2026年4月2日、Linux Foundationがx402 Foundationの発足を発表しました。x402は、HTTP上でステーブルコイン決済を完結させるオープンプロトコルです。Coinbase・Cloudflare・Stripeが初期開発を主導し、Google、Microsoft、Mastercard、Visa、Amazon Web Services、Solana Foundationなど合計22社が発足メンバーに加わっています。
さらに4月19日には、Coinbaseがx402対応サービスを横断的に発見・統合できるマーケットプレイス「Agentic.Market」を公開しています。
今回は、HTTP 402ステータスコードを活用したx402の仕組みと、Foundation発足およびAgentic.Market公開がAIエージェント決済の標準化にどう寄与するのかについて解説します。
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HTTP 402とエージェント決済の課題、x402とは何か
x402プロトコルの名称は、HTTPステータスコード「402 Payment Required」に由来します。HTTPは1999年に公開されたHTTP/1.1の改訂仕様(RFC 2616、現在はRFC 9110に統合)で、将来的なウェブ上の課金を想定して402を予約していました。
しかしクレジットカード手数料の最低額やマイクロペイメント技術の未成熟から、約30年にわたり実際の運用例はほとんど存在しませんでした。
ウェブAPIの決済への利用は、従来「APIキーの事前取得」「契約書の締結」「月額または従量課金」の組み合わせで構築されてきました。こうした仕組みは、長期契約を前提とした企業間連携には適していますが、AIエージェントが自律的に新しいサービスを発見して呼び出す用途では摩擦が大きくなります。1回あたり数セント単位の呼び出しに対して、そのたびに人間の契約手続きやキー管理が発生するためです。
ウェブ上のマイクロペイメントは過去にも試みられてきました。ブラウザ向けの投げ銭サービス「Flattr」、Basic Attention Tokenを用いたBraveブラウザ、Bitcoinの決済網「Lightning Network」などが代表例です。いずれもUXの煩雑さやオンチェーン手数料の大きさが障壁となり、汎用基盤としては普及しませんでした。
ここにEthereumのレイヤー2(Base、Arbitrumなど)およびSolanaなどの高スループットチェーンの実用化と、ステーブルコインUSDCの流通が重なり、1回数セント単位の決済をリアルタイムで処理できる技術条件が整ってきました。
こうした中で登場したx402は、2025年5月にCoinbaseが提唱したマイクロペイメント用のプロトコルです。HTTP 402レスポンスに支払い要件情報を乗せ、クライアントが署名付きペイロードを付けて再送するとステーブルコイン決済が確定するという設計となっています。
2025年12月にはウォレットベースの識別、動的な受取先指定、マルチチェーン対応を含むV2が公開されており、2026年2月にはStripeがBaseネットワーク上のUSDC決済としてx402を自社サービスに統合しています。
Coinbase自身も、2025年後半から開発者向けツール群であるCoinbase Developer Platform(CDP)にx402のFacilitator機能を組み込み、API提供者がステーブルコイン決済を受け取れる環境を整えてきました。このような複数の実装が行われていたことが、今回のLinux Foundationによるx402 Foundationの発足に繋がったと考えられます。
x402 FoundationとAgentic.Marketの発表詳細
x402 Foundationは、Linux Foundation傘下の非営利団体として2026年4月2日、ニューヨーク市で開催されたMCP Dev Summit North Americaで正式に発足しました。プロトコルの運営はApache 2.0ライセンスのもとで行われ、特定企業による支配を避ける中立的なガバナンスが敷かれます。
初期開発を担ったCoinbase・Cloudflare・Stripeに加え、Google、Microsoft、Amazon Web Services、Mastercard、Visa、American Express、Circle、Base、Solana Foundation、Shopifyなど、計22社が発足メンバーとして参加しています。カード決済網・PSP・クラウド事業者・ブロックチェーン・eコマース・AIエージェント開発会社という6領域が発足メンバーに含まれます。
x402プロトコルの決済フローは、HTTP上の3種類のカスタムヘッダーで進行します。クライアントが有料リソースにアクセスすると、サーバーは「HTTP 402 Payment Required」と「PAYMENT-REQUIRED」ヘッダー(決済額、受取先アドレス、対応チェーン、スキーム名を含む)を返します。
クライアントは指定のウォレットで支払いペイロードを作成し、「PAYMENT-SIGNATURE」ヘッダーに乗せて同じリクエストを再送します。オンチェーン送信は、Facilitatorと呼ばれる中継ノードが代行します。Facilitatorは主にCoinbase Developer PlatformやCloudflareが運営しており、決済確定後にサーバーが「PAYMENT-RESPONSE」ヘッダー付きの200 OKを返す流れです。
このように、クライアント・サーバーともに、ウォレットの秘密鍵管理やガス代の支払いを意識する必要がない設計となっています。
