広報担当によれば、同社はこの技術の「実用化を進める具体的な計画はない」という。

「デジタルクローン」を生成

メタは上記の書類の中で、なぜこうした技術が必要になるのかを説明している。

あなたがコンテンツ投稿を止めた場合、それがソーシャルメディア疲れによる一時的な離脱であれ、死亡による恒久的な離脱であれ、それはフォロワーの体験に影響を及ぼす。

端的に言えば、フォロワーはあなたがいなくなると寂しく感じる。

「ユーザーが死亡し、二度とSNSプラットフォームに戻って来られない場合、他のユーザーへの影響はより深刻で永続的なものになる」

その空白を埋めるため、メタはソーシャルメディアにおけるあなたの生き写しとも言える「デジタルクローン」を生成する。

手法としては、コメントやいいね、コンテンツ投稿といったプラットフォーム上での行動履歴を「ユーザー固有の」データとして言語モデルに学習させ、あなたならどのように振る舞うか(あるいは振る舞ったか)を理解させる。

そうやって完成したデジタルクローンは他人のコンテンツにいいねやコメントをしたり、ダイレクトメールに返信したりできるようになる。

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確かに、メタ運営のプラットフォームを通じて生計を立てているインフルエンサーやクリエイターがソーシャルメディアをしばらく離れる必要に迫られた場合、こうしたツールは役立つかもしれない。

特許書類には、言語モデルに他のユーザーとのビデオ通話や音声通話をシミュレートさせる技術に関する記述もある。

メタの広報担当によると、(基本特許を取得する目的で)コンセプトを特許出願するケースはよくあるものの、特許を認められたからと言って必ずしもその技術の実用化を目指して開発、実装するわけではないという。

それでも、この特許は先端技術とは何か、嘆きや悲しみとは何か、その本質についてさまざまな疑問を投げかけるものであることは間違いない。

デジタルデトックスを希望するユーザーの一時的代役としてのAIボットならまだしも、世を去った人間の模倣をするとなると話は別だ、そう考える人も多いのではないだろうか。

デジタル権利と死後のデータおよびプライバシーを専門とする英バーミンガム大学ロースクールのエディナ・ハビンジャ教授は懸念をこう語る。

「これは法的な問題にとどまらず、社会や倫理、深遠な哲学にまたがる数々の重要な問題に影響を与える技術です」

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「グリーフテック」ビジネス

メタは相当以前からデジタルレガシー(遺産)の管理について検討を重ねてきた。

およそ10年前、フェイスブックは死亡した場合に備えてアカウントを管理する「レガシーコンタクト(追悼アカウント管理人)」を指定できる機能を導入した。

また、メタバース構想の実現に注力していた2023年には、ポッドキャスト番組に出演したマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が世を去った人々のバーチャルアバターに触れてこう語っている。

「愛する人を亡くして悲しみに暮れている人にとって、記憶の中のその人とと会話したり、思い出を追体験したりすることはある種の救いになるかもしれません」

この手の技術は幅広く、デスボットやゴーストボット、グリーフテックなどさまざまな呼び名があるものの、端的に言えば、いずれも愛する人に先立たれた喪失感に打ちひしがれる人たちに永遠の記憶とも言うべき故人のデジタルバージョンを提供し、支えるのが目的だ。

目指すところを同じくするスタートアップがすでにいくつか技術開発に取り組んでおり、その多くは創業者自身の喪失体験に端を発して設立されている。

AIチャットボット開発のレプリカ(Replika)は友人を亡くしたユージニア・クイダ氏が2015年に創業。ユー・オンリー・ヴァーチャル(You, Only Virtual)は母親を癌と診断されたジャスティン・ハリソン氏が2020年に創業した。

後者のハリソン氏はこう話す。

「生成AI技術にブレークスルーが起きた頃から、テック業界の誰もがこの(亡くなった人のデジタルバージョンを生み出す)ことを考えてきました」

2021年にはマイクロソフト(Microsoft)も亡くなった身近な人(や架空のキャラクター、著名人)をシミュレート可能なAIチャットボットの特許を取得している。

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そうした流れを経てメタがここに来て特許を得たことについて、前出のハビンジャ教授はこの技術カテゴリーがメインストリームに近づいている兆候だと分析する。

「私たちは提供できるものを改善し続けるだけです。そもそも、悲しみにくれる人々に(それを和らげる)リソースを提供することすら憚(はばか)られる状況なので。能力や可能性があるのであれば、当然そうすべきこと以上のことをしてあげる道徳的義務が私たちにはあると思います」

とは言え、AIと死、悲しみは安易に消化できるトピックではあり得ない。三つの要素が交わるところは、どうやっても倫理やデジタル権利、プライバシーをめぐる哲学的議論を巻き起こすタブー(禁忌)の巣窟だ。

「死者は死者のままに」

メタが特許書類で説明する技術を追い求める動機は、人々の嘆きや悲しみを緩和解消することだけにあるのではない。とりわけ一時的にアカウントを休止するユーザーについては、そうした動機が当てはまらない。

前出のハビンジャ教授は次のように分析する。

「さらなるエンゲージメント、さらなるコンテンツ、さらなるデータ。メタは現在および将来のAIのためにもっとデータを必要としています。

そして、そうしたビジネス上の動機が存在するのは理解できます。私が注目するのは、彼らがいつどうやってそのイノベーションを実装するのか、あるいはしないのかなのです」

この技術を用いた機能や製品がどのように展開されるのか次第で、生じる疑問は異なってくる。

例えば、この技術はメタが運営する全てのアプリに適用されるのか。

別の例で言えば、友人や知人、仕事先とのやり取りに使うワッツアップ(WhatApp)におけるユーザーの振る舞いと、セレブやクリエイターのインスタグラム投稿のコメント欄における(時に馴れ馴れしいほどの)率直な振る舞いと、そのニュアンスの違いをAIは理解できるだろうか。

米ヴァージニア大学社会学部のジョセフ・デイビス教授は、メタが特許で示唆したボットのようなAIツールが人間の悲しみとの向き合い方にもたらす影響を懸念する。

「嘆きや悲しみとは何のためにあるか。その役割の一つは、現実に発生した喪失と(目を背けずに)向き合うことです。

ですから、死者は死者のままにしておかねばなりません。死者を現実世界に引き戻すアイデアは、本当にはそんなことはできないのに、現実問題として死んでいないかのように思えてしまう点で、人間を(悲しみの淵から連れ戻すこととは逆に)混乱させるものと言えます」