![AI と広告の未来、議論の現在地―第一部 AI 検索広告が日本にやってくる[インタビュー]](https://www.yayafa.com/wp-content/uploads/2026/05/key-3.jpg)
ChatGPT、Gemini、Google AI Overviews、AI モード——生成 AI が検索の景色を塗り替えつつあるなか、業界の関心は「検索行動はどう変わっていくのか」という問いに集まっている。Google のクエリ量は減るのか、ChatGPT は広告でマネタイズできるのか、リテールメディアとの関係はどうなるのか。論点は錯綜している。
そのなかで、アタラ株式会社 ファウンダー、ストラクチャー&シグナルズ株式会社 代表取締役 杉原剛氏に話を聞いた。オーバーチュア(現 Yahoo!検索広告)と Google で検索広告の立ち上げに関わり、現在は APTI 共同代表、株式会社HAKUHODO DY ONE エグゼクティブアドバイザーのメンバーも務める。検索広告の黎明期から、業界の構造変化を継続して観察してきた一人である。
「『検索そのものがなくなる』という議論から、『検索の入口が複数になる』という認識に変わってきた」——杉原氏の見立てから、AI 検索広告をめぐる議論の現在地と、その背景で進む広告業界全体の地殻変動を、二部構成で整理する。
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)
検索は、むしろ伸びている
前提として、AI 検索広告が本格的に展開されているのは米国を中心とした海外市場であり、日本ではまだほとんど始まっていない。米国でも AI Overviews や AI モードへの広告差し込みは、2024年末頃からようやく動き始めた段階だ。
その前提のうえで、業界に広がる「検索が終わる」という言説に対し、杉原氏は実際のデータから慎重に距離を置く。直近の決算において、Google 検索の収益はむしろ伸びている。
「直近の決算で、検索が再び伸びている」と杉原氏は語る。要因として挙げるのは二点。AI による検索のマルチターン化でクエリ数が増え、広告在庫が拡大していること。そして、CPC(クリック単価)が上昇していることである。
ただし、その伸びがどこから来ているのかは、外部からは判別しづらい。「Google 自身が、旧来の検索広告と AI 起因の動きを切り分けて開示しているわけではない」と杉原氏は指摘する。
杉原氏の見立てはこうだ。ユーザー体験としては、AI Overviews や AI モードが大きな成功を収めている。一方で、収益面で寄与しているのは、案外、旧来の検索広告の方ではないか——というのが現時点での感触である。
象徴的なのは、2023年初頭のパリでの一幕だ。ChatGPT の急成長を受けて、Google が慌てて Bard を発表しようとしたイベントで、デモが失敗し、株価が暴落した。「あの時はさすがに、Google は終わったかもしれない、と言われたほどだった」と杉原氏は振り返る。
それから3年経たないうちに、Google は AI 検索で巻き返した。「2年半ほどのうちに、検索の AI 化は成功している。Google にとっては、第1ラウンドはそれで十分だろう。世の中の認識として、Google は AI でうまくいっている、という評価が定着すれば十分なはずだ」。
ChatGPT や Gemini が台頭しても、Google のクエリ量が急減しているデータは、現時点では出ていない。ユーザーの情報探索行動が分散・多層化している——それが現在地である。
そして杉原氏は付け加える。「広告主が注目すべきは、どこで意思決定が起きているかであって、プラットフォームの名前ではない」。
しかし、上部広告は静かに圧迫されている
検索広告全体が伸びている一方で、現場の運用には別の影響が出始めている、と杉原氏は指摘する。AI Overviews がページ上部を占めるようになったことで、従来の検索結果上部に並んでいた広告枠は、相対的に下に押し下げられている。クリック機会とトラフィックが減るため、広告主は枠を確保しようと入札を強める。結果として、CPC が上昇し、CPA が合わなくなる案件も増えている。
「広告枠が下に下げられて、クリック数が減る。だから SEO も強化するし、広告で補填しようとする。しかし、全員が同じ判断をするため、入札競争が一気に加速する。そうすると CPC が押し上げられてしまう」。
潤沢な予算を持つ大手にはまだ耐えられても、中小の広告主には負担が重い。これにより一部の広告主は、検索以外のフォーマット——ダイナミックディスプレイや動画——に予算を寄せ始めている。業種にもよるが、Google の P-MAX のような自動最適化が、勝手にそちらへ配分しているケースもある、と杉原氏は補足する。
検索広告総体としては底堅い。しかし、その内側では、上部広告の圧迫と CPC 上昇という静かな構造変化が進んでいる、というのが現場の実態である。
「より深い意図に応える」者にチャンスが広がる
従来の検索広告と AI 検索広告で、何が同じで、何が違うのか。
