記事のポイント

OpenAIは広告マネージャーを早期導入し、広告事業をセルフサービス型へ転換しようとしているが、機能面はまだ初期段階にとどまっている。

巨額の計算コストと赤字拡大を背景に広告収益の確立は急務となり、将来的には売上の36%を占める中核事業と位置づけられている。

中小広告主の獲得にはセルフサービス機能が不可欠である一方、ターゲティングや測定など重要機能は未整備であり、成功には多くの課題が残る。

OpenAIには広告マネージャーがある。現在はテスト段階にあり、広告事業そのものと同時に正式ローンチされるとは限らない。同社はパートナーに対し、その点を強調している。しかし本質はそこではない。重要なのは、それが「すでに存在している」事実である。

これは歴史的に見て異例のことだ。こうした広告テクノロジーは、広告ビジネスの初期段階ではなく、かなり成熟した段階になってから登場するのが一般的だ。メタ(Meta)、Twitter、Snapchatはいずれも同じ軌跡をたどった。まず広告プロダクトを提供し、その後数年かけて需要を証明してからセルフサービス型の管理ツールを導入してきた。

唯一の例外はGoogleである。2000年にアドワーズ(AdWords)とそのセルフサービスマネージャーを同時にローンチし、結果として史上もっとも収益性の高い広告事業のひとつへと成長した。

「広告マネージャーは存在する」事実の意味

OpenAIの経営陣は明らかにこの事例を参考にしている。なぜなら、そのメリットは無視できないからだ。広告マネージャーは、広告事業を個別の直接取引の集合体からセルフサービス型のマーケットプレイスへと変える。広告主が営業担当を介さず、自ら予算設定、ターゲティング、成果測定を行える環境だ。Googleが実現したのはまさにそれである。問題は、OpenAIも同様の価値を証明できるかどうかにある。

少なくとも現時点では、それらしくは見える。Digidayが確認したダッシュボードの動画によれば、この広告マネージャーはGoogleのそれにある程度似ている。ただし、機能面がそれに追いつくかどうかは別問題である。

現状、広告主はインプレッション単位でしか課金できない。つまり広告が表示されるたびに費用が発生し、クリックの有無は関係ない。オンライン広告主の多くが依拠するクリック課金(CPC)や成果課金(CPA)は「近日提供予定」とされている。これらが実装されるまでは、ChatGPTでの広告はパフォーマンス広告主にとって実質的に利用しづらい状態にある。

ターゲティングも同様に初歩的だ。キーワードやフリーテキストのヒント、国単位の制限は可能だが、デモグラフィックターゲティングやオーディエンス購買ツールは存在しない。レポーティングも限定的で、インプレッションとクリックのグラフが確認できる程度である。オーディエンス規模の推定や最適化ツールも未実装だ。

UIだけではない広告基盤の複雑さ

これが現時点でのプロダクトだが、裏側では異なる様相を見せている。匿名を条件に取材に応じた広告幹部によれば、このプラットフォームは日々アップデートされている。A/Bテスト基盤はすでに整備され、フィーチャーフラグにより広告主ごとに異なるバージョンが表示される。最近では一括アップロード機能や新規広告主向けのオンボーディング画面も追加された。

アドテクコンサルタントのシャーリー・マーシャル氏は次のように語る。「広告マネージャーの構築は単なるUIの問題ではない。リアルタイム入札ロジック、測定、アトリビューション、不正対策など、多くの要素を扱う必要がある。それらすべてを大規模に安定稼働させるのは容易ではない。だからこそ皮肉なのは、これはバイブコーディングでは解決できない数少ないプロダクトかもしれない点だ」。

OpenAIが正式ローンチを急がない理由も理解できる。大規模なアドテク運用には、多数の要素を同時に整備する必要があるが、重要なピースのいくつかはまだ欠けている。ターゲティングのためのユーザープロファイル構築、コンバージョントラッキング、高度なレポーティングや分析などは未実装である。それでも同社は、この広告マネージャーが周辺的な存在ではないことを早い段階からパートナーに示している。これがなければ広告事業は成立せず、ひいては収益化への道筋も大きく難しくなる。

