イーロン・マスク対「常習的な嘘つき」疑惑のOpenAIアルトマンの裁判が、単なる「2人の確執」では済まない深刻な理由 | Business Insider Japan

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ビッグテックの動向

矢印Elon Musk and Sam Altman photo collageイーロン・マスク氏は、OpenAIのサム・アルトマンCEOが信頼できる人間なのかどうかを法廷で問いただそうとしている。Anna Moneymaker/Getty; Anadolu/Getty; Northern District of California court; Tyler Le/BIイーロン・マスク氏がサム・アルトマン氏とOpenAIに対して起こした訴訟が、4月27日に始まった。OpenAIの共同創設者の1人でもあるマスク氏は、アルトマン氏とグレッグ・ブロックマン氏が同社を事実上の営利企業に変貌させ、自分を欺いたと主張している。対するOpenAI側は、マスク氏は自身の人工知能(AI)企業「xAI」がOpenAIと比べて大きく遅れをとっていることで嫉妬しているに過ぎないと反論している。

2023年初頭、イーロン・マスク(Elon Musk)氏が公の場でOpenAI批判を始めたとき、サム・アルトマン(Sam Altman)氏は彼にテキストメッセージを送った。

アルトマン氏は動揺していた。

「あなたがしてくれたすべてのことに、心から感謝している。あなたなしではOpenAIは生まれなかっただろう。だからこそ、あなたが公にOpenAIを攻撃するのを見ると、本当に心が痛い」とアルトマン氏はつづった。

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想像を絶するパワーを持つからこその問題

マスク氏とアルトマン氏の複雑で泥沼化した因縁の歴史は今週、ついに法廷へと持ち込まれた。そして、カリフォルニア州に住む9人の一般市民が評決を下す機会を与えられることになる。

陪審員が担うのは、アルトマン氏に対するマスク氏の訴えの真偽を深く掘り下げ、判断するという任務だ。マスク氏が主張するように、アルトマン氏はOpenAIの営利化計画について、このテスラ(Tesla)CEOを本当に欺いたのか。

この裁判は、いまのビッグテック(巨大IT企業)時代における最大の問いの核心を浮かび上がらせている。すなわち「想像を絶するパワーを持つ企業の経営を、欠陥のある人間に委ねていいのか?」という問いだ。

そのため、メディアの報道熱も高まっている。ブルームバーグ(Bloomberg)はこの裁判を「直接対決」と報じ、ワイアード(Wired)は「OpenAIの魂をかけた戦い」と呼んだ。

上場を前に暗い影落とす「常習的な嘘つき」疑惑OpenAI CEO Sam Altman onstage at an event in Washington, DC, March 2026サム・アルトマン氏率いるOpenAIは、広告事業の推進に大きな野望を抱いている。Anna Moneymaker/Getty Images

アルトマン氏の誠実さをめぐる疑念は、長年にわたって彼につきまとってきた。最近も、彼が信用するに足る人間かどうかについて、「ニューヨーカー(The New Yorker)」誌が1万6000語に及ぶ長編記事で取り上げたばかりだ。

2023年にOpenAIの取締役会がアルトマン氏をCEOから解任したときも、解任理由として言及されたのが彼の「率直さの欠如」に関する問題だった。同社の初代チーフ・サイエンティストも、アルトマン氏は「行動パターンとして常習的に嘘をつく」と発言している。マスク氏はXで、アルトマン氏を「詐欺師(swindler)」「詐欺師アルトマン(Scam Altman)」と呼んで非難してきた。

この問題は、ChatGPTの開発元であるOpenAIが今年中に行うと予想されている新規株式公開(IPO)を控え、依然として暗い影を落としている。

自分を出し抜いて営利部門を設立した

マスク氏が一番初めに提訴した2024年の訴訟は、彼に対する長年の疑念に拍車をかけた。

マスク氏の言い分によれば、彼の名声と費やした時間、そして長年にわたる総額約4000万ドル(約63億6000万円、1ドル=159円)の資金提供は、この非営利団体を運営していくうえで不可欠だった。2015年、両氏は全人類に恩恵をもたらす安全なAIテクノロジーを開発するという目的でOpenAIを共同で設立した。「OpenAI」という名称を考案したのはマスク氏であり、当時OpenAIが競合と見なしていたグーグル(Google)傘下の営利企業ディープマインド(DeepMind)から、イリヤ・サツケヴァー(Ilya Sutskever、OpenAIの共同創設者で同社のチーフサイエンティストだった)氏を引き抜くのにも一役買った。

しかし、アルトマン氏とOpenAIの現社長グレッグ・ブロックマン(Greg Brockman、彼も共同創設者の1人)氏は強欲になったとマスク氏は主張。2人はマスク氏を出し抜いて組織の営利部門を立ち上げ、マイクロソフト(Microsoft)と提携したというのだ。訴状によれば、その背信行為によって生まれたのは「市場を麻痺させる営利主義のゴルゴン(怪物)」であり、マスク氏の寛大さを踏み台にして「マイクロソフトの事実上の子会社」と化したという。

「マスクは我々の足を引っ張りたいだけ」

しかし、アルトマン氏とOpenAI側が裁判資料で語るストーリーは、それとはまったく異なっている。

彼らの主張によれば、マスク氏が起こした訴訟は、自身のAI企業xAIがOpenAIに大きく遅れをとっていることから、OpenAIの足を引っ張ろうとする企て以外の何ものでもないというものだ。

さらにOpenAI側は、自らの使命を果たすために必要な計算資源の資金を調達するには営利部門が不可欠だということには、マスク氏自身も同意していたと主張している。そして、マスク氏が要求した組織の支配権の掌握について、OpenAIのほかの幹部や取締役会のメンバーが拒否したため、このテスラ(Tesla)とスペースX(SpaceX)のCEOは自ら取締役を辞任したのだ——とOpenAIは説明している。

Elon Musk in 20252025年のイーロン・マスク氏。Bloomberg/Getty ImagesOpenAIの設立理念をめぐるこの訴訟の意味

この訴訟を通じて明らかになった電子メールや証言録取書、その他膨大な記録という「宝の山」は、OpenAI誕生の経緯をかつてないほど詳細に伝える貴重な手がかりだ。

これらの記録は、DeepMindの持つAI技術が一民間企業が手にするものとしてはあまりにも強大になりすぎると危惧していたマスク氏、アルトマン氏、ブロックマン氏の3人が、いかに公益性の高い対抗組織を設立しようと突き動かされていたかを示している。また、OpenAIとマイクロソフトの関係構築にマスク氏自身が関わっており、実際、アマゾン(Amazon)よりマイクロソフトをパートナーとして好ましいと思っていた事実も明らかになっている(なお、マイクロソフト側は、初期段階の当事者間のいざこざについては一切把握しておらず、誰がどのような約束を交わしていたとしても、我々に責任はないと主張している)。

さらに、OpenAIの成長に伴って表面化した、泥沼の非難合戦や密室政治、感情的な対立、そして肥大化していくエゴといった醜い内幕も白日の下にさらしている。

サム・アルトマン側に軍配、裁判所がxAIの人材引き抜き訴訟を却下 | Business Insider Japan

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ブロックマン社長が日記に記した懸念と野望