ChatGPT 5.5 Proが博士課程レベルの数学研究を1時間で実行、数学者が「人間の研究の最低ラインが変わる」と指摘 – GIGAZINE

2026年05月11日 19時00分
AI


数学者のティモシー・ガワーズ氏が、ChatGPT 5.5 Proを使った数学研究の体験をまとめた記事を投稿しています。ガワーズ氏によると、ChatGPT 5.5 Proは、ほとんど数学的な助言を与えられていない状態で、博士課程レベルといえる組合せ論の研究結果を1~2時間ほどで出したとのことです。

A recent experience with ChatGPT 5.5 Pro | Gowers’s Weblog
https://gowers.wordpress.com/2026/05/08/a-recent-experience-with-chatgpt-5-5-pro/


ガワーズ氏が試したのは、整数の集合Aを何度も足し合わせたときにできる「和集合」の大きさに関する問題です。ざっくり言うと「k個の整数からなる集合を使って、狙った大きさの和集合を作るには、どれくらい広い範囲の整数が必要なのか」という問題です。

もともと知られていた構成では、必要な整数の範囲がかなり大きくなっていました。ChatGPT 5.5 Proはまず、h=2という基本的な場合について、指数関数的だった上界を二次関数的な上界に改善しました。これは、すでに知られている「シドン集合」という、足し算の結果が重なりにくい集合をうまく使うことで実現されたものです。

さらにガワーズ氏は、より一般的なhの場合にも同じような改善ができないかを試しました。この部分では、MITの学生であるアイザック・ラジャゴパル氏の既存研究を土台にしています。ChatGPT 5.5 Proはその議論をもとに改良を試み、最終的に、指数関数的だった上界を多項式的な上界へ改善するアイデアを出しました。

ラジャゴパル氏はこの結果を確認し、「ほぼ間違いなく正しい」と評価しました。特に重要なのは、単なる計算の置き換えではなく、「幾何数列のように振る舞うが、要素の大きさは多項式程度に抑えられる集合」を作るというアイデアが含まれていた点です。ラジャゴパル氏は、自分なら1~2週間考えて思いつけたら誇りに思うような内容を、ChatGPT 5.5 Proが1時間足らずで見つけたと述べています。

ガワーズ氏は、今回ChatGPT 5.5 Proが出した結果について、「2時間未満で見つけたものとしては、組合せ論の博士論文の1章として十分に成立する水準」と評価しています。もちろん、数学史に残るような大定理というわけではなく、ラジャゴパル氏の既存研究にかなり依存していたのも事実です。しかし、それでも単なる言い換えや機械的な計算ではなく、既存の枠組みを非自明に拡張する内容だったとしています。

特にガワーズ氏が重く見ているのは、人間の博士課程学生が同じ結果に到達しようとすれば、まずラジャゴパル氏の論文を読み込み、どこに改善の余地があるかを探し、必要な代数的手法にも慣れ、その上で新しい構成を見つける必要があった、という点です。つまり、ChatGPT 5.5 Proが行ったのは「検索で既存の答えを拾ってきた」程度の作業ではなく、研究者が実際に行うような読解・改良・構成のプロセスにかなり近いものだったという見方です。


そのためガワーズ氏は、初期の博士課程学生に研究を教えることが、今後さらに難しくなると考えています。これまでは、まだ誰も解いていないが比較的取り組みやすそうな問題を学生に渡し、研究の第一歩にすることができました。しかし、AIがそのような「やさしめの未解決問題」を解ける段階に来ているなら、人間の研究者に求められる最低ラインは、「未解決問題を解くこと」から「AIだけでは解けないことを証明すること」へ移っていく可能性があります。

ただし、ガワーズ氏は「だから人間の数学者は不要になる」とは考えていません。むしろ、初心者の研究者もAIを使える以上、これから重要になるのは「AIが単独ではできない研究を、AIと協力して進める能力」だと見ています。ガワーズ氏自身も最近、AIとの共同作業をかなり試しており、現時点ではAIが決定的な大アイデアを出す段階ではないものの、有用な貢献は確実にしていると述べています。

ガワーズ氏は、数学研究の意味も変わっていくと見ています。例えば、「今後は自分の名前が定理や定義に永遠に残るというタイプの名誉は得にくくなるかもしれない」とのこと。仮に、ある数学者がAIとの長いやり取りの末に大問題を解いたとしても、技術的な仕事や主要なアイデアをAIが担っていた場合、それをその数学者の大偉業と呼べるのかは疑問だというわけです。

それでもガワーズ氏は、難しい数学に取り組む価値は残ると考えています。問題と格闘することで単に他人の解答を読むだけでは得られない「問題解決の感覚」が身につくため、優れたプログラマーほどAIコーディングをうまく使いこなせるのと同じように、実際に難しい数学問題を解いた経験のある人ほどAIを使った数学研究でも強みを発揮できるとガワーズ氏は指摘しています。そして「これからの数学研究では過去の世代と同じ報酬は得られないかもしれないものの、研究レベルの数学で鍛えられる能力は今後の世界に向けた強力な備えになる可能性が高い」と投稿を締めくくっています。

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