Google が構築するAIショッピングカートは消費者の信頼を勝ち取れるか | DIGIDAY[日本版]

記事のポイント

Googleは検索やGemini、YouTubeなどを横断して利用できるAI搭載のユニバーサル・カートを発表した。

価格追跡や再入荷通知、互換性チェックを備え、AIが買い物体験を一元管理するハブをめざしている。

小売業者の顧客接点や自社サイト流入の減少を懸念する声もあり、普及のカギは消費者からの信頼にあるとみている。

Googleは、未来の定番となるAI搭載型ショッピングカートを構築しようとしている。だが、買い物客がそれを受け入れるかどうかは別の問題だ。

ユニバーサルカートの仕組みと提供時期

5月、Google I/Oにおいて、Googleはユニバーサル・カート(Universal Cart)を発表した。これは、複数の販売業者やGoogle検索、Gemini、YouTube、Gmailといったサービスをまたいで機能する、AI機能を備えたショッピングカートだ。

買い物客がいったん商品をカートに追加すると、カートはお得な情報や値下げを追跡して価格の履歴に関する情報を提供し、商品が再入荷した際にユーザーへ通知する。また、カート内の特定の商品同士に互換性がない場合は警告を発し、代替品を提案する機能も備えている。

このカートの提供が始まれば、買い物客はGoogle検索で見つけた商品リストからだけでなく、Geminiとのチャット中、YouTubeの視聴中、あるいはGmailでメールを読んでいる最中であっても、その場でカートに商品を追加できるようになる。決済はGoogle Payで完結させることも、事業者のWebサイトに商品を移行して購入手続きを完了させることも可能だ。

ユニバーサル・カートは、2026年の夏に米国のGoogle検索とGeminiで先行して提供が開始され、YouTubeとGmailにはその後順次導入される予定である。

「いま、ほとんどの人々は複数のデバイスや小売業者をまたいで、しかも数日間にわたって買い物をしている」と、Google消費者ショッピングプロダクト担当シニアディレクターのスレシュ・ガナパシー氏はメールで述べた。

「購入したい商品を見つけたあとも、それが本当にお得かどうかを確認するために、さらにいくつかのリサーチ工程を踏むのが現状だ。複数の事業者やGoogleの各種サービスを横断して機能するユニバーサル・カートは、このように細切れになった買い物体験を、AIエージェント機能を備えたひとつの中心拠点(ハブ)で一元管理する手段を買い物客に提供する」。

Googleは「仲介役であってマーケットプレイスではない」

Googleは、先行するChatGPT、Claude、OpenAIと同様に、ますます多くの消費者が買い物の手助けにAIを使いたがるようになると考えている。だが、OpenAIがChatGPTのインスタントチェックアウト(Instant Checkout)を打ち切ったことが示すように、多くの買い物客は依然として小売業者独自のWebサイトを通じて決済することを好んでいる。

買い物客が、この新しいAI搭載カートを、Googleが長期的に投資を続けるのに十分なほど大規模に採用するかどうかは、まだわからない。一部のeコマースやテクノロジー業界の幹部は、ユニバーサル・カートが小売業者独自の自社プラットフォームへの投資と競合する可能性もあると警告した。

買い物客が自社の商品をユニバーサル・カートに追加できるようにするために、小売業者がしなければならないことは何もない、とガナパシー氏は述べた。

Google上でよりシームレスな決済体験を望むなら、ユニバーサルコマースプロトコル(Universal Commerce Protocol)と統合することができる。これは、Googleが2026年初めに開発したAIショッピング向けのオープンスタンダードだ。無料で、どの小売業者でも自由に利用できる。

あるニュースリリースのなかで、Googleは、これらの決済機能に対応する小売業者として、ナイキ(Nike)、セフォラ(Sephora)、ターゲット(Target)、アルタ・ビューティー(Ulta Beauty)、ウォルマート、ウェイフェア(Wayfair)、そしてShopifyの販売業者であるフェンティ(Fenty)とスティーブ・マデン(Steve Madden)を挙げた。

販売業者は、カート内で決済を有効にすることもできるし、あるいは買い物客に、自社サイト上のあらかじめ商品が入ったカートへ商品を移す選択肢を与えることもできる。ガナパシー氏によると、一部の業者は両方の方法に対応することを選んでいる。

Googleがコマースに踏み込む度合いは、あくまで一定の範囲にとどまる。ガナパシー氏は、「Googleはマーケットプレイスではなく、仲介役(マッチメーカー)だ」と述べた。たとえ決済がユニバーサル・カート内で行われたとしても、販売業者が引き続きセラーオブレコード(正規の販売者)であり続ける。

「エージェント型コマースの時代には、人々はどこででも買い物をしたいと思うようになる。そして、彼らがGoogle上でそうすることを選んだとき、我々はそれをできるかぎり簡単にしたい」とガナパシー氏は述べた。

