Googleは2026年5月12日、開発者会議『Google I/O』の前哨戦となる『The Android Show | I/O Edition』を開催した。冒頭ではSundar Pichai CEOが、Androidを「人々が情報や答えを求めて最も頻繁に手にするデバイスを支える基盤」と位置づけ、エージェント型Gemini時代におけるデバイスの役割拡大に言及した。
【画像】Gemini Intelligenceで利用可能になる機能群
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本稿では、発表のなかから、Androidの中核体験を刷新する「Android 17」と、ノートPCの新カテゴリとして登場した「Googlebook」の2つに焦点を絞り、その狙いを整理していく。
■Android 17は「OS」から「インテリジェンスシステム」へ
Androidエコシステム責任者のSameer Samat氏は、今年のテーマを「テクノロジーが背景に溶け込み、デバイスがより助けになる体験」と説明したうえで、Androidを「OSからインテリジェンスシステムへと変革する」と語った。その中核に据えられたのが、Android 17に搭載される新しい体験「Gemini Intelligence」だ。
Gemini Intelligenceは、Geminiの最先端機能をAndroid搭載のハイエンド機向けに最適化したもので、今夏以降、Samsung GalaxyとGoogle Pixelから順次展開される。スマートフォンを起点に、スマートウォッチ、車、グラスといった複数のデバイスをまたいだ一貫した体験を提供する点が特徴だ。
機能面で特徴的なのは、アプリをまたいだ複数ステップのタスク自動化だ。同機能は2月にサムスンが開催した発表会「Galaxy Unpacked」の場で『Galaxy S26』向けの限定的なプレビューとして先行公開されており、フードデリバリーや配車アプリの一部でフィードバックが収集されてきた。今夏以降は、授業のシラバスから必要な書籍をカートに追加したり、お気に入りのフィットネスクラスで人気の席を予約したりといった用途へ拡張される。
同機能はマルチモーダル対応も進んでおり、デモではコーヒーツアーのパンフレットを撮影し「エクスペディアで6人向けの同様のツアーを探して」と指示する場面が示された。アプリがインストールされていない場合も、Chromeを介してウェブ上のタスクを自動化できる。
続いて実用面で注目したいのが、強化された「オートフィル」機能だ。デモでは、初めて利用する航空会社の予約フォームに搭乗者情報を入力する場面が示された。氏名や生年月日はともかく、パスポート番号や有効期限を暗記している人は多くないだろう。新機能では、Googleフォト内に保存されたパスポート画像をGeminiが読み取り、フォームの該当欄をワンタップで埋めてくれる。情報源はGoogle Wallet、Gmail、Googleフォトなどエコシステム全体に及び、アプリ間でデータを探し回る手間を省けるというわけだ。
入力体験の刷新も目を引く。キーボードアプリ「Gboard」に搭載される「Rambler」は、フィラー(「えーと」「あの」といった言い淀みや繰り返し)を含む話し言葉を、整理されたテキストへと変換する機能だ。マルチリンガル対応で、ひとつの発話のなかで言語を切り替える、いわゆる「コードスイッチング」にも対応する。
また「Create My Widget」は、自然言語でウィジェットを生成できる仕組み。「毎週、高タンパクなミールプレップ(作り置きの食事)のレシピを3つ提案して」「自転車に乗るときの風速と降水だけを表示して」といった指示で、自分専用のウィジェットを作成できる。このほか「Android 17」では、Metaと協業したInstagramの最適化、スクリーンタイム管理機能「Pause Point」、AirDropと相互運用可能になったQuick Shareなど、コア体験のアップデートも幅広く揃った。
■Googlebookという“もうひとつのAndroid”
もうひとつの主要な発表が、新カテゴリのノートPC『Googlebook』だ。発表を担当したノートPC・タブレット担当シニアディレクターのAlexander Kuscher氏は、「15年以上前にGoogleはChromebookでノートPCを再発明した。OSからインテリジェンスシステムへの転換を機に、もう一度根本的な再発明を行うタイミングだ」と語った。
Googlebookは、AndroidのモダンOSとGoogle Playのアプリ資産、Chrome OSのブラウザと拡張機能ライブラリを統合したうえで、Gemini Intelligenceを設計段階から組み込んだ製品だ。HP、Dell、Lenovo、Acer、ASUSがパートナーとして参画し、今年後半に投入される。
体験面で象徴的なのが「Magic Pointer」だ。カーソルを画面上で軽く揺らすとGeminiが起動し、文脈に応じた提案が表示される。メール内の日付を指せばスケジュール調整や返信案の作成、画像を指せば別の画像と組み合わせた合成プレビューなどがその場で行える。従来であれば右クリックで保存し、チャットボットにアップロードし、プロンプトを入力する、という手順を踏んでいた作業が、カーソル操作の延長線上で完結する設計だ。
Androidスマートフォンとの連携機能も用意される。手元のスマートフォンを取り出すことなく、言語学習アプリ『Duolingo』のようなスマートフォン側のアプリをGooglebook上でそのまま起動・操作できるほか、「クイックアクセス」と呼ばれる機能により、スマートフォン内の写真やファイルへもノートPCから直接アクセスできる。スマートフォン向けの「Create My Widget」もGooglebook上で動作する。
■“PCとスマホの境界を溶かす”というGoogleの狙い
ここで気になるのが、なぜGoogleが今このタイミングでGooglebookを投入したのかという点だ。
鍵を握るのは、AIエージェント時代におけるOSの位置取りだ。Gemini Intelligenceが「アプリ間・ウェブ・デバイス間をまたいでタスクを実行する」存在となる以上、Androidスマートフォンを起点にした体験を、より大きな画面と長時間作業を伴うノートPCへと自然に拡張していく必要がある。前述のクイックアクセスや、スマホアプリをGooglebook上で操作できる仕組みは、まさにその思想を体現するものだ。Copilot+ PCを推進するMicrosoftや、独自のAI機能をMacへ統合しつつあるAppleといった競合に対し、Googleはスマートフォンと地続きの「AIファーストなノートPC」というポジションで応戦する構えだ。
Android 17とGooglebookを並べて眺めると、Googleの戦略が「Androidスマートフォンの強化」ではなく、「Geminiを軸にしたデバイス横断体験の構築」へと明確にシフトしていることが見えてくる。Chromebookでは届かなかったコンシューマ向けハイエンド市場の挽回という狙いも、Googlebookには託されているのかもしれない。OSやハードウェアの違いを意識させない世界観こそが、Googleが目指す「インテリジェンスシステム」の到達点だろう。来週開幕する『Google I/O 2026』で、この構想がどこまで具体的な開発者向けの基盤として提示されるのか、引き続き注視していきたい。
山本竜也