NTTが生んだ「行間が読めるAI」の真価。40年の研究成果でも「AIは主役ではない」ワケ【日本企業のLLM】 | Business Insider Japan

NTTロゴNTTのAI戦略を取材した。撮影:松本和大

富士通、NECに続く「日本企業のLLM」取材の第3弾、ひとまずの締めくくりを飾るのがNTTだ。今回の連続取材ではここまで、海外の巨大AI企業が存在感を強める中、日本企業は独自のAIをどう位置づけ、どこに勝ち筋を見いだそうとしているのかを追ってきた。

その中でもNTTは性質上、他のIT系企業とは異なる部分がある。通信事業者でありつつ、傘下にITシステムの提供を行う事業者を抱えて総合的なビジネスを展開しているからだ。通信とそのインフラを起点にしている点が、富士通やNECとの大きな違いでもある。

NTTは独自のLLM(大規模言語モデル)「tsuzumi」の開発だけでなく、次世代の光ネットワーク基盤「IOWN」(アイオン)を生かした分散インフラの将来像まで含めて、AIの活用を構想している。

では、NTTはグループ全体として、日本独自のAIとその活用をどのように捉えているのか。AIを「作ること」自体を目的化せず、企業の業務変革や成長支援の中でどう位置づけようとしているのか。NTTで常務取締役常務執行役員CCXO Co-CAIOを務める大西佐知子氏に聞いた。

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「AIを作ること」が目的ではないNTT大西氏NTTの大西氏。撮影:松本和大

多くの企業がそうであるように、NTTにとっても「AIを作ること」は目的ではない。

NTTグループとしては「顧客のビジネスサポート」というビジネスが主目的であり、そのための道具としてのAI、という位置付けになる。

「我々は『AI for Quality Growth』(質を伴う成長のためのAI)という戦略を持っている」

大西氏はそう説明する。

「企業の皆様がビジネスプロセス刷新や事業成長のためにAIを活用していくことを、エンド・トゥ・エンドでサポートしていくのが目的。AIも1つのソリューションです」(大西氏)

導入に際しては顧客へのコンサルティングから始まり、適したAIモデルの選定、特化モデルへのカスタマイズ、そしてそれを稼働させるためのインフラ整備までを一貫して提供する。

その中では、データセンターインフラからサービスとしてのGPU提供まで、様々な形態が存在する。幅の広さこそがNTTという企業グループの特徴だ。

データ様々な業界や規模のクライアントを抱える。出典:NTT

特に現状、トータルでの判断が重要になる理由は「データ主権」への対応が必須となっているからだ。

企業が持つデータのうち、クラウドに移行できているものは50%程度に過ぎない、と言われている。機微な情報、構造化されていない情報は企業内に多数あり、それらの多くは、クラウド側ではなく企業のファシリティ内にある。

現在の流れとして、それらはクラウドに移していくのではなく、企業内にデータを残し、ガバナンスを効かせた形で活用することが求められる部分もある。AIでの利用もその流れの中に位置付けられる。

日本語研究を生かした「tsuzumi」の読解力tsuzumiNTTのLLMである「tsuzumi」。出典:NTT

そこで出てくるのが国産AIの利用だ。

NTTの場合には、独自開発したLLM「tsuzumi」がある。2024年3月に商用リリースされ、2025年10月からは、その進化版である「tsuzumi 2」の提供を開始した。

tsuzumiは、大手AIプラットフォーマーのフロンティアモデル(※)に比べ、コンパクトなモデルサイズであるのが特徴だ。

※フロンティアモデルとは:最先端・最高性能を競うAIモデルのこと。

OpenAIの「GPT-5」やアンソロピック(Anthropic)の「Claude」が2兆パラメータ級であるのに対し、tsuzumi 2は300億パラメータとかなり小さい。一般的な知識で比較すれば大手のフロンティアモデルに敵わないが、日本語の読解力では有利な部分がある。

日本語性能tsuzumiの特徴のひとつは日本語性能だ。出典:NTT

NTTが各社にAI導入を進める中で見えてきたのは「日本語のマニュアルを読解する能力」「日本語で書かれた文章の文脈理解力」という課題だ。

議事録などで出てくる「そうですね」という短い言葉ひとつをとっても、語尾のニュアンスによって、肯定にも否定にもなり得る。

医療業界での事例では、「日本独特の診療方針や一次診療・二次診療の役割分担が課題」と大西氏は指摘する。グローバルなデータだけで学習したモデルの場合、日本の診療方針に合わず、「ハルシネーションを起こしてしまう」(大西氏)というのだ。

企業の業務マニュアルは、独特の文脈や専門用語、さらには部署ごとに微妙に異なるルールが入り組んだ存在だ。まさに「非構造化データ」であり、汎用データからの学習だけでは「行間」を読み解けない。

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tsuzumiの強み、そしてAI戦略を支える「IOWN」