「我々は、顧客がどこにいようとも、販売業者が一貫した買い物体験を生み出す手助けとなるエージェント型AIの構成要素を築いている。そのすべてが、販売業者がすでに信頼しているツールによって動いている」。

なお、Googleには、購入から手数料を取る計画はない。いまのところ、我々は有用で前向きなユーザー体験と小売業者体験を確実なものにすることに集中している、とガナパシー氏は付け加えた。

小売各社のサイト離れという懸念

eコマース分析プラットフォームのウェイヴィア(Wayvia)の共同創業者兼CEOであるアンソニー・フェリー氏は、ユニバーサル・カートが小売業者自身のWebサイトへのトラフィックを減らしかねないと考えていると述べた。

同氏は、これが取引全体を自動で処理できる買い物体験へと進化した場合、このリスクは高まりうると述べた。そうした体験では、顧客がテクノロジー企業やGoogleのパーソナルアシスタントに、牛乳やトイレットペーパーが必要だと伝えると、それが代わりに買いに行ってくれるという。

これに対応して、小売業者は「買い物客のロイヤルティを構築するもの」、たとえばロイヤルティプログラムへの「投資をはじめるだろう」と同氏は考えている。

「小売業者は、なぜ自分のサイトに来る必要があるのか、なぜGoogleにその仕上げを任せるのではなく自分のサイトで取引する必要があるのか、という説得力のある価値提案を本当に打ち出さなければならない」。

小売業者やブランド向けにメール、SMS、モバイルアプリのメッセージを自動化する企業、コーディアル(Cordial)のプレジデント兼最高プロダクト・エンジニアリング責任者であるマット・ハウランド氏は、ユニバーサル・カートが小売業者の、パーソナライズされたレベルで顧客に商品を販売する能力を制限するだろうと考えている。それは、Googleが関係を維持することを難しくしかねない。

「AI分野において、ローンチ時のパートナーを見つけるのは驚くほど簡単だ。しかし、後続のパートナーを獲得することは、いつだって難しい」と同氏は述べた。

なお、ユニバーサル・カートは、Google Wallet上に構築されているため、小売業者のロイヤルティプログラムのほか、販売業者の特典やクレジットカードの優待にも対応している。

普及のカギは「信頼」にある

フェリー氏は、Googleはこの分野に数十年携わってきてオンラインショッピングのデータへのアクセスがはるかに多いため、ユニバーサル・カートやほかの買い物機能を広く普及させる点で、ほかのAI企業よりも勝算があると述べた。

それでも、ユニバーサルカートは現在のところGoogleのエコシステム内のサービスを通じてしか利用できないことを踏まえると、どこまで大きく成長できるかという点で、すでに制約を受けている。

AI、音声技術、AR、VRを活用した顧客体験を生み出すためにブランドや幹部と協働する研究開発企業、M7・イノベーションズ(M7 Innovations)の創業者であるマット・マー氏は、顧客がお得な情報を求めてGoogleのカートを定期的に確認したり、長期間が経ったあとに取引を完了させるためにそこへ戻ってきたりするとは考えていないと述べた。同氏は、そうした行動が見られるのはAmazonだけ、あるいはせいぜいウォルマートとターゲットくらいだと述べた。

不正防止に注力するテクノロジー企業、フォーター(Forter)の最高マーケティング責任者であるジェイソン・グランバーグ氏は、ユニバーサル・カートをGoogleによる実験だと捉えており、だからこそ、それが同社のエコシステムに限定されているのは理にかなっていると述べた。

同氏は、消費者がGoogleのエコシステム専用のものを使うかどうかを疑問視しており、より大きな普及を実現するにはGoogleがそれを変更しなければならないかもしれないと述べた。

グルンバーグ氏は、GoogleがOpenAIのような新興勢力ではなく、すでに強固な地位を築いているテック大手であるため、今回のケースや、将来的に顧客に代わって商品を購入する可能性のある「自律型(エージェント型)AI」の活用において、信頼性の面でほかのAIプラットフォームよりも優位に立っていると指摘する。

それは、小売店側がショッピング体験の一部をAIエージェントに委ねることを信頼できるかという点と、買い物客側が、たとえば問題なく返品手続きができると信頼できるかという点の両方においてである。

「この分野で実験的な試みを行うことを消費者から許されている組織はどこなのか、という構図が今後明らかになっていくだろう。それは十中八九、消費者が非常に親しみを感じているおなじみの企業名になるはずだ」とグルンバーグ氏は述べている。

[原文:Google’s Universal Cart will soon be available to Walmart, Target shoppers — getting their buy-in may be the hard part]

Mitchell Parton(翻訳、編集:藏西隆介)
Image/YouTube : Google