映画「ハンガー・ゲーム」に出てくる、満面の笑みや軽快な音楽、華やかな衣装に満ちた陽気なニュース番組を覚えているだろうか。それは一握りの特権階級にとっては刺激的で豊かなものだが、残りの一般市民は飢えや不安、恐怖に直面している。
2026年のGoogle I/Oの期間中、Googleがさまざまな方法でわれわれに「Gemini」を押し付けようとするのを見ながら、私はその痛烈な対比を考えずにはいられなかった。あの派手な衣装を、IT系エリートたちが好む洗練された定番の服装に置き換えれば、その類似性が実によく伝わってくる。
開発者向けのプレゼンテーションは、派手な宣伝文句(そのほとんどはGemini AIで作成されたものだ)であふれていた。壇上の誰もが、買い物や地域パーティーの企画、家族の予定の調整、AIが作成した音楽に合わせたダンスなど、実にお祭り騒ぎを楽しんでいた。それは驚くほど内向きであり、Googleは会場にいる人々に語りかけることよりも、自画自賛することに夢中になっているように見えた。
このショーの一部は、株価の最高値更新を続けるための投資家向けのものだった。しかし、現場にいる私たちからすると、Googleは驚くほど無頓着に映った。時価総額数兆ドル規模の巨大企業が、Geminiによってさらに多くの仕事や創造性、日常生活が置き換えられていく様子をうれしそうに見せつける姿には、強い違和感があった。
期待通りの拍手を促すような間を何度も挟みながら、Googleは最新の「Gemini Omni」、「Ask YouTube」、「Gemini Spark」、新しい「AI Search」機能などを宣伝した。そこから浮かび上がるテーマは明確で、不穏でもあった。考えをまとめるのも検索もGeminiに任せよう。買い物もコーディングもGeminiに任せよう。GeminiにYouTubeを使わせ、見た内容を教えてもらおう。動画の中で人を入れ替え、現実を書き換えるのもGeminiに任せよう。家族の意見は聞かずに週末の予定をGeminiに立ててもらおう、というのだ。
会場の観客の疲れた表情は隠しようがなかった。Googleの独り善がりな発表は、現実世界では陰鬱な意味を持って響いた。なぜなら、Geminiが自らの役割だと主張するもののために、いままさに仕事や業界そのものが危機にさらされているからだ。
脅威は開発者だけにとどまらず、オンラインで働くあらゆる人々に及ぶ。Geminiモデルは何でもこなすことを求められている。その結果、GeminiがYouTube動画を取り込み、要約してしまうことで、YouTubeクリエイターの収益化がさらに損なわれるリスクも高まっている。
ショッピングサイトも、Geminiの新たな購入機能による打撃を受けた。例えば、パーソナライズされたレコメンドを基に、店舗情報まで扱うとされるエージェント型ハブだ。そもそも、Geminiがエア遊具の手配までしてくれるとして、そんな大規模な地域パーティーに回せるお金がある人がどれだけいるのか。
これらの新しいGeminiの機能が、大量の資源を消費するAIデータセンターにどれほどの負担を強いるかについては、言うまでもないだろう。干ばつの深刻化やエネルギー価格の高騰が続くなか、これらのデータセンターは、ほとんど規制がない地域社会から水や電力を奪っていることで、すでに悪名高い存在となっている。
私にとって、今回のGoogle I/Oはこれまで見た中で最も陰鬱なものだった。米国の大半の世帯が、生活費の重圧や社会保障、雇用といった基本的な問題に苦しむ中で、この熱狂はこれまで以上にディストピアに近いものに感じられた。どれだけ笑顔を見せられても、欠点がまだ数多くあると分かっているAIに生活を委ね、データを奪われる未来は、現実世界では楽しいものには見えない。
この新たな大規模Gemini推進策を人々がどう受け止めるかは、時間がたてば分かるだろう。その間も私は「Googleドキュメント」で記事を書き、Googleの電子メールで同僚とやりとりしながら、少しばかり「ハンガー・ゲーム」の世界に生きているような気分でいる。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を4Xが日本向けに編集したものです。
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