喉の画像分析を起点に医療のAI化に挑む:アイリス──AIで健康に革新をもたらす12の企業 | WIRED.jp

AIをこう使う:
→画像解析解決すること:
→痛みを伴う感染症検査実現すること:
→喉の撮影だけで短時間で判定

医師が患者の喉を診る行為は、体温の測定や胸の聴診と並ぶ最も基本的な「診察の基本動作」として、古代医学の時代から変わらず受け継がれてきたという。しかし、喉に現れる所見のパターンは病原体ごとに異なり、そこには膨大な情報が眠っている。その情報を人工知能(AI)で読み解こうとしているのが、沖山翔が率いるアイリスである。

喉の画像分析を起点に医療のAI化に挑む:アイリス──AIで健康に革新をもたらす12の企業

ILLUSTRATION: CHESTER HOLME

アイリスが開発したシステム「nodoca(ノドカ)」は、カメラを搭載した小型デバイスで撮影した咽頭の画像と問診情報などをAIで解析し、インフルエンザの判定結果を十数秒で出す医療機器だ。従来のように鼻の奥まで綿棒を入れて鼻腔拭い液を採取する「患者が痛みを感じやすい検査」が不要で、しかも発症の早い段階でも検査できる。

2022年にはAIを搭載した医療機器として日本で初めて「新医療機器」の承認を得て保険適用され、現在は国内2,000以上の医療施設に導入されている。25年10月には新型コロナウイルス感染症に関する機能も追加承認された。

創業者で最高経営責任者(CEO)の沖山は救急医出身で、離島医療の経験もある。人口数百人の島では医療機器は聴診器くらいしかなく、自分の目と耳を頼りに診療にあたったという。「医療AIというと診断を下す部分に使われると思われがちですが、データを取得するセンシングにこそ差別化の要素がある。わたしたちはハードウェアを自社で開発し、誰も手をつけていなかった咽頭画像という領域に踏み込んだのです」

17年の創業当時、喉の医療AIには教師データが存在しなかった。そこで沖山は専用カメラを約100カ所の医療施設に貸し出し、患者の同意を得ながら約3年かけてデータを収集した。ハードウェアの開発、教師データの収集、そしてAIによる診断支援が本当に成立するかという3つの不確実性を乗り越え、実用化の道を開いていったのだ。

こうしてnodocaの製品化を実現した後、その精度は加速度的に高まっていった。臨床現場で使われるたびに匿名加工されたデータが蓄積され、発売前に数十万枚だった喉の画像はいまや数百万枚以上に達している。このネットワーク効果が競合の参入障壁となり、同じ領域に後発は現れていない。

nodocaの可能性は感染症にとどまらない。喉の画像には粘膜や血管のパターンが写り込んでおり、その状態の変化から糖尿病や高血圧などの生活習慣病を検出するAIの研究開発も進めている。「1枚の喉の写真から網羅的にさまざまな検査が実現する時代が、10年後くらいには訪れると思います。AIの推論コストは極めて安価なので、検査項目を増やしても原価はほとんど変わりませんから」と、沖山は期待する。

nodoca

アイリスが開発したシステム「nodoca(ノドカ)」は、カメラを搭載した小型デバイスで撮影した咽頭の画像と問診情報などをAIで解析し、インフルエンザの判定結果を十数秒で出す医療機器だ。

PHOTOGRAPH: YIKIN HYO医療の“再設計”という目標

さらにその先、沖山はAIを軸に医療そのものを“再設計”できないかと考えている。いまはすでにAIによる問診やオンライン診療が実現し、そのうえでかかりつけ医による対面での診療や専門病院での治療に進む流れが広がっている。将来的にそうしたすべての段階にAIが実装された医療の姿を、沖山は思い描いているのだ。