さまざまな銀河の中心には、太陽の数十万倍~数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が存在するとみられています。途方もなく重い天体ですが、銀河全体の質量と比べれば、通常は0.1%程度を占めるに過ぎません。

ところが、ミシガン大学などの国際研究チームは、地球から約5500万光年離れた「おとめ座銀河団」にある2つの小さな銀河「NGC 4486B」と「UCD736」を観測した結果、その中心付近にある超大質量ブラックホールが異常なほど重いことが明らかになったとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた3つの論文は学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されています。

銀河のサイズに不釣り合いなほど重いブラックホール画像中央にあるのは地上の望遠鏡で撮影されたおとめ座銀河団の楕円銀河「M87(Messier 87)」。矢印の先にあるのが今回の研究対象のひとつである銀河「NGC 4486B」(Credit: Chris Mihos (Case Western Reserve University)/ESO; Edit: sorae編集部 - https://www.eso.org/public/images/eso1525a/)【▲ 画像中央にあるのは地上の望遠鏡で撮影されたおとめ座銀河団の楕円銀河「M87(Messier 87)」。矢印の先にあるのが今回の研究対象のひとつである銀河「NGC 4486B」(Credit: Chris Mihos (Case Western Reserve University)/ESO; Edit: sorae編集部 – https://www.eso.org/public/images/eso1525a/)】

研究チームによると、これら2つの銀河をジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使って観測し、データを分析したところ、NGC 4486Bのブラックホールは太陽の約3億6000万倍、UCD736のブラックホールは太陽の約210万倍の質量を持つと推定されました。

この推定質量そのものは、超大質量ブラックホールとしてめずらしいものではありません。しかし、それぞれの銀河全体の質量に対する割合を計算してみると、NGC 4486Bでは4〜13%、UCD736では8%にも達します。前述の通り、一般的な銀河全体の質量に対する超大質量ブラックホールの割合は約0.1%とされていますから、その数十倍から百倍以上にもなる異常な割合であることが判明したというのです。

原因は銀河団の過酷な環境? 星々を剥ぎ取られた銀河の姿

どうしてこれほど不釣り合いに“重すぎる”ブラックホールが存在するのでしょうか。研究チームによれば、最初からブラックホールだけが異常に成長したわけではないようです。

おとめ座銀河団では数千もの銀河が密集して存在しています。このような環境は銀河にとって非常に過酷なもので、他の銀河やダークマター(暗黒物質)との重力を介した強力な相互作用によって、銀河の外側を構成していた星々が剥ぎ取られる現象が起こると考えられています。

参考画像:ベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡で観測された「おとめ座銀河団」(Credit: RubinObs/NOIRLab/SLAC/NSF/DOE/AURA)【▲ 参考画像:ベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡で観測された「おとめ座銀河団」(Credit: RubinObs/NOIRLab/SLAC/NSF/DOE/AURA)】

つまり、現在私たちが観測しているNGC 4486BやUCD736は、かつて巨大だった銀河から星々が失われ、銀河の中心核とそこに潜む超大質量ブラックホールだけが残された、いわば“銀河の残骸”のような姿なのではないかというのです。超大質量ブラックホールの異常な質量比は、銀河からどれほどの星が失われたのかを物語っているとも考えられます。

「中心からズレたブラックホール」は合体時に弾き飛ばされた?

特にNGC 4486Bについては、天文学者を悩ませてきたひとつの謎がありました。1990年代に行われたハッブル宇宙望遠鏡(HST)の観測で、銀河の中心核、すなわち銀河中心の明るい部分が2つに分かれている構造が発見されたのです。さらに、ハワイにある地上の望遠鏡による観測では、超大質量ブラックホールの位置が銀河の中心からズレていることも示唆されていました。

研究チームによると、今回JWSTの観測装置「NIRSpec(近赤外線分光器)」を用いて星の動きを詳細に観測した結果、この謎の答えが「ブラックホールの合体」であることを示す決定的な証拠が得られました。

論文によれば、2つのブラックホールが衝突・合体する際には、特定の方向に強力な重力波が放出されます。その反動によって、合体後のブラックホールは銀河の中心から弾き飛ばされることが考えられます。このとき、ブラックホールの周囲を回っていた星々は取り残されるような形になり、力学的な反作用によって、同じ方向を向いた多数の楕円軌道へと一斉に変化することがシミュレーションで示されています。

これら多数の楕円軌道が重なり合うと、星の速度が遅くなる遠点(軌道上でブラックホールから最も遠ざかる場所)の方向に星が滞留し、明るく輝く領域が生じます。一方の近点(軌道上でブラックホールに最も近づく場所)では星の速度は速いものの、すべての軌道が「ブラックホール」という1つの焦点に収束するため、極めて狭い空間に星が密集することで、もう1つの明るい領域を作ります。この2つの領域の光が合わさることで、銀河の中心核が2つあるように見えるというわけです。

NGC 4486Bの場合、ブラックホールの衝突が宇宙のスケールではごく最近(現在観測されている状態から約3000万~8000万年前)起きたため、合体後のブラックホールの位置はまだ中心からズレている段階であり、いずれ銀河の中心に沈み込んでいくと考えられています。

1997年にHST(ハッブル宇宙望遠鏡)が観測したNGC 4486B。銀河核が二重になっていることがわかる(Credit: Karl Gebhardt (University of Michigan), Tod Lauer (NOAO), and NASA)【▲ 1997年にハッブル宇宙望遠鏡が観測したNGC 4486B。銀河核が二重になっていることがわかる(Credit: Karl Gebhardt (University of Michigan), Tod Lauer (NOAO), and NASA)】重すぎるブラックホールは銀河進化の謎を解く“タイムカプセル”

今回報告された「過剰な質量を持つ超大質量ブラックホール」は、過去の銀河の合体や、銀河団の過酷な環境が銀河の形をどのように変えるかを伝える、“宇宙のタイムカプセル”のような存在です。

研究に参加したミシガン大学のMonica Valluri氏は、「この結果は矮小銀河のブラックホールに多様性があることを示しており、特におとめ座銀河団のような密集した環境では非常に興味深い性質を持っています」と述べています。

また、同じく研究に参加し、論文のひとつの筆頭著者でもあるカルガリー大学のMatt Taylor氏は、今回の発見がウェッブ宇宙望遠鏡の能力によって初めて可能になったと強調した上で、「ブラックホールの合体が、その宿主となる銀河の中心部をどのように形作るのかを研究する、またとない機会です」と語っています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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