
イスラエルが8日、3月にレバノンへの攻撃を開始して以来、首都ベイルートを含むレバノン国内の複数地域に対して、最大規模の空爆を実施しました。レバノン保健省は、イスラエル軍の攻撃により、少なくとも182人が死亡したと発表。国連は「この空爆により、多数の死傷者と甚大な被害が出た」として、イスラエル軍を強く非難しました。
ベイルートにいた現地の団体スタッフは空爆の瞬間、20機以上のイスラエルの飛行機を目撃しました。10回以上の激しい攻撃があり、オフィスは混乱に陥ったといいます。「言葉を失っています。レバノンの未来は、私たちの子どもたちの未来は、どうなるのでしょうか」――そんな悲痛な訴えが、私たちの元に届いています。
アメリカ・イスラエルのイランへの攻撃を発端とした中東の危機を巡っては、日本時間8日にアメリカとイランによる2週間の停戦合意が発効しています。その直後の大規模攻撃について、イスラエルとアメリカは「レバノンでの戦闘は停戦合意の対象ではない」と主張しました。
これに対し、イランや停戦合意の仲介役となったパキスタンは「レバノンも停戦合意の範囲」と強調し、イランはイスラエルのレバノン攻撃を「停戦合意に反する」と非難しました。レバノンの親イラン組織ヒズボラは、停戦違反の報復としてイスラエルにミサイルを発射。また、ホルムズ海峡は「再封鎖」されたとも報じられています。
目まぐるしく変わる情勢と、各国から飛び交う異なる主張。この記事では、現状を紐解くための基本的な対立構造を整理します。
薄氷の電撃停戦合意
アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を始めたのは2月28日。当時のイランの最高指導者ハメネイ氏を殺害したのを皮切りに、イラン国内の軍事施設だけでなく、学校や橋、住宅などの民間施設を攻撃し、一般市民にも多くの死傷者を出しました。報復として、イランはイスラエルや中東の米軍基地を攻撃。ホルムズ海峡が実質的に封鎖され、日本を含む世界の原油供給が危機に瀕しました。
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それから約1ヵ月の間、双方が自らの立場を譲らず、事態はエスカレート。アメリカのトランプ大統領は、米東部時間7日20時(日本時間8日9時)までにイランがホルムズ海峡を開放しない場合は「文明を丸ごと滅ぼす」と宣言し、発電所や橋などの民間施設攻撃を予告。イラン側もこれに強く反発し、市民がインフラ施設などを囲む「人間の鎖」を作るなどして対抗しました。
トランプ大統領の通告した「期限」まで数時間に迫った日本時間8日の朝、急転直下の2週間の停戦が決定しました。
イランとアメリカが主張する停戦合意の内容には、隔たりが複数指摘されています。アメリカはホルムズ海峡が開放されたとしているものの、イランは「再封鎖」以前も船舶が許可なく海峡を通過することを認めていませんでした。濃縮ウランの取り扱いでも両者の主張は食い違っています。
こうした主張の差を埋めることができるか、11日に予定される恒久的な停戦に向けた協議の行方が注目されています。しかし、その前にイスラエルによるレバノンへの攻撃が発生したことで、和平を阻む新たな火種が投げ込まれました。
見過ごされてきたレバノンへの攻撃
避難生活を送るレバノンの子どもたち(撮影:EO Metterdaad)
中東危機が勃発して以降、激しい空爆を受けていたのはイランだけではありません。レバノンにはイスラエル軍が侵攻し、停戦合意が決まるまでの時点ですでに各地で街が破壊され、多くの人が亡くなりました。
武力攻撃によって多くの人が住処を追われたことで、120万人以上が避難民となっています。私たちピースウィンズは提携団体を通じて、レバノンで避難を余儀なくされた人びとを支援しています。
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仲介国パキスタンなどによる当初の発表では、今回の停戦合意にはイスラエルも合意しており、レバノンを含むすべての地域への攻撃が停止するとされていました。しかし、イスラエルがレバノンに大規模攻撃を実施したことで、この前提は覆されました。