巨額コストが生む広告への回帰

独立系eコマース・AIアナリスト兼アドバイザーのユオザス・カジウケナス氏は、「彼らは逆順で物事を進めている。特に中小広告主のあいだで広告採用を加速させるためだ」と指摘する。

注目すべきは、この緊急性がいかに急速に生まれたかである。2023年時点では、同社CEOのサム・アルトマン氏は広告モデルに否定的だった。それがわずか3年で、専任の広告チームを立ち上げ、代理店と取引し、セルフサービス型マネージャーを試験運用している。否定からインフラ整備するまでに至っているのだ。

Wメディア・リサーチ(W Media Research)のカーステン・ワイド氏はこう語る。「OpenAIが早期に広告マネージャーを立ち上げているのは、膨大な計算コストと成長を支えるため、広告収益が今や急務だからだ」。

その数字は明白である。

昨年、OpenAIは80億ドル(約1兆2000億円)を消費した。今年は250億ドル(約3兆7500億円)、翌年には570億ドル(約8兆5500億円)に達すると予測されている。損失は2030年まで続く見込みで、その時点でようやくキャッシュフローが黒字化し、400億ドル(約6兆円)のフリーキャッシュフローを生み出すとされる。

広告はこの転換の中核だ。同社の試算では、広告収益は最終的に総売上の36%、すなわち3000億ドル(約45兆円)のうち1020億ドル(約15兆3000億円)を占める見通しである。

中小企業獲得のカギはセルフサービス機能

ヘラクレス・メディア(Heracles Media)のアナリスト、エリック・スーファート氏は、「年間1000億ドル規模の広告収益を達成するには中小企業市場の取り込みが不可欠であり、そのためにはセルフサービス機能が必要だ」と指摘する。

さらに、「広告マネージャーはすでに確立された設計標準を持つ領域であるため、今これを導入することで、同社は収益目標を達成するために必要な顧客プロファイル(中小企業)に最適化されたプラットフォームを構築できようになる」と語る。

その実現には、単に広告マネージャーを用意するだけでは足りない。迅速に、しかも広告マネージャーを中心にすべてを構築する必要がある。どの広告フォーマットがユーザー体験を損なわず最大の収益を生むのか。どのターゲティングシグナルが利用可能で、どう活用するのか。広告主が信頼できる成果測定とは何か。これをいかにグローバルに展開するのか。最終的に、ChatGPTでの広告がほかより優れているとどう証明するのか。

eMarketer(イーマーケター)の主席アナリストであるネイト・エリオット氏は、「それでもなお、実現できれば驚異的な成果だ」と述べる。比較対象として挙げられるのがNetflixである。同社は約10億人のユーザーを抱え、広告事業を開始して3年目で15億ドル(約2250億円)の収益を上げたが、OpenAIの目標を達成するには、その約20倍の速度で成長する必要がある。しかもNetflixと異なり、OpenAIには実績ある高価値広告フォーマットが存在しない。

広告マネージャーは配管にすぎない

それでも成功が不可能ではない。OpenAIは広告事業構築の経験を持つ経営陣を揃えており、AIチャットボット領域における最大の競合であるGoogleのGeminiよりも一歩先を行っている。Geminiはまだ広告分野で本格的な動きを見せていない。

広告マネージャーには改善の余地が大きく、多くの要素がうまく機能する必要がある。しかし、通常よりも速いペースで必要なピースが揃いつつある。そのスピード自体が、今回のストーリーの核心である。

AIマーケティングコンサルティング企業タウ(TAU)の創業者ロバート・ウェブスター氏はこう語る。

「OpenAIはGoogleよりもメタに近いスタート地点にある。Googleは検索ボリュームが可視化されていたため、広告主は初日から価値を評価できた。一方メタは価値提案を見いだすまでに時間がかかった。現時点で広告主はChatGPTユーザーの価値も最適戦略も把握していない。OpenAI自身も同様であり、このパイロットはそれを見極めるプロセスだ。広告マネージャーは単なる配管に過ぎない」。

なお、OpenAIはDigidayの取材に対しコメントしていない。

[原文:A closer look at OpenAI’s ads manager – and how much work it still needs]

Krystal Scanlon and Seb Joseph(翻訳・編集:的野裕子)