プラットフォーマー総力戦の時代へ。主役はアプリレイヤー
Hannover messe2026レポート最終回となる今回は、製造業の業務基盤を下支えする巨大プラットフォーマーであるSAP、Amazon (AWS)、Microsoftの展示を紹介する。3社は製造業全体の業務・工場・サプライチェーンの内側でエージェント型AIを実務として動かし、製造業全体を変えていくという強いメッセージを発信していた。ERP (ヒト、モノ、カネ、情報の一元管理)・クラウドなど既存の資産を足がかりに、その文脈をAIが継承して業務を走らせる。そんな各社の世界観を、ブースツアーを通して紹介したい。

プレスツアーでのSAPによる事前説明会の様子。
SAPは架空工場を舞台に「AIで実現する新しい製造工程とサプライチェーンのオーケストレーション」を体験展示
SAPの展示とブースツアーで、筆者は極めてクオリティの高い参加体験を得られた。国内外を問わず、展示出展を企画するBtoB企業の担当者はもとより、CMOも参考にするべきだろう。
SAPのブース体験は、架空のエナジードリンク「Ginger Shot」の工場を舞台としたシナリオに沿って始まる。遠隔地のボトリング工場とハノーバー近郊のパッケージング工場(いずれも架空)が登場し、SAPの「Operations & Insights」コントロールセンターでは、船便遅延・原材料高騰・自然災害といった外部のニュースやインシデントをAIが取り込み、経営インパクト順にアラートがランキング表示されていく。その結果、ドリンクの受注データから「4~6週間の遅延で18.4Mドル規模の機会損失」と即時に試算され、そこからSAPの対話型AI「Joule」が発動する。
ここからがSAPの本領発揮だ。稼働中の40近いAIエージェント群(たとえばInventory Balancing Agent、Supplier Discovery Agent、Trade-off Analysis Agentなど)がマルチアプリケーションで連携し、「A案:ブラジルから代替調達」「B案:待機」「C案:ローカル調達+レシピ変更」の3シナリオをAIが自動提案する。人間は最適解を組み合わせて選ぶだけで、関連部門にタスクが自動アサインされ、実行に移る。まさに経営と現場をつなぐ「Process AI」が実現しているのだ。これがSAPの展示テーマ「Trusted Orchestration, Smarter Execution」の正体である。
さらに製造側(ものづくり)では、充填ライン設備総合効率の悪化要因を、SAPのJoule AIに対して自然言語で問うと、ダウンタイムの原因候補と対策アクションが即座に返ってくる。そして、予知保全(設備の稼働状況をリアルタイムで監視し、故障の兆候を検知して最適なタイミングでメンテナンスを行うこと)によりパーツや保守員アサインまでエージェントがスケジューリングし、Business Network経由でサービスパーツメーカーに発注が流れる。専門性の高い内容だが、ERP、MES(生産効率を最大化する製造実行システム)、PLM(生産ライフサイクル管理)、Business Networkが「縦串」で一本化され、その上をAIエージェントが「横串」で機能する姿は、ERP導入企業にとって強い示唆を投げかける。プロダクトの強さもさることながら、SAPの展示ストーリー設計の秀逸さには、日本企業も見習えるところが多いだろう。
SAPは複雑で広範なソリューションの展示を、ストーリーによってわかりやすく提示し、体験させる。
SAPのブースツアーは、架空の栄養ドリンク「Ginger Shot」の製造サプライチェーンを巡る物語として設計されている。ちなみにツアー参加者はお土産に持ち帰れる。
架空の工場を管理するコントロールセンター。左上の画面に映っているのが、遠隔地にある工場の様子。Physical AIロボットが指示に応じて工場の様子を確認してくれる。
地図の右下、Asian Shipping Delays(アジアの物流遅延)がアラート表示されている。ここから AIがサポートしてくれる様子をツアーとして見せてくれる。

