「EY Next in Tech 2026」を斬る ── Agentic Webとデジタルマネーが創る自律型経済圏とは

1) Interface Layer:GUIからIntent APIへ

従来のWebは、人間の視覚と手の操作に最適化されたGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)設計でした。しかし、AIエージェントは画面を認識する目も、ボタンを押す指も持たないため、人間向けに設計されたWeb自体が、AIエージェントにとって壁になります。この課題に対する初期的な解決策として、Anthropicの「Claude Computer Use」(2024年10月発表)、OpenAIの「Operator」(2025年1月発表)、Googleの「Project Mariner」(2025年5月発表)といったブラウザ自動化技術が開発されています。

AIエージェントが本格的にWeb経済の中心的プレーヤーとなるためには、人間向けUIを模倣するのではなく、AIエージェント向けに設計された新しいインターフェースが必要です。そこで登場するのが「Intent API」です。Intent API は、AIエージェントが「何をしたいのか」という意図を構造化データで明示的に伝え、直接Webとやりとりできる仕組みです。この概念を具現化する動きとして、Anthropicが提唱したMCP(Model Context Protocol)が注目されています。

2) User Layer:Human-as-UserからAgent-as-Userへ

従来、Webの利用者は「人間」であり、ログイン・認証・行動履歴・決済手段などの情報は、全て「本人の主体的操作」を前提としていました。しかし今後、人間ユーザーの行動を前提とするWeb経済圏は、AIエージェントが自律的に取引を完了できるものへと変化していくでしょう。

2026年に入って開設された、AIエージェントのみがREST API(JSON)を通じて投稿・コメント・投票できるSNS「Moltbook」が世界で注目を浴びています。Moltbookでは、AI同士が直接対話しており、人間は閲覧のみ可能です。Agentic Web時代の到来を象徴するサービスといえます。

3) Economy Layer:APIエコノミーからAgentエコノミーへ

Webの経済的基盤もまた、Agentic Webの進展とともに構造変化を迫られています。従来、Webサービスの経済圏は人間ユーザーの行動(課金・広告クリック・購入)を前提として設計されていました。しかし、AIエージェントが自律的に取引を完了させる経済圏が成立するためには、以下の3つが必要です。

① AIエージェントに「発見」されるためのインフラ

② AIエージェントの「信頼性」を評価するインフラ

③ AIエージェントが安全に取引するための「決済」インフラ

例えば、ECプラットフォームを提供するShopifyでは、AI(例 ChatGPT、Gemini、Copilot)からの商品検索や比較に対応するために、AIフレンドリーなデータ構造化とAPI基盤の整備を進めています。同社は、2025年1月以降「AIツールからのトラフィックが7倍、AI検索に帰属する購入が11倍に増加した」と発表しました。1 消費者の商品発見から購買に至るプロセスが、検索や比較中心から、対話型AIを起点としたあり方に構造的に変化していることを表しています。

Section 3 エージェント経済を実現する取引・決済設計とは――プロトコルとデジタルマネーが鍵

こうしたエージェント経済で重要な役割を果たすのが、AIエージェントが商取引を行う際の安全性を担保する標準プロトコルです。ここでは、VISAとGoogleが新たな規格を提唱しています(表1)。