そして、松尾教授はこう続けた。
「我々の創造性は、いったいどこに行ってしまったのか」(松尾教授)
研究者にとっての独自性はどこにあるのか。この問いは、他の有識者にも共有されたテーマだった。
写真左からBerkeley Haas School of Business Continuing LecturerのJon Metzler氏、Springer Nature Chief Product OfficerのSaskia Steinacker氏。撮影:小林優多郎
28日に同セッションに登壇したカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールの専任講師(Continuing Lecturer)のジョン・メツラー(Jon Metzler)氏は「AIは増幅装置だ。優秀な研究者はより優れた研究者になれるが、悪い面も同じように増幅する」と整理した。
同じく登壇者の1人で、学術出版社・シュプリンガーネイチャー(Springer Nature)の最高製品責任者であるサスキア・シュタインアッカー(Saskia Steinacker)氏も「研究そのものは人間が行うものであり、AIは科学的洞察を生成しない。意思決定の最終的な責任は常に人間にある」と線を引いた。
世界知的所有権機関(WIPO)事務局長補の夏目健一郎氏。撮影:小林優多郎
いずれの登壇者もAIでアイデアを生み出す行為自体を否定したわけではないが、その扱いがセンシティブな論点であることも示された。
知的財産の保護・活用を促進する国連の専門組織である世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長補を務める夏目健一郎氏は、AI生成物の著作権をめぐる国際的な見解の違いを指摘。
アメリカではAI生成物に著作権を認めない傾向がある一方、中国では多数のプロンプトを入力する行為を「創造行為」と認めた判例があるとし、WIPOの194の加盟国間で合意形成を図ることの難しさを語った。
不確実な未来でも変わらぬ使命
松尾教授がセッションで示した、AGIが世界経済・社会・安全保障に大きな影響を与えるため、アメリカ・ビッグテックが巨額投資をして開発競争を進めている現状に関する資料。撮影:小林優多郎
セッション終盤、モデレーターを務めたForbes JAPAN執行役員Web編集長の谷本有香氏から非常に難しい問いが登壇者に投げかけられた。
「3〜5年先、AI研究者としてどんな未来があると考えているか」(谷本氏)
これに松尾教授は率直に「正直、何が起こるかはわからない」と答えた。
AGIが社会に普及し、人間が担ってきた仕事がAIへと移っていく未来。学生はコードを書かず、アイデアまでAIが出す時代。そこで研究者は何をすべきなのか。明確な答えは、まだ誰にも見えていない。それでも松尾教授は、最後にこう言い切った。
「我々の責任は、変化をより良い方向に持っていくことにある。科学者がAIを活用しながら社会により貢献し、知財を社会のために生み出していく。このミッションはAIの前後で変わらない」(松尾教授)