電通が2026年3月5日に発表した「2025年 日本の広告費」。総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)となり、4年連続で過去最高を更新した。企業の好業績やデジタル投資の加速、大型イベント開催などが、市場拡大を後押ししたとみられる。SNSの縦型動画広告やコネクテッドTV広告が昨年に引き続き伸び、インターネット広告費は4兆459億円(前年比110.8%)と初めて4兆円を超えた。また、プロモーションメディア広告費も昨年に続くインバウンド需要や大型イベントに押し上げられ、1兆7184億円(前年比102.0%)と3年連続のプラス成長。特に「イベント・展示・映像ほか」が4784億円(前年比111.2%)と、大阪・関西万博や東京2025世界陸上など大型イベントに牽引され二桁成長を記録した。

 アジェンダノートでは、広告・マーケティング領域のプロフェッショナルに「2025年 日本の広告費」を読み解き、寄稿してもらった。今回の執筆者は、中央大学 名誉教授の田中 洋氏。今年の発表内容を概観しつつ、過去からの変化や他の統計との比較によって、「日本の広告費の現在地」をどう捉えるべきかを示唆する。

 

日本の広告費2025の概観

 3月5日に電通「日本の広告費2025」が発表になった。長い期間にわたって発表され続けている広告統計のひとつである。このデータは「媒体」に掲載された広告費を集計している点に特徴がある。日経の広告主をベースとした統計、経産省の広告会社の売上をベースとした統計とは異なった視点で集計されており、「どのくらいの広告金額が媒体に掲載されたか」という視点で集計されている。

 本稿では、この広告統計の中身を概観するとともに、長期にわたる広告費の変化や他の統計との比較によって、日本の広告費の現在のありようを把握してみたい。

   

中央大学

名誉教授

田中 洋 氏

 東京大学経済学部非常勤講師。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。京都大学博士(経済学)。電通で21年間マーケティングを経験した後、法政大学経営学部教授やコロンビア大学客員研究員などを経て現職。マーケティング論、消費者行動論、広告論、ブランド論などに精通し、国内でブランド戦略を語るうえで欠かせない存在。主著に『ブランド戦略論』(日本マーケティング学会マーケティング本大賞受賞)。近著に『ザ・マーケティング・イシュー』(田中洋編著、日経BP、2026)がある。

 それでは早速その中身を概観してみよう。同社のリリースにも書かれているように、2025年の広告統計では以下が要約として記されている。
 

日本の総広告費は、8 兆623 億円(前年比105.1%)で4 年連続で過去最高を更新。
インターネット広告費は、4 兆459 億円 (前年比110.8%)と初の4 兆円超え。総広告費に占める構成比が50.2%と初めて過半数に達した。
プロモーションメディア広告費における「イベント・展示・映像ほか」は、大阪・関西万博、東京2025 世界陸上などの大型イベントが寄与し、二桁成長。

 今回、広告産業が8兆円規模の産業に伸長してきたということは、他の日本の産業と比較して、どのような規模と理解できるだろうか。

 たとえば、ドラッグストア業界は約8~9兆円、家電量販店は約7~8兆円であり、これらとほぼ同じ大きさということになる。ちなみにコンビニ業界は約11~12兆円であり、広告業界よりも大きいが、匹敵する規模になったとも言える(注1)。広告の多くがBtoC商品で消費者向けにメッセージが届けられていることを考えると、広告業界が消費財を売る業界と同じ規模であることは、ある意味驚きであると言ってもよい。

 

GDP比率による広告費国際比較

それでは、この8兆円という金額は国際的に見て大きいのだろうか、あるいは、小さいのだろうか。この疑問に応えるために、主要各国の広告費とGDP(国内総生産)の比率によって作成したのが図1である(注2)。



図1 2025 広告費 主要国とのGDP比率比較 ※筆者作成

 

 以前から日本の広告費はGDPの約1%程度であることが知られていたが、それは現在も変わっていない。また英米ではGDPにおける広告費の割合が大きい傾向も周知であったが、この傾向も変わっていない。また、日本が英米と仏独との中間に位置することは興味深い。テレビ中心の時代からインターネット広告が中心の時代に変化してきても、以前から知られている傾向と大きく変化していないことも興味深い。

 

長期の日本の広告費とGDP比の推移

 それでは日本の広告費とGDP比率は、長期的にみてどのように推移してきただろうか。

 図2は2000年から2025年までの26年間の長期的変化を図にしてみたものである。日本の広告費の集計方法は何年かおきに変更されているので、長期的にデータを用いることには注意を要する。しかし、ここで見る限りにおいて、日本の広告費がGDPに占める割合は比較的安定しており、リーマンショック以前、2008年までは比率が高い時期であり、1.3%に近づいたこともあった。近年では1.2%付近で推移していることがわかる。

 この長期的な推移からわかることは何だろうか。ひとつ言えることは、日本の広告費が日本経済に占める割合は、良く言えば安定的であるものの、ネガティブな観点から言えば、日本の経済力以上にはあまり成長してこなかったとも言える。

   
図2日本の広告費がGDPに占める長期的変化 ※筆者作成


 次の図3では、やはり2000年から2025年までの長期的な媒体別の広告費の推移を示している。全体を100%として、上からマス4媒体広告費、インターネット広告費、その他の広告費と3つに分けて表示している。

 2000年当時、最も大きな割合を占めていたのは、マス媒体ではなくて、プロモーションをはじめとするその他の広告費であった。それ以降一本調子で伸び、単独で広告費の伸びを牽引してきたのがインターネット広告である。

図3日本の広告費構成比の推移 ※筆者作成

 上記のことは何を意味するだろうか。日本の広告費はコロナなどの一時期を除いて、成長を続けてきたのは確かであるが、日本経済における割合はほぼ一定であり、また、その範囲の中でインターネット広告費が他の広告費を蚕食しながら、大きな割合を占めるようになってきたと考えることができるだろう。