度な検索画面を実装
「ACFinderBE」は、機能をメニューから選択すると専用のタブ画面が開き、その中で作業を行います。作物名、農薬名、病害虫名など、一般的な農薬検索の条件入力型検索にとどまらず、利用者が任意のSQL(Structured Query Language)を作成して実行できるなど、動的なデータプラットフォームとして設計されている点も特徴です。

以下で主要なタブの機能を解説します。

「作物」タブ

「作物」タブは、作物名を指定して該当する農薬を検索するもので、上位の作物群を自動的に検索対象として認識することが特徴です。

また、「トマト」をキーワードとした場合に「ミニトマト」や「野菜類(トマトを除く)」などがヒットしないよう、単純な文字列検索ではなく、含む作物と除く作物の判定辞書を内部で作成して検索に用いることで利便性を高めています。
厳密に「トマト」のみを検索したい場合は、「:トマト:」とコロンで囲むことで、トマトに使用可能な農薬のみがヒットします(図5)。

図5 作物名指定方法による検索結果の違い

トマトにチェックが入った状態から、さらに病害虫名との複合検索を行うこともできます。

例えば「トマト」で「葉かび病」「すすかび病」の両方に登録のある農薬を絞り込むことができ、現場で診断に迷った場合に両方の病気に登録のある薬剤だけを一回の検索操作で確認できるなど、他に類を見ない高度な検索が可能です。

「薬剤」タブ

薬剤タブでは、農薬名、成分名、RACコード、系統名、メーカー名、作用点などによるキーワード検索を行うことができます。農薬名をクリックすると、該当する剤の登録情報が表示されます。

この表はさらに行の絞り込みや列の非表示なども実行できるため、必要な作物で必要な登録内容だけに情報を絞り込んで表示させたり、その情報をクリップボード経由で他のソフトに貼り付けたり、簡易印刷して相手に渡したりするという使い方も可能です。

これにより、人力による転記ミスの可能性を減らし、ミニトマトの生産者にトマトの農薬登録まで渡してしまって誤使用を招く、といったトラブルを回避できます(図6)。


図6 薬剤タブの標準的出力と項目を絞り込んだ印刷プレビュー

「SQL」タブ

「ACFinderBE」には、作用機構(RACコード)の重複チェックや収穫前日数による多重フィルタリングなど、人手では膨大な時間を要する複雑な論理演算を自動化し、抽出結果をそのまま防除暦の策定や営農指導資料の基礎データとして整形出力できる機能が実装されています。

特に本システムの「SQLタブ」では、利用者がSQLタブ単体で独自の定型処理を作成・実行することが可能です。

図7は、大阪府農作物病害虫防除指針の紙面と「ACFinderBE」での検索結果画面の対比です。紙面とほぼ同じ検索結果が得られることで、チェックする作業効率が4倍程度向上したという効果がありました。

図7 ACFinderBEのSQL検索結果と大阪府農作物病害虫防除指針の紙面の対比

4.検索結果の加工と出力
検索結果からさらに条件絞り込みや列の非表示などの簡易編集が可能であり、絞り込んだデータをそのまま印刷することもできます。そのため、「ACFinderBE」単体で必要最小限の農薬資料として農業者等に配布可能です。

検索結果の出力については、クリップボード、CSVファイル保存、EXCELファイル保存、簡易印刷が選択でき、他のソフトとの連携も容易です。

5.タブ単位でユーザーが機能を追加できる拡張性
「ACFinderBE」は、タブ単位で機能が実装されており、作物、病害虫、薬剤などの基本機能のタブが用意されていますが、防除計画や農薬病害虫対応表、飼料用稲・籾米使用可能薬剤検索など、特定機能に特化したタブも備えています。さらに、HTMLとJavaScriptでプログラムを書くことで、ユーザーが独自にタブを追加できるよう設計されています(図8)。

図8 メニューの「ローカル」から自作タブファイルを呼び出すことで独自機能を追加可能

6.オフライン実行機能
「ACFinderBE」は、オンライン状態でDTまたはMobileのトップページを一度表示すると、モードに関わらずすべてのプログラムコードやデータベースファイルを保存してブラウザから呼び出せるようになっています。これにより通信途絶状態でも農薬検索機能をすべて利用でき、従来のWEBアプリとは一線を画する柔軟な運用を可能にしています。(図9)

