Google Chromeに追加予定のAI機能「Prompt API」はなぜMozillaに反対されているのか? – GIGAZINE


GoogleがChromeに搭載を進めると同時にブラウザ間で標準化する取り組みも行っている「Prompt API」に対して、Mozillaが反対の立場を示しています。

Prompt API · Issue #1213 · mozilla/standards-positions
https://github.com/mozilla/standards-positions/issues/1213#issuecomment-4347988313

Prompt APIは、ウェブページからブラウザ内蔵の言語モデルへ直接プロンプトを送り、文章生成や要約、情報抽出などを実行できるようにするAPIです。仕様文書では、機密データをローカルで処理できること、オフラインで使えること、ウェブ開発者のAPI利用料を下げられることなどが利点として挙げられています。

Mozillaが新しいウェブ標準案について「賛成」「反対」「懸念あり」といった公式見解を公開するための場所であるMozillaのStandards Positionsリポジトリにおいて、MozillaはPrompt APIに「反対」の評価を下しています。Mozillaでウェブ開発者リレーションを担当するジェイク・アーチボルド氏はPrompt APIがウェブプラットフォームの相互運用性、更新可能性、中立性に深刻な悪影響を与えると述べました。


Mozillaが特に問題視しているのは、プロンプトがモデルごとに強く最適化されてしまう点です。ある開発者がGemini Nanoで期待通りに動くプロンプトを作ったとしても、別のブラウザが別の言語モデルを使った場合、同じプロンプトで同じ品質の出力が得られる保証はありません。Prompt APIのREADMEにも、ブラウザ間でのモデル品質、安定性、相互運用性は保証しないと明記されています。

Chromeで利用されるGemini Nano向けに「出力形式を細かく指定する」「拒否されないように回りくどく書く」といった調整を行うと、別のブラウザに組み込まれた別のモデルでは調整が過剰になったり、逆効果になったりします。従来のWeb APIであれば、仕様に従って同じJavaScriptが複数ブラウザで同じように動くことを目指せますが、AIモデルの出力はモデルの学習データ、システムプロンプト、安全ポリシー、バージョン更新に左右されるため、Prompt APIでは同じ記述が同じ結果を生むとは限りません。

Google側は、Prompt APIが「ブラウザ提供のオンデバイスAI言語モデル」へ直接アクセスするためのAPIであり、JSONスキーマや正規表現による出力制約によって、生成テキストを処理しやすくできると説明しています。Chromeなどで使われているレンダリングエンジン「Blink」の開発者向けメーリングリストに投稿された「Intent to Ship」では、GoogleがPrompt APIを実験段階から通常のウェブページで利用できる機能として有効化しようとしていることが説明されています。

Mozilla側から見ると「通常のウェブページ向けに有効化される」ことも問題です。Chromeに実装されることでPrompt APIの対応サイトが増えると、他ブラウザは互換性を保つためにChromeと似た挙動を再現する圧力を受けます。さらに、最初にPrompt APIで使用されるAIモデルがGoogleのGemini Nanoであれば、ウェブ全体がGemini Nanoの挙動へ引き寄せられる危険があります。


さらに、アーチボルド氏はChromeでPrompt APIを使う際にGoogleの生成AIに関する利用ポリシーへの同意が絡む点についても問題視しています。ウェブ標準APIの利用可否が、ブラウザベンダーやモデル提供者ごとの独自ポリシーに左右される構図は、ウェブプラットフォームの中立性を損なう前例になり得ます。

なお、Mozilla自身もFirefoxにAI向けの実行基盤を入れています。しかしFirefoxのAI Runtimeは、Firefox内部機能やFirefox拡張機能向けの仕組みであり、通常のウェブページ向けの標準APIではありません。また、Firefoxの仕組みはタスク名やモデルIDを明示して使う設計で、「どのモデルを使っているのか」を隠すPrompt APIとは性格が異なります。

Prompt APIは、ローカルAI、プライバシー、オフライン動作、低コストという魅力的な利点を持っています。一方で、ウェブ標準として公開するには、モデル依存性、利用規約、更新時の破壊的変更、ブラウザ間の互換性という難題を抱えています。Mozillaは「AIをウェブから排除したい」と主張しているのではなく、「ウェブ標準APIとして入れるなら、ウェブを特定モデルや特定企業の都合に結び付けない設計が必要」と主張しているというわけです。

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