OpenAIを巡る「マスク対アルトマン」裁判、その“本当の敗者”とは | WIRED.jp

創業時から存在した矛盾

この裁判で明らかになった証拠によると、アルトマンとマスクは、OpenAIを非営利組織として立ち上げながらも、実際には一般的なスタートアップのように運営していく方針で一致していたようだ。両者に共通していたのは、AGI開発競争でGoogle DeepMindに打ち勝つという目標だった。

だが、OpenAIを非営利組織として設立したことは、その競争を勝ち抜くうえで、次第に極めて不都合な仕組みになっていった。

マスクは、OpenAIのCEOであるアルトマンと共同創業者兼社長のグレッグ・ブロックマンが、非営利組織としての創設理念から逸脱したと非難している。さらに、自身が投じた3,800万ドル(約60億8,000万円)の資金が、OpenAIを8,500億ドル(約136兆円)規模の企業へと変貌させ、共同創業者の一部を億万長者にするために使われたと主張している。

この裁判で勝訴するためには、マスクは、自身の投資に一定の条件を付していたことを陪審と裁判官に納得させなければならない。具体的には、OpenAIがその資金を非営利目的にのみ使用すること、そして自身の提訴が時期的に適切だったことを証明する必要がある。

これに対しOpenAI側は、マスクはいずれの主張についても十分な証拠を示せておらず、単にAI研究所の支配権を失ったことへの不満を募らせているだけだと反論している。

2015年5月、後にOpenAIとなる「非営利組織のようなもの」の立ち上げについて、アルトマンがマスクに送った初期のメールのひとつには、参加メンバーに「スタートアップ並みの報酬体系」を与える考えが記されていた。これに対しマスクは、「議論する価値はある」と返答している。

裁判で示された証拠からは、もし非営利部門が必要以上の資金を手にした場合、それをどう扱うつもりだったのかは、ほとんど明らかになっていない。技術をオープンソース化する案について議論された形跡はあるものの、OpenAI側の弁護士は、そのような合意が正式に存在したことは一度もないと主張している。

実際には、より高性能なAIモデルを開発するため、大規模なサーバーインフラへ資金を投じることに重点が置かれていたようだ。その一方で、安全対策に関する研究も並行して進められていた。

営利化へ向かったOpenAI

最終弁論でOpenAI側の弁護士サラ・エディは、共同創業者たちのあいだでは、いずれ寄付だけでは到底まかないきれない規模の資金が必要になることは、事実上、「争いのない認識だった」と語った。

エディはさらに、共同創業者イリヤ・サツキヴァーの証言を引用し、「OpenAIの使命は、組織形態そのものより大きなものだ」と強調。そのうえで、もしOpenAIが必要な資金を確保できていなければ、その使命自体が頓挫していたはずだと主張した。

OpenAIの共同創業者たちは、メールや証言のなかで繰り返し、非営利という組織形態とその理念が、自分たちに有利に働いていたと語っている。それはOpenAIに「道義的優位性」を与え、Google DeepMindを追い抜こうとする競争で、大きなアドバンテージになっていたという。また、この非営利組織としての使命は、優秀な研究者を引きつけるだけでなく、政策立案者や一般社会からの好意的な支持を得るうえでも活用されていた。

だが、OpenAIの歴史を通じて見ると、非営利という組織形態は、巨大企業へ成長していくうえでの障害として認識されていたようだ。2016年12月、マスクは共同創業者たちに宛てたメールで、OpenAIを「非営利として立ち上げたのは、振り返ってみれば誤りだったかもしれない」と記している。さらに、非営利という形態では、「(競争を勝ち抜くほどの)切迫感が生まれにくい」とも付け加えていた。