希少な計算資源を効率的に活用しながらIPOにたどり着くため、Soraのようにトークンばかり消費して利益を生み出さないプロジェクトを特定し、それを切り捨てるか後回しにすることで生まれた余力を、利益に結びつく製品に振り向けるのがシモ氏の仕事でした。

オープン(Open)AIのアプリケーション部門最高経営責任者(CEO)を務めるフィジー・シモ氏。リンクトイン(LinkedIn)のプロフィールでは、役職が「AGI(汎用人工知能)デプロイメント担当」と記載されている。オープン(Open)AIのアプリケーション部門最高経営責任者(CEO)を務めるフィジー・シモ氏。リンクトイン(LinkedIn)のプロフィールでは、役職が「AGI(汎用人工知能)デプロイメント担当」と記載されている。Collin Xavier/Image Press Agency/ABACA via Reuters Connect

ところが、そのシモ氏が神経免疫疾患の悪化を受け、数週間の療養休暇に入ることが判明。4月3日付のCNBC報道によれば、体位性頻脈症候群(POTS)と呼ばれる自律神経の機能失調だそうです。

さらに、その発表と前後して、テック専門メディアのインフォメーション(The Information)が4月5日付記事で報じたオープンAI経営陣の「軋(きし)み」は、さらに深刻な内容でした。

同社は2030年までに6000億ドルをAIインフラ開発に投じ、黒字転換前にうち2000億ドル超を支出するという緊迫した財務状況ながら、第4四半期(10〜12月)のIPO実施を目指していると報じられていますが、サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)がけん引するそうした前のめりな計画に対して、サラ・フライアー最高財務責任者(CFO)が周囲に懸念を伝えていたというのです。

しかも、インフォメーション報道によれば、(一般的にCFOはCEOに直属して財務規律を守る助言を行う立場ながら)昨年夏以降、フライアー氏はアルトマン氏の直属を外れて前出のシモ氏の直下に編入されたとのこと。

アルトマン氏とフライアー氏の間に何らかの確執があることは間違いなさそう。そして、フライアー氏の直属の上司となったシモ氏が、まさに彼女の言うように「余計なことに気を取られて」いる場合ではない、投資家の視線が集中するこの時期に長期の療養休暇とは……。

オープンAI経営陣の動きから目を離せません(とりわけ同社に12%近くを出資するソフトバンクグループの投資家にとっては)。

なお、ニューヨーカー(The New Yorker)は4月6日、「サム・アルトマンは私たちの将来を左右する人物なのかも。信頼していいんだろうか?」と題する長大な記事を掲載。2023年11月に起きたアルトマン氏の電撃解任事件の舞台裏を含め、「同じ人物の中にはほぼ共存し得ない二つの特徴が共存している」という同氏の内面に迫っています。

世界の行く末を左右するのはイラン戦争?それともAI?米ニューヨーク市内でイラン戦争の即時停戦を求める市民の抗議活動。米ニューヨーク市内でイラン戦争の即時停戦を求める市民の抗議活動。Ron Adar/SOPA Images via Reuters Connect

世界の市場ではいま、イラン戦争からAIの進化、ソフトウェア終末論、仕事の未来まで、数多くの重要なテーマをめぐって議論が行われ、そのさなかにも頭角を現す企業が次々と登場、一方で実績ある大企業が巨額の赤字を計上したり、大幅な株価下落を経験したり、投資家からの理解を得られず苦境に立たされています。

エグゼクティブエディターのジョー・チョッリはビジネスインサイダー編集部の市場担当責任者であり、米国向けニュースレターの執筆者としてもカッティングエッジにたびたび登場していますが、今日はヘラーがチョッリに市場の大きなトレンドを聞きました。

ジョー、足元で株式市場を動かしている最大のファクターを挙げるとしたら?投資家はAIと地政学だったらどちらにより注目していると言える?他に見落としているマクロの視点が何かあったりする?

現時点で言えば、2月末に始まったイラン戦争を中心に何もかもが回っている。私たちは市場最大規模の石油をめぐる混乱の中にいて、株式、債券、為替の各市場が激しく揺さぶられ、企業も消費者も直接的な打撃を受けている。即時的なインパクトがあるので、誰もが目を向けざるを得ない。

AIは引き続き、長期的に市場の行方を左右する最重要のテーマだが、足元では物語の主役を外れてひと息ついている状況だ。

マグニフィセント・セブンの圧倒的な時価総額は、投資家のAIへの熱狂を反映したものと思う。一方でこれからそれが収縮する(つまり株価が下落する)としたら、AIによる変革が実体経済の受け入れ可能な速度を上回る懸念を示すシグナルなのかもしれない。ジョーはどう見る?

