三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は個人向け(リテール)領域での米Googleと戦略的提携で合意した。5月7日に発表した。
MUFGはリテール領域でのグループ共通の総合金融サービスブランドとして「エムット」を2025年6月から展開している。「お金のあれこれ、まるっと。」をスローガンにしているエムットは、これまで金融がかかわることがなかったレジャーやエンターテインメント、ヘルスケア、ライフスタイルなどの「非金融」の世界に金融を拡張させて日常に浸透させることを狙っている。
エムットの背景にあるのは、日本銀行が2024年3月にマイナス金利を解除したことで発生した、約30年ぶりの「金利のある世界」の到来だ。金利のある世界で個人預金は、超低金利時代の「眠れる資産」から利回りを求めて活発に動き出す「移動する資産」に変容しつつある。金利はもとより、金融サービスの利便性、非金融サービスを含めた付加価値を提供することで個人顧客のメインバンク化を促し、預金量を確保することは、現在の金融業で極めて重要な戦略的眼目となっている。
MUFGは、三菱UFJ銀行や三菱UFJ信託銀行、証券の三菱UFJモルガンスタンレー証券や三菱UFJ eスマート証券(旧auカブコム証券)、クレジットカードの三菱UFJニコスやジャックス、資産運用サービスを提供するウェルスナビ、家計簿アプリ「Moneytree」を提供するマネーツリーなどで構成される。その構成について、MUFGは「個人が一生涯で必要とする金融機能の全てを有する唯一の金融グループ」と表現している。

MUFG 執行役専務 リテール・デジタル事業本部長 兼 グループCDTO 山本忠司氏
5月7日に開かれた記者会見に登壇したMUFG 執行役専務 リテール・デジタル事業本部長 兼 グループ最高デジタルトランスフォーメーション責任者(CDTO)を務める山本忠司氏は、エムットの成果として2025年度は「三菱UFJ銀行の口座開設数が前年度比で63%増、三菱UFJカードの発券数が前年度の1.9倍、三菱UFJ eスマート証券の仲介口座開設数は前年度の7倍、ウェルスナビの預かり資産残高は前年度比で33%増」となったことを説明している。
金融にAIエージェントを組み込む未来
MUFGとGoogleは、MUFGが2026年度後半の開業を予定している「デジタルバンク」の基盤としてIaaS/PaaS「Google Cloud」を利用することを2025年5月に発表。それに続く今回の戦略的提携は、(1)AIエージェントを活用した先進的な金融体験創出、(2)AI時代でのデータ・マーケティングの高度化、(3)金融×非金融、新技術を活用した新しい価値の創出――という3つの柱で構成される。
(1)のAIエージェントを活用した先進的な金融体験創出では、AIエージェントが商品の選択から購買、決済に至るまでの一連のプロセスを自律的に支援する「Agentic Commerce」と「Agentic Payments」について国内での早期の実現を目指して協業する。このAgentic CommerceとAgentic Paymentsが実現した世界とはどんなものなのか――。
生後4カ月の赤ちゃんがいる夫婦がミルクの缶をスマートフォンで撮影すると、AIが「前回の購入から12日が経過しており、間もなくミルクが切れるペース」と説明。同時に、4カ月という月齢にあった、同じブランドの最安値の商品とまとめて買えば、お得になるセットの商品などをAIが提案する。
AIが提案した商品を人間が選択して購入ボタンを押すと、どのクレジットカードで支払うのかをAIが聞いてくる。この場面では、例えば、キャンペーンで10%還元される、ポイント獲得の割合などの情報を表示して、どのクレジットカードを選べばいいのかといった情報も表示されて、そこから決済手段を選ぶといったことも可能だ。支払った後で家計データとあわせて支出状況を見せてくれる。
この例で言うと、ミルクの缶を撮影して提案するまでがAgentic Commerceの役割、クレジットカードの選択、決済、会計データと支出状況の提示がAgentic Paymentsの役割となる。
MUFGは、AIエージェントを使った「自律型金融」も目指そうとしている。自律型金融とは、AIが金融取引を判断、実行して、人間が最終的に意思を決定する仕組みだという。人間が条件を設定し、AIが実行・調整し、人間がAIの判断を承認することになる自律型金融は、「考えて操作する金融」から「人間が方針を決めて安心してAIに任せられる金融」(山本氏)へと顧客体験が変わることになる。
この自律型金融の世界はどうなるのか――。例えば30代の夫婦が住宅を購入するとして、現在の収入額、出産後の働き方、教育費や生活費の見込みなどを計算、シミュレーションして、住宅ローンの選択肢を提示する。どの住宅ローンであれば、毎月の返済額がいくらになるのかを示してくれる。AIが「この金額なら、教育費と貯蓄の両立が見込める」と提案してくれる。
Agentic CommerceとAgentic Payments、自律型金融の世界では、住宅ローンの毎月の返済、教育資金の毎月の積み立て、赤ちゃんに必要な製品の定期購入といったものをAIに任せられる範囲として設定しておけば、それらの処理はAIが自動でこなせるようになる。「任せたことはAIがきちんと実行してくれる」(山本氏)
自律型金融の世界では、AIが「将来のライフイベントに向けて積立計画を見直すタイミングかもしれません。無理のない範囲で積立額を増やしますか?」とも提案してくれる。毎月の支出リポートでは、住宅ローンの返済状況、教育資金の積立進捗などが表示され、支出を分析したAIは「貯蓄を増やしますか? 行員と相談しますか?」と提案する。その場で銀行とのリモート相談に進むという使い方も可能だ。