「同じなのは、インテントが起点であること」と杉原氏は整理する。何かを買いたい、何かを探したい——ユーザーのインテントに広告を乗せる構造そのものは変わらない。
違うのは、意図の解像度である。杉原氏はオーバーチュア時代から見続けてきた検索クエリの変遷を辿る。商用インターネットの黎明期は、「保険」「車」のようなビッグワードが中心だった。スマートフォンが普及し、ユーザーは複合検索を使いこなすようになった。その時代が20年ほど続いた。
そして AI 検索の時代である。クエリは長文化し、対話を重ねながら絞り込むマルチターン化も進む。画像・音声・動画を使ったマルチモーダル化も、若い世代を中心に広がりつつある。
ここから生まれる帰結を、杉原氏は「ロングテール商用意図の拡張」と呼ぶ。長文化が進むほど、これまで大手ブランドが寡占していた検索面で、ニッチブランドにも光が当たる余地が出てくる。
「ニッチブランドにもチャンスが巡ってきた」と杉原氏は語る。ただし、と続ける。「ニッチブランドだからといって、何もしないでよいわけではない。自社の商品や提供しているものをきちんと言語化し、ウェブサイトや商品フィードで、AI に理解されるような形に整える努力をしているところには、確かなチャンスが広がっている」。
AI が深い意図を捉える時代になればなるほど、それに応える側の言語化能力が問われる構造に変わりつつある。
業種適合の観点も重要だ。AI 検索広告と相性が良いのは、比較検討のリードタイムが長い高額商材——いわゆる検討型のカテゴリである。
一方、金融などセンシティブな商材については、立ち上げ期は規制側で慎重な姿勢が取られると見られている。「センシティブな領域に関しては、当面は規制が一定の歯止めになるだろう」というのが杉原氏の見方だ。
さらに在庫と需要のバランス次第では、立ち上げ期は CPM が高止まりする可能性もある——初期参入する広告主にとっては、テスト設計とカテゴリ選定が鍵になる。

AI 内広告の独立性——受容性こそが市場規模を決める
AI 検索広告の市場規模を左右する、もう一つの重要な論点を杉原氏は指摘する。AI 回答(オーガニック)と広告の独立性である。
「ChatGPT は当初、非営利的な存在として持ち上げられていた」。そこに広告を実装し始めた途端、米国ユーザーから強い反発が起きた。「経営トップも『広告は嫌い』というスタンスだったはずが、実装を始めたことで反発を招いた」。これがユーザー離脱の一因にもなっていると見られる。
一方、Google は対照的だ。Gmail から Google ニュースまで、長年「いいプロダクトを出して、後付けで広告をつける」という流れを繰り返してきた歴史があり、ユーザーもそれを受け入れている。「Google が後から広告をつけても、ユーザーは『ついたのか』という程度の受け止めである。ChatGPT との対比は興味深い」。
ここで重要なのが、Google の判断基準だ。Google は AI Overviews や AI モードへの広告差し込みについて、CTR や滞在時間といった可視指標だけでなく、サーベイによる主観評価も併用して判断している。収益がトントンでも、ユーザー満足度がプラスであれば採用する——CTR の数値だけで判断するとユーザーファーストを見落としかねない、というポリシーが貫かれている。
つまり、AI 内に広告をどこまで入れられるかは、技術的な問題ではなく、ユーザー受容性の問題である。広告を入れすぎてプラットフォームごと避けられたら本末転倒だ——AI 内広告の独立性をどう設計するかが、市場規模の上限を決めることになる。
新興プラットフォームに、いま乗らない手はない
AI 検索広告は、まだ始まったばかりの領域だ。だからこそ、新興プラットフォームの登場は広告主・代理店にとって大きな機会である、と杉原氏は強調する。
「新興系のプラットフォームが出てきた時こそ、大きなチャンスである。そのことを、もう少し業界全体で理解した方がよい」。
杉原氏が引き合いに出すのは、Amazon の歴史である。検索広告の黎明期にもっとも積極的に広告を出稿していたのはAmazonである。競合がいない時期だったため、検索すると検索広告はAmazonの独壇場だった。積極的に獲得したユーザーが現在のAmazonのビジネスを下支えしている。Amazonは検索エンジンとともに成長してきたと言っても過言ではない。
ChatGPT 広告について、日本でも一部の大手代理店はすでに動き始めている、と杉原氏は語る。なかには本国まで足を運んで契約の取り付けに動いている事業者もあり、新興枠を取りに行く姿勢は明確だ。
ただし、広告主側の動きはまだ鈍い。「誰も乗っていない以上、予算は独壇場のはずである。他社が動いてから自分も動く、という姿勢では遅すぎる」。新興枠への初期参入の機会を逃さないためには、受動的な姿勢から脱する必要がある——これが AI 検索広告領域における杉原氏のメッセージだ。
ABOUT 野下 智之![]()
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。