その後も交渉は秋まで続き、ジリスは双方にとっての信頼できる相談相手として関わり続けた。17年9月20日のメールでは、サツキヴァーがアルトマンとマスクに対し、マスクにOpenAIの支配を委ねることへの懸念を伝えており、ジリスはそのやり取りに含まれている。
2日後、ジリスはマスクに対し、アルトマン、ブロックマン、サツキヴァーと非営利構造の維持について話し合った内容を報告し、それぞれの見解をまとめている。同時期には、ニューラリンクと共用していたオフィスの警備会社の見積もりを取るなど、運営面の業務も担っていたことがメールから確認されている。
18年2月にマスクが正式に理事を退任した後も、ジリスは長年にわたり、彼とOpenAI幹部のあいだの橋渡し役を務めていた。29日の証言でマスクは、ジリスが許可なく機密情報を共有したことはないと述べている。
アルトマン側にも対応の助言
一方でジリスは、OpenAIの状況をマスクに伝えるだけでなく、アルトマンに対してもマスクとの関係の管理について助言していた。22年10月23日、OpenAIがマイクロソフトから約200億ドルの評価額で資金調達を進めていると知ったマスクがアルトマンに怒りのメッセージを送ると、アルトマンはそのスクリーンショットをジリスに送り、対応について助言を求めている。「必要なら電話で補足しますが、基本的にはすぐに返信しないことをおすすめします」とジリスは答えた。
23年2月9日、マスクがツイッターを買収した直後にも、アルトマンはジリスに「イーロンについて好意的な投稿をしたほうがいいか」と相談している。その数日後、アルトマンはXに「未来への楽観が薄れていた時期に、社会の志を引き上げた点で、イーロンの貢献は過小評価されている」と投稿した。
この裁判によって、シリコンバレーの外では比較的知られていなかったジリスが、OpenAI初期において大きな影響力を持っていたことが浮き彫りになっている。40歳のジリスはIBMで認知コンピューティングに携わった後、ブルームバーグのVC部門であるブルームバーグ・ベータの創設メンバーとなった。イェール大学のアイスホッケー選手でもあり、15年には『Forbes』の「30アンダー30」に選ばれている。
証言台に立ったマスク
30日、マスクは証言台での最後となる可能性が高い機会を利用し、アルトマンら被告が自分を欺いたとする主張に焦点を当てるよう陪審に訴えた。「慈善団体を盗むことはできない」という趣旨の発言を少なくとも5回繰り返している。
しかし初週の審理からは、マスクが約3,800万ドルを寄付した際、OpenAIが営利に近い形へ再編することを防ぐ条件を設けていなかったことが明らかになっている。また、OpenAIが一般企業のようになりつつあるとの懸念を長年示していたにもかかわらず、訴訟提起までに数年を要している。マスクが有利な判断を得るには、提訴のタイミングが適切であったこと、そして寄付が法的な約束を生んでいたことを裁判所に認めさせる必要がある。
マスクは、OpenAIが社会的利益という使命から逸脱しているとの懸念が徐々に強まり、23年ごろに限界に達したと証言した。「慈善団体が奪われたことが明らかになったのはごく最近だ」と述べている。これに対しOpenAI側は、同年にマスクが自らのAI企業xAIを営利企業として設立した点を指摘し、懸念の高まりとの関係を問いただした。マスクは、xAIの営利構造には社会的リスクもあると認めている。