サプライチェーンの物流自動化の様子。自動運搬カートとヒューマノイドロボットが指示に応じて共創する。
AmazonのAWSは産業用AIの大規模実装を訴求
AWSのブースツアーは「Industrial AI at scale」を掲げた。今年の主題は「Physical AIの裏側の5ステップ――Data Collection、Training、Simulation、Deployment、Agentic」。従来では実機で数ヵ月かかっていたロボット訓練と検証の9割以上が、Cloud上の仮想環境で完結するようになったのが最大の特徴だという。Cloudの合成データで学習を加速し、Edge側へデプロイされ、自然言語による指示をエージェントがロボットの関節動作へと翻訳する。Amazonは自社物流倉庫200拠点超に、100万台超ものAMR(世界最大の自律型モバイルロボット群)を15年間、運用してきた実績を強調した。
Microsoftは知能への投資対効果を強調
Microsoftは、「Return on Intelligence」を掲げた。直訳すれば「知能への投資対効果」だが要は、「AIを実験で終わらせず、工場やサプライチェーンを実際に良くする力へと変換させる」という宣言だ。EVP and Chief Revenue Officer, Global Enterprise Sales, MicrosoftのDeb Cupp氏は基調講演において、「Industrial Intelligence Unlocked」、つまり製造現場に蓄積された知見をAIで引き出す取り組みを説明した。基盤となるのは、仕事の流れを理解するWork IQ、工場や経営のデータを理解するFabric IQ、文書や図面などを理解するFoundry IQである。これらをつなぐことで、AIは単なる質問相手ではなく、現場の状況を読み、次に取るべき行動を示す存在になる。
Microsoftのブースツアーにおいても、人の動きをロボットに学ばせるPhysical AI、技術図面をAIで比較する仕組み、設備アラートの原因と対処法まで示すIoTの進化が紹介された。象徴的だったのがKrones(ドイツに本社を置く世界的な飲料充填の製造ラインメーカー)のボトル充填機のデジタルツインだ。実機とほぼ同じ動きを仮想空間で再現し、液体がこぼれない条件を事前に検証する。KronesのCEOであるChristoph Klenk氏は、「試作やパイロットはもう十分。本業を動かすAIが欲しかった」と言い切り、Microsoft・NVIDIA・Ansys(米国に本社を置く世界的なシミュレーションソフトウェアサービス企業)・CADFEM(欧州最大級のコンピュータ支援エンジニアリング技術専門企業)の共同開発によって、流体シミュレーション時間を「4時間→5分未満(95%短縮)」まで圧縮した事例を披露した。
EVP and Chief Revenue Officer, Global Enterprise Sales, MicrosoftのDeb Cupp氏
ソートリーダーとしてのハイレベルかつ高品位の体験展示
Hannover messeは、筆者にとって昨年に続き2回目の参加であったが、明らかに「進化」を感じた。製造業バリューチェーンへのAI導入と拡大、ロボットの可能性を示唆する展示、Physical AIへの期待。工場間・会社間・国間を横断して機能するプラットフォームやデータ共通規格の発信と普及。ドイツのIndustrial 4.0を中心に、AI時代の新しい製造業のエコシステムの普及に邁進する欧州、エコシステムに入り込む米国ビックスケーラー、そしてロボット領域で参入する中国企業の姿がそこにあった。
特に目を見張ったのが、Siemens、Schneider Electronics、そしてSAPの体験展示のクオリティの高さだった。そこには各企業の現在地や、すぐそこの未来、PoC (概念実証)的な取り組み、そして目指す未来の姿が、ストーリーとなって展開されていた。個々の展示物は専門性の高いエンジニアレベルの情報要素だが、全体的なストーリーや構想は経営層に刺さる内容・見せ方となっている。専門性とビジネス可能性の両面をハイブリットに備えたプラットフォーム・エコシステムとしてのハイレベルかつ高品位な展示は、これらの企業のソートリーダー(Thought Leader:特定の業界やテーマにおける思想的リーダー)としての立場を体現していたと言っていいだろう。日本のBtoB製造業でコミュニケーションに携わる皆さんにも、ぜひドイツまで足を運んでいただき、欧州企業の体験展示から学びを得ていただけたらと思う。
コラム1:ヒューマノイドロボットの可能性
Hannover messe2026では、会場の至るところでヒューマノイドロボットに出会った。どこを見渡してもヒューマンロボットが目に入らない場所はない、と言っても過言ではないくらいだ。
特に、中国のUnitree社のヒューマノイドロボットは屋外、屋内の通路、展示ブースなど、さまざまな場所で見かけた。一頃の「ペッパーくん」が思い起こされる。他にも自動化工場でヒューマノイドロボットが別の産業用ロボットや自動化されたカートと協働していたり、人(本物のヒューマン)とヒューマノイドロボットが共創したりする様子も紹介されていた。
これらのヒューマノイドロボットに関して出展者などに取材すると、まずは工場内の特定環境や人が働かない夜間に作業を行うなど、スペックに応じて新しいプロセスを設計するフェーズにあるという。ヒューマノイドロボットは依然として黎明期にあり、実用性は限定的だ。だが、「将来は主流になる」という確信を持って、臆せずプロトタイプを展示・発信している欧州や中国の企業の姿は非常に強く印象に残るもので、日本企業はこうした点で、ややコンサバティブになりすぎる傾向があるのかもしれないと感じた。




コラム2:日本企業の出展状況
数は多くないが、日本企業による出展もあった。いくつかブースの写真を紹介して、Hannover messe 2026現地レポートを終えたいと思う。

FA(工場自動化)の総合メーカー・キーエンス。

計測機器メーカーの堀場製作所。

工作機械メーカーのDMG森精機。

機械要素部品メーカーのTHK。

ロボットメーカーのファナック。