図9 通信途絶状態での動作の様子

7.プログラムコードの完全公開と改変許諾
独自開発されたシステムはプログラムコードが公開されない、もしくは公開されていても改変が禁止される場合があります。しかし、「ACFinderBE」については「MITライセンス」に基づきプログラムコードが全面公開されていますので、そのような心配はありません。

「MITライセンス」は、マサチューセッツ工科大学(MIT)を起源とする非常に自由度の高いオープンソースソフトウェア(OSS)のライセンスで、商用・非商用問わず無償で改変や再配布、販売も可能です。利用の際の条件として、著作権表示とライセンス全文(またはURL)の記載が必須となります。なお、「MITライセンス」で公開されたプログラムについて、作者は無保証・免責となります。

「ACFinderBE」の機能を取り込んだシステムの開発や、営利サービスの運営なども可能です。例えば、農薬履歴記帳のアプリに「ACFinderBE」の機能を実装し、いつでも正確な薬剤辞書の参照を実現することなどが考えられます。

なお、利用に際しては使用上の注意事項及び利用規約を遵守し、本サービスを構成する一連の農薬データ統合処理システム(MacsDB) の保守管理に関与することが求められます。利用規約内にメンテナンスへの協力4項目が示されていますので、利用者は不具合報告、コード提供、分室開設など各自可能な範囲でご協力をお願いします。

生成AIを活用した開発の平易化と共創への呼びかけ
「ACFinderBE」は、プログラム作成にあたって生成AIを積極的に活用し、約6カ月で実用レベルのシステム構築に至りました。

植物防疫分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の真の価値は、単一のツール導入にとどまらず、正確な情報が官民の枠を超えて円滑に循環するエコシステムの構築にあると考えています。

「ACFinderBE」およびそのデータ基盤となるMacsDBは、これまで有志によるボランティア活動を通じて、現場の意思決定を支援するインフラを無償で提供してきました。

本システムの開発において、IT技術的観点から最も強調すべき点は、コーディングに生成AIを活用することで、開発期間を大幅に短縮できたという点です。

特に、HTML、CSS、JavaScript、SQLなど開発言語が多岐にわたる農薬データベースWEBアプリ開発において、AIの活用は開発効率を飛躍的に高めることができました。

そのため、多様な言語のプログラミングであっても、非エンジニアが比較的容易に開発に参加できる環境が整いつつあると感じています。

さらに、本システムの開発・実行環境は、誰もが日常的に使用しているウェブブラウザーそのものです。メモ帳などのテキストエディタでプログラムを書き、保存したプログラムをブラウザで開けば実行できます。

システム開発の敷居はかつてないほど低くなっており、例えば現場のニーズに合わせた「防除計画」などの新たなタブを自作して追加することも、一般の利用者に十分可能です。

現在の「ACFinderBE」には実装されていない機能であっても、現場で「やりたいこと」があれば、自らの手で拡張・実現できる時代が到来しているといえます。

おわりに
情報の正確性と機動性がかつてないほど重要視される現代の農業において、公的な登録情報を尊重しつつ、それを現場の論理演算に適合する形式へ再構築する試みは、農業DXの基盤として先駆的な取り組みです。

特定の企業やサービスに依存せず、汎用的な形式でデータを維持・公開し続けることは、日本の農業界全体における情報の透明性を高め、持続可能な防除体系の構築を支援する共有財産として価値ある取り組みといえます。

MITライセンスに基づく「ACFinderBE」は、改変、再配布が自由に行えることから、本稿が他の情報研究プロジェクト等への一助となることを希望します。

「ACFinderBE」の利用については、ユーザーサポート(Facebookグループ:農薬検索研究会fb)において開発スタッフが対応していますので、利用方法や共同開発などについてご希望がある場合はお気軽にお問い合わせください。

本稿が、普及指導、行政、研究、そして民間技術開発の各分野をつなぐ一助となり、官民の知恵を結集させた強靭な情報プラットフォームの確立に寄与し、正しい情報を滞りなく現場に届ける役割を担えれば幸いです。

協力:
埼玉県病害虫防除所 大宅秀史氏
元秋田県普及指導員 阿部浩氏

参考資料:
独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC):「農薬登録情報ダウンロード」.
農林水産省:「農薬登録情報提供システム」.
農薬検索研究会fb(ACFinder等サポート用FACEBOOKグループ)