対応ブロックチェーンはEthereum互換のEVM系と、Solanaの両方に対応しており、公式SDKはTypeScript・Python・Goで提供され、Javaなど他言語向けのコミュニティ実装も存在します。Coinbase公開のGitHubリポジトリによると、サーバーは既存のウェブフレームワークに数行のコードを追加するだけでx402に対応できます。
現在提供されている機能は固定額を送金する「exact」のみですが、利用量に応じた課金に相当する「upto」や、クロウラー向けの遅延決済「deferred」などの拡張も提案されています。
Foundation発足時点で、x402は累計約1億6,500万件の取引を処理しており、取引量は合計約5,000万ドルに達しています。取引を行ったエージェントはのべ約48万で、Agentic.Market公開直後の2026年4月下旬時点で約6万9,000のエージェントがアクティブな状態でした。平均取引額は約0.31ドルとなっており、マイクロペイメントが中心の利用構造です。
x402で決済に利用されているチェーンの分布には偏りがあり、取引件数の約85%はCoinbaseのレイヤー2「Base」で処理される一方で、取引ボリューム(金額)の約65%はSolanaが占めています。
また、4月19日には、Agentic.MarketというAIエージェントと開発者がx402対応サービスを横断的に発見し、比較・統合できるプラットフォームもCoinbaseによって公開されました。取扱カテゴリは推論、データ、メディア、検索、ソーシャル、インフラ、取引の7分野で、Bloomberg、AWS Lambda、CoinGecko、Google Flights、X(旧Twitter)、LinkedInといったサービスの早期参加が確認されています。
従来のAPIと異なり、利用開始にはAPIキーの取得やサインアップが不要で、エージェントが決済を実行した時点で即座にアクセスできる仕組みです。
エージェント決済プロトコルの4層構造──AP2・MCP・ACP・x402
AIエージェントが自律的に外部サービスと取引するためには、「ツールとの接続」「認可などの権限管理」「加盟店との注文手続き」「決済」という4つの機能が必要です。これらに対応する形で、主要な業界プレイヤーは異なるレイヤーのプロトコルを提案しています。
ツールとの接続を行うプロトコルとしてはAnthropicのModel Context Protocol(MCP)、認可などの権限管理を行うプロトコルとしてはGoogleのAgent Payments Protocol(AP2)、eコマース向けの注文手続きを行うプロトコルとしてはOpenAIとStripeが共同で進めるAgentic Commerce Protocol(ACP)が位置づけられます。
x402はこれらのうち、実際の価値移動を担う決済を標準化する役割です。たとえばGoogleが公開しているA2A(Agent-to-Agent)x402拡張は、AP2で認可を受けたエージェント間の決済をx402で実行する構成で、Apache 2.0ライセンスのGitHubリポジトリとして公開されています。
エージェントの識別・評判情報を扱うイーサリアム標準ERC-8004も、x402やAP2とは別の、認可などの権限管理を行うプロトコルに位置するものです。こうした4つの機能は、競合ではなく、組み合わせて使う前提で設計されています。
Stripeはx402 Foundationの初期開発3社のうちの1社に含まれる一方で、自社が推進する独自レイヤー1ブロックチェーン「Tempo」とあわせて、Machine Payments Protocol(MPP)も提案しています。Stripe公式ドキュメントによると、MPPはx402を置き換えるものではなく、x402の「exact」課金フローをMPPのcharge intentにマッピングする形で後方互換性を保つ設計となっています。
このような点からも、Stripeが複数のエージェント決済規格をアグリゲートする立場として立ち回ろうとしていることがうかがえます。
考察
x402 FoundationのLinux Foundation傘下化は、プロトコルが特定企業のコントロールを離れるための制度設計といえます。
特にCoinbaseは、x402の初期開発者であると同時に、Coinbase Developer Platformの運営者であり、決済チェーンとしてのBaseの運営者でもあります。Linux Foundationの元に移し、オープンソースライセンスと中立的なガバナンスに整理することで、Solana FoundationやPolygon Labs、Microsoft、Google、Mastercard、Visaなど性質の異なる組織が、x402プロトコルを利用しやすくすることを意図しているものと推測されます。
x402 Foundationには、Mastercard、Visa、American Expressといった既存のカード決済網3社も発足メンバーに含まれています。1980年代から構築されてきたカード決済網と、HTTP 402を経由するステーブルコイン決済は、主要ユースケース(マイクロペイメント、機械間取引)が異なるため当面は住み分ける領域です。
ただしエージェント経済が拡大するにつれて重なる場面が増えることも想定されます。Foundation参加は、新たな決済層の仕様策定にカード事業者が関与する立場を確保する動きと読み取れます。
また、取引件数の約85%がBaseで処理される一方、取引ボリュームの約65%をSolanaが占める構造は、マイクロペイメントはBase、相対的に高額の決済はSolanaという棲み分けが現時点で起きていることを示しています。
単一のFacilitatorや単一のチェーンに依存しないマルチチェーン型の標準として機能するか、そして22社のメンバーがそれぞれの得意領域でx402を組み込めるかが、今後の採用拡大の試金石となることが想定されます。
NADA NEWS 編集部