記事のポイント
Googleは複数のサービスを横断する「ユニバーサルカート」を発表し、商品の発見から購入までを自社プラットフォーム内で完結させる動きを強めている
Amazonやメタ、TikTokなど競合各社もAIによるコマース機能を強化しており、プラットフォームによる消費者の意思決定を管理する主導権争いが激化している
AIによる購買データへのアクセスや扱いに不安を感じる消費者は多く、プラットフォーム各社にとって信頼の獲得がエージェント型コマース普及への最大のハードルだ
ここ最近、Googleから立て続けに出されるコマース戦略の発表を見る限り、その狙いは、商品の発見から購入に至る一連の購買行動を、自社のプラットフォーム内で完結させることのようだ。
5月20日、Googleは「ユニバーサルカート(Universal Cart)」を発表した。GeminiやGoogle検索を含め、複数のサービスを横断して利用できるAI搭載の「インテリジェントショッピングカート」だと説明されている。理論上、ユーザーはGoogle検索、Gemini、YouTube、Gmailのどこからでも商品をカートに追加できる。商品がカートに追加されると、ユニバーサルカートがGeminiモデルを活用してセール情報や値下げ品を自律的に探し出す。実際に購入する場合は、Google Payで決済できる。
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Googleは今年1月に「ユニバーサルコマースプロトコル(UCP)」を公開した。Googleのエコシステム内でエージェント型ショッピングを実現するための基盤技術で、目下、機能強化に注力している。ユニバーサルカートの追加もその一環だ。ほかに、後払い決済(BNPL)機能や、ロイヤルティ会員向けの価格を自動適用する機能などがある。
匿名で取材に応じたコマース業界関係者は、「これはエージェンティックコマースにとどまらず、YouTube、Google検索、Google広告、Geminiなど、Googleの主要サービス全体に広がる新たなコマース体験であることが明らかになってきた」と語っている。
広告主の懸念と「マッチメーカー」の役割を狙うGoogle
クリエイティブエージェンシーのホワイト64(WHITE64)でメディア戦略担当バイスプレジデントを務めるアリシア・ゲーリング氏は、広告主側の問題点として、もっぱらGoogle頼みの集客を指摘する。特に新興ブランドは、これまで通り、購買意欲の高い消費者を妥当な広告費で集めることができるのだろうか。
VMLでエージェンティックコマースの責任者を務めるモリー・ショーンタール氏は、Digidayに宛てた電子メールでこう述べている。「Googleの新機能の公開は、AIエージェントとAIアシスタントによる意思決定を想定した、コマース領域全体におよぶ大規模な再編の幕開けとなるかもしれない」。
Googleは長年、膨大な購買データを武器に、発見と検索意図の領域に投資を行ってきた。だがいま、Googleのバイスプレジデントでマーチャントショッピングの責任者を務めるアシシュ・グプタ氏によると、Googleは消費者とブランドを結ぶ「マッチメーカー(つなぎ役)」の位置づけを狙っている。
「Googleは小売事業者でもマーケットプレイスでもない。この立場はエージェント時代においても変わらない」。5月に開催されたGoogle Marketing Liveにさきだつオンライン会議で、グプタ氏はそう語っている。
競合各社のAIコマース戦略
しかし、コマース分野の競争が一段と激しくなるなか、競合他社からのプレッシャーも強まるばかりだ。
デジタルマーケティングエージェンシーのマックスコネクトデジタル(Max Connect Digital)でプレジデントとCEOを兼任するフィル・ケース氏は、GoogleがUCPの強化を急ぐ背景についてこう説明する。「TikTok Shopやメタ(Meta)では膨大な量の商取引やショッピングが行われており、Googleはそれを目の当たりにしている。『我々もこの流れに一枚噛みたい』と考えてもおかしくない」。
Amazonは5月13日にLLMを搭載したAIアシスタント「アレクサプラス(Alexa+)」を自社のショッピング体験とエコシステムに統合した。同時に、AIショッピングアシスタントの「ルーファス(Rufus)」を終了し、「アレクサ・フォー・ショッピング(Alexa for Shopping)」に一本化した。利用者はメインの検索窓で直接質問したり、パーソナライズされたショッピングガイドを作成したり、セール情報探しを自動化したりできる。
一方、OpenAIのChatGPTにも、現在は終了しているが、一時「インスタントチェックアウト(Instant Checkout)」機能が搭載されていた。Web全域を網羅する機能で、利用者はChatGPTのアプリ内で支払を済ませ、発送などのフルフィルメントは小売業者側が担う仕組みだった。
TikTok ShopもSNS領域で勢いを増している。Eコマースデータを提供するチャームアイオー(Charm.io)によると、米国内での売上高は49億ドルに達し、その数字はウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)も報じている。さらに、ブルームバーグ(Bloomberg)によると、メタも今年3月以来、GeminiやChatGPTへの対抗策として、AIチャットボット内でショッピングリサーチ機能を試験運用している。
消費者の信頼をめぐるせめぎあい
VMLのショーンタール氏は、「より大局的に見れば、プラットフォーム各社は単なる取引の場にとどまらず、消費者の意思決定を管理・誘導する『デジタルスチュワード』のような位置づけを狙っている」と指摘する。
匿名で取材に応じた前掲の業界関係者によれば、インスタントチェックアウトが不発に終わったOpenAIよりは、Googleのほうが有利な立場にあるという。だが、エージェンティックコマースをめぐる戦いはOpenAI対Googleという単純な構図ではないともこの幹部は述べる。むしろ、Google、OpenAI、アンスロピック(Anthropic)のように独自のエコシステム内で動く「水平型エージェント」と、Amazonやウォルマートのように特定のコマース領域で機能する「垂直型エージェント」の競争だという。
消費者のショッピングアシスタントの座をめぐるプラットフォーム各社の競争が激化するなか、ショーンタール氏は「最大のハードルは信頼だ」と指摘する。クアッド(Quad)とハリスポール(The Harris Poll)の調べによると、「AIが自分の購買履歴にアクセスすることをよく思わない」と回答した米国消費者は54%にのぼる。さらに、「AIによる個人の購買データの扱いに不安を感じる」との回答は73%に達した。
ティヌイティ(Tinuiti)でコマースメディア担当バイスプレジデントを務めるエリザベス・マーステン氏は、Googleの狙いについて、「消費者がAIと抵抗感なく普通に会話して、より速く答えに到達できるように誘導しているのではないか」と語った。
[原文:Google’s latest commerce moves deepen the battle over agentic shopping]
Kimeko McCoy(翻訳:英じゅんこ、編集:京岡栄作)