イスラエルは、レバノンで活動する親イランの武装組織ヒズボラの存在を自国の脅威として問題視しており、今回の攻撃もヒズボラを標的にしたものとしています。一方で、事実として一連の攻撃で多くの一般市民が被害を受けており、地上侵攻を受けた南部はイスラエル軍によって事実上占領されています。
すべての地域で1日も早い戦闘の終結を
攻撃で破壊されたレバノンの町(撮影:EO Metterdaad)
アメリカとイスラエルは手を組んでイランを攻撃したものの、その目的は必ずしも同じではありません。アメリカでは、自国にとって利の薄い戦争への参戦に対し、国内でも反発の声が大きくなっていました。3月28日の反政府デモでは、アメリカ全土で800万人以上がイラン攻撃を継続するトランプ政権に対し反対の声をあげました。合衆国憲法修正第25条に基づいた解任の可能性についてメディアで取り上げられるなど、イランでの軍事行動に対する国内の逆風は強まっています。
一方、イスラエルは自国の脅威を排除する名目でハマスの拠点パレスチナ、ヒズボラの拠点レバノンを攻撃しており、反イスラエルの地域大国・イランとの戦闘もその延長線上にあります。仮にアメリカとイランが停戦の条件で折り合っても、イスラエルの思惑とは一致しない可能性があるのです。
今後、イスラエルが「レバノンでの戦闘は停戦合意の対象外」という姿勢を貫き、レバノンへの攻撃を継続した場合、イランの態度が硬化し、停戦合意が絵に描いた餅になる可能性があります。
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レバノンの避難民たちに話をきく提携団体職員(撮影:EO Metterdaad)
一連の中東危機で激しい空爆を受けたイランやレバノンでは、大勢の人びとが死傷し、日常生活を奪われました。何千人、何万人と報道される被害者の1人ひとりが、それぞれの人生を生きていた市民です。多くの価値ある文化財も被害を受けました。そしてイスラエルでも、ミサイル攻撃によって人や街への被害が出ています。戦闘の継続は、すべての国・地域の人びとを傷つけるものです。
すべての関係者による外交努力が、レバノンを含む中東のすべての地域に1日でも早く平和をもたらし、武力の応酬が終わることを願います。
レバノンへの大規模攻撃を受けて 現地の声
ベイルートにいる現地の団体スタッフが、8日の空爆があったときの様子、そして今の思いを話してくれました。
昨日、私たちはオフィスで仕事をしていました。私はオンライン会議に参加していたところ、突然、事前の通知もなく(普段は通知や事前警告があるのですが)、周囲で飛行機の音が聞こえてきました。イスラエルの飛行機でした。
普段は1機か2機、多くても3機程度ですが、昨日は20機以上いました。そして突然、10回以上の激しい攻撃があり、その音は聞こえるだけでなく、オフィスの窓からも見ることができました。携帯電話に動画や写真付きの通知が届き始め、現場は混乱状態に陥りました。
何が起きたのか、なぜ起きたのかは不明でしたが、停戦がレバノンにも適用されることを願っていた矢先のことでした。また、現地にいる同僚たちにも連絡を取り始めました。南部に2名、そして私たちのコミュニティセンターが1つあるアレイに4名がいました。家族にも連絡を取りました。
私たちは言葉を失っています。もう何を言えばいいのか分かりません。私たちが今経験していることを、どんな言葉でも表現することはできません。レバノンの未来は、私たちの子どもたちの未来は、どうなるのでしょうか……。
レバノンのために、平和のために祈ってください。私たちが今、どんな地獄のような日々を送っているか想像できますか?たとえ戦争が終わったとしても、私たちがどんな環境で暮らさなければならないか想像できますか?すべてが毒にまみれているのです。レバノンがいつか他の国々と同じような国になれるのか、私には分かりません。本当に悲しいことです。
\平和をつくるために、2分でできること/