強気派の論拠は、AIが劇的な生産性の向上をもたらし、最終的に広く産業全体の利益成長が加速するというもの。もちろん、利益成長は株価上昇につながる最高のロケット燃料だ。

技術の受け入れが追いつかず株価下落に至ると考える弱気派もいる。けれども、最近のテック銘柄の値動きないしリターンを見る限り、投資家は労働力がAIによって置き換えられるのではなく、労働力が進化する展開を想定していると考えていいと思う。

端的に言えば、市場が現時点で織り込んでいるのは勝ち組と負け組の入れ替えであって、絶滅イベントではない。

ラマダン(イスラム教の断食月)最終金曜日の3月13日、パレスチナ市民への連帯と支援を表明するイラン市民の集会。ラマダン(イスラム教の断食月)最終金曜日の3月13日、パレスチナ市民への連帯と支援を表明するイラン市民の集会。ZUMA Press Wire via Reuters Connect

ジョーは20年以上市場を取材してきたから全像がある程度見えているはず。新たな時代の影響力ある情報発信者はどこにいるのか?普段から、市場に関する洞察や重要な発信、知見を得るのにどこに注目している?

まず市場の解説や論評について言えば、ニュースレター配信サービスのサブスタック(Substack)が存在感を増している。ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンも、「世紀の空売り」の著名投資家マイケル・バーリもほぼ毎日配信している。

ポッドキャストもよく漁(あさ)る。論客がそれぞれの思考を展開し、分析を深堀りする注目媒体だからだ。

また、コミュニケーションツールのディスコード(Discord)やオンライン掲示板のレディット(Reddit)は個人投資家コミュニティの動向を把握するのに役立つ。後者に関しては、ビデオゲーム販売のゲームストップ(GameStop)が驚異的な株価上昇を記録した2021年のような無法地帯ぶりは影を潜めたものの、見るべきところさえ分かっていれば、まだまだ鋭い視点を見つけることができる。

手前味噌だが、このニュースレターにも鋭い洞察があふれている。さらにエキサイティングな場所にしていくので、ぜひ定期購読をお願いしたい。

株価は年初来50%下落。「ソフトウェア終末論」の渦中で、Asanaの経営トップが絶望しない理由 | Business Insider Japan

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ウーバーは失ったものを取り戻せるのか

日々ビジネス情報を摂取している読者の方々は、近ごろウーバー(Uber)の戦略的(と思われる)動きが際立つことに気づいているのではないでしょうか。

米国編集部のテックアンカー(分野責任者)を担うアリステア・バー記者が、ブルームバーグやウォール・ストリート・ジャーナル、ロイターの記者として長年取材してきた情報をもとに、ウーバーの現在の立ち位置と相次ぐ戦略提携発表の意味合いを分析します。

ウーバー(Uber)は3月12日、日産自動車(Nissan)および英自動運転開発企業ウェイブ(Wayve)との戦略提携を発表。ウーバー(Uber)は3月12日、日産自動車(Nissan)および英自動運転開発企業ウェイブ(Wayve)との戦略提携を発表。REUTERS/Issei Kato

■相次いで戦略提携を発表

他社の取り組みに追随するのは比較的簡単なことです。先頭に立つのは難しく、リスクも高い。それでも、チャンスに賭けて死に物狂いで取り組めば、大きな見返りを得られる可能性がある。

自動運転技術開発で大きな挫折を経験したウーバーは、過去の失敗を戒めとしながら、最前線への復帰に向けて大きな後れを取り戻す取り組みを進めています。

同社は最近、立て続けに大きな戦略提携案件を6件発表しました。明らかに急いでいる印象を受けます。

リビアン(Rivian)との戦略提携:ウーバーはリビアンが開発中のロボタクシー「R2」を2030年までに最大5万台購入、最大12億5000万ドルを出資ズークス(Zoox)との提携:今夏からラスベガスで、2027年にはロサンゼルスでウーバーアプリからズークス車両を呼び出せるように。ズークスにとっては初の外部プラットフォームとの契約。ウェイブ(Wayve)、日産自動車との提携:ウェイブの自動運転システム「AI ドライバー」を統合した「日産リーフ」をウーバーアプリ経由で利用できるロボタクシーとして展開。2026年後半に東京で試験運行開始。ヒョンデ(Hyundai)傘下モーショナル(Motional)との提携:モーショナルの自動運転技術をヒョンデの電気自動車「IONIQ 5」に統合したロボタクシーをウーバーアプリ経由で利用可能に。10年間の枠組み契約を締結し、当初はラスベガス、順次拡大。エヌビディアとの提携:エヌビディアの自動運転プラットフォーム「DRIVE AGX Hyperion」対応車両をグローバル展開。2027年上半期のロサンゼルスおよびサンフランシスコを皮切りに