ChatGPTは60年未解決の数学問題「エルデシュ問題」を解いたのか、専門家の盲点を突いたAIの本当の価値 【生成AI事件簿】荒削りな証明を人間が磨く、AI時代の「境界をまたぐ知性」とは(1/5) | JBpress (ジェイビープレス)

【生成AI事件簿】荒削りな証明を人間が磨く、AI時代の「境界をまたぐ知性」とは

小林 啓倫

小林 啓倫
経営コンサルタント

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2026.4.29(水)

ChatGPTは問題を「解いた」のか?

 AIはついに、人間の数学者を超え始めたのか──。米国の科学雑誌サイエンティフィック・アメリカンが報じたある出来事は、そんな問いを誘うものだった。

 数学の専門家ではない、しかもまだ23歳の若者であるリアム・プライスという男性が、ChatGPTを使って、とある数学の未解決問題に取り組んだ。するとChatGPTは、人間の数学者たちがこれまで使ってこなかった方法で、有望な解決の道筋を示したという。

 対象となったのは「エルデシュ問題(Erdős problems)」と呼ばれているものの1つだ。これは20世紀を代表するハンガリー出身の数学者ポール・エルデシュが提示した一連の問題で、その中に約60年にわたり解決されていなかった問題があった。プライスが取り組んだのは、この未解決問題である。

 それは「primitive set」と呼ばれる数の集合に関するものだ。これは、集合の中のどの数も、別の数で割り切れないような整数の集まりを指す。素数の集合はその代表例である。

 エルデシュは、こうした集合に対して計算できる「エルデシュ和」に関する予想を残していた。スタンフォード大学のジャレッド・リヒトマンという数学者が、関連する予想を2022年に証明していたが、今回の問題については行き詰まっていたと説明されている。

 プライスは、その歴史を十分に知っていたわけではない。彼はエルデシュ問題のサイトにある問題をChatGPTに入力し、どんな回答が出てくるかを試していた。そうしているうちにChatGPTが出してきた答えを、ケンブリッジ大学の数学専攻学生ケビン・バレットが専門家に伝え、リヒトマンやテレンス・タオという別の数学者らが注目することとなった。

 リヒトマンによれば、ChatGPTが出力してきた証明は「かなり粗い」もので、専門家がそれを読み解き、何を言おうとしているのかを理解する必要があった。その後、リヒトマンとタオは、LLMの洞察の中から中核となる部分を取り出す形で、証明を短く整理した。

 つまりChatGPTは、完成した建物を建てたのではない。いうなれば、「荒削りな設計図」のようなものを差し出した。その設計図には余計な線も多く、構造としては未完成だったが、専門家が見れば「この進め方なら建物にできるかもしれない」と分かる重要な着想が含まれていた。

専門家が目を向けなかった「別の道」をAIが示すようになる?(筆者がChatGPTで生成)