NVIDIAが次に挑むのは「金融産業」の6500億ドル市場。GPUだけではないAI半導体覇者の本当の強み | Business Insider Japan

NVIDIAロゴNVIDIAは金融業界へも「AIの変革」をもたらそうとしている。撮影:小林優多郎

NVIDIA(エヌビディア)が生成AI時代の半導体戦争の覇者であることに異論のある人はいないだろう。

そのNVIDIAが新たに力を入れ始めているのが、金融業界向けのAIソリューションだ。

NVIDIAは、AI向けのGPUを単体として販売しているのではなく、「CUDA」や「CUDA-X」といったソフトウェアソリューションをセットにして販売しており、それがNVIDIAの強みになっている。

ソリューションは産業別に提供しており、これまでロボット産業、自動車産業、製薬産業など多岐にわたる。そうしたNVIDIAの次のターゲットが、金融産業(Financial Service)となる。

なぜ、NVIDIAが金融産業を次のターゲットにしているのか、NVIDIA グローバル金融事業責任者 エイサー・ブランコ氏に話を聞いた。

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NVIDIAの強みはGPUだけでない。産業別キットを展開エイサー・ブランコ氏NVIDIAグローバル金融事業責任者のエイサー・ブランコ氏。撮影:笠原一輝

筆者がNVIDIAを取材するようになったのは、1990年代後半にNVIDIAがグラフィックスチップ(NVIDIAがグラフィックスチップをGPUと呼ぶのは1999年にGeForce 256を発表して以降)を販売する会社だった頃からだ。

そのため、NVIDIAがAIで事実上の一強になってから「なぜNVIDIAはAIで強いのか」ということを他の記者に質問されることが増えた。

聞かれる度にいつも話しているのは「NVIDIAはGPUをもっているから強いのではない、それを活用するソフトウェアソリューションを長い時間をかけて構築してきたことが最大の強みだ」ということだ。

NVIDIAが現在のようなAI向け半導体で勝者になったのは、2010年代の半ばに、ディープラーニングの手法が流行しAIが再び注目を集めてからだ。それまでAIアプリケーションを開発する開発者は、以前から利用してきた汎用演算装置であるCPU(Central Processing Unit)を利用して演算していた。

CPUは処理を順々に行なう処理に関しては高速に処理できるが、巨大な量のデータを一度に並列的に処理するにはあまり向いていないという特性があり、AIの開発で重要な学習のプロセスに数カ月という単位で時間がかかっていた。

そこで、多くの開発者が注目したのが、当時はPCゲーミング専用といってよかったGPU(Graphics Processing Unit)だった。NVIDIAが2006年に発表していたGPUを汎用演算に利用するミドルウェアとなるCUDA(クーダ)とNVIDIA GPUを組み合わせることで、大量のデータを並列処理することが可能になった。

CPUだと数カ月かかっていたAI学習を、GPUを使えば数時間など文字通り桁外れに短縮できることが知れ渡ると、AI開発者は競うようにNVIDIA GPUを購入して利用するようになった。

NVIDIAが賢かったのは、そうしたCUDAのメリットを、さらに追加のソフトウェアを提供することで拡張したことだ。

NVIDIA AIの基本戦略のスライドNVIDIA AIの基本戦略。GPUなどのハードウェアとCUDA/CUDA-Xなどのソフトウェアにより基盤を構築し、それをAI、HPC、自動車、ロボット…のように産業別に横展開していく。出典:How AI is Shaping the Future of Financial Services、NVIDIA

例えば、CUDA-Xと呼ばれるライブラリー群を開発し、そのライブラリー群を利用すると、AIアプリケーションが容易に開発できるようにした。

データ処理であれば「CUDA-Xデータプロセッシング」、AIであれば「CUDA-X AI」、HPC(High-Performance Computing、高性能計算)向けには「CUDA-X HPC」、さらにはロボット産業向けの「Issac」、自動車向けの「Drive」、製薬向けの「Clara」などといった具合だ。

HPCやAIといった抽象的な処理だけでなく、実際の産業の使い方に特化したソフトウェアを容易にできるようにしていった。

そのため、AIに取り組むのは初めてという人でも、CUDAとCUDA-Xベースのライブラリー群を利用することで、短時間にソフトウェアを構築できる。だから次のハードウェア選択時にもNVIDIA GPUを選択する。

そんな循環が発生して、今やAI学習であれば「NVIDIAには他にライバルなし」という状況になった。

ブランコ氏は「NVIDIAはGPUだけでなく、AIのプラットホームを提供しており、今後金融産業に必要なものだ」と述べ、NVIDIAが産業別に横展開を行なってきたAI基盤を、金融産業に広げていくのが基本的な戦略だと説明した。

FinTechにAIは2500~3400億ドルの価値をもたらす金融業界への価値のスライドAIは金融業界全体に2500〜3400億ドル規模の価値をもたらすとNVIDIA。出典:How AI is Shaping the Future of Financial Services、NVIDIA

AI、HPC、自動車、ロボット、製薬などで多くの採用例を実現してきたNVIDIAが、次のターゲットとして金融に進出するというのは論理的に理にかなっている。というのも、金融産業はITへの投資をかなり大きく行なっているからだ。

マッキンゼーの発表によると、グローバルなフィンテック(金融産業向けのIT)は2025年時点で年間6500億ドル(1ドル=159円換算で、103兆3500億円)の売上になっており、2024年に比較して21%の成長、直近4年間で見ると23%のCAGR(年平均成長率)で実現しているという。

マッキンゼーは、従来の金融サービスを含めた金融産業全体の年間売上を15兆ドル(同、2385兆円)、6%の成長率で推移しているとし、売上規模は比較的に小さいながらもフィンテック市場が急速に成長していると分析。NVIDIAがそうしたフィンテック市場を次のターゲットにしたというのは不思議ではない。

では、金融産業側のメリットはなんなのだろうか?ブランコ氏は金融業界が歴史的な転換点を迎えつつあり、従来のシステムからAIを活用したものへの移行期にあると説明していた。

「我々が提供するのは、銀行のITにインテリジェンス(AI)を追加することだ。1961年に銀行はメインフレームを導入して、紙からデータへの移行を開始した。そこから60年以上が経過した今、機器はメインフレームからデータセンターに変わりつつあるが、データが蓄積されているという本質は変わっていない。

銀行にとって最も重要な資産はそうしたデータであり、銀行にとってはそれを活用して競合との差別化を図っていくのが重要だ」(ブランコ氏)

金融業界の遷移1961年のメインフレーム導入で紙の時代からデジタルの時代への転換が始まり、2025年のAI導入でデジタルからAIの時代へ。出典:How AI is Shaping the Future of Financial Services、NVIDIA

ブランコ氏は銀行がこれまでにたどってきたシステムの歴史を以下のように整理した。今は1961年に銀行がメインフレームを導入して紙からデータへと移行した時代が始まった時期と同じような「時代の始まり」に立っているのだと説明した。

1961年まで:紙中心の時代1961年から最初の銀行がメインフレームを導入して以降:データ中心の時代2025年以降に大規模なAIファクトリー(AIデータセンター)を導入した銀行が登場:インテリジェンス中心の時代

今後銀行業のITにAIが入っていくことで、さまざまな新しいアプリケーションが生まれ、金融産業顧客のユーザー体験を改善し、他の銀行との競争に優位に立つということだ。

筆者も生まれる前なので、1961年当時がどうだったのかは知るよしもないが、今も昔も新しい技術の導入時には「本当に必要か?」という反対意見が出ることは変わっていないと思う。

おそらく当時もそうした議論はあったのだと思うが、今から振り返れば、仮にその時にメインフレーム(後にデータセンター)の導入を拒んだ銀行は、その後競争力を落としたということは容易に想像できる。そうした新しいテクノロジーをいち早く導入した銀行が優位に立ってきた、それがフィンテックの市場規模が6500億ドルに達していることの理由だと考えられる。

そうした金融産業向けのITが、今やAIで大きく変わろうとしている。フランコ氏は「AIを導入することで金融産業は2000~3000億ドル規模の利益を得られる」と述べ、AIを金融産業のITに導入することで、新しい価値を生めると説明した。それが金融産業側から見た、NVIDIAのAIが必要になる大きな理由と言える。

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「オープンソースなAIモデル」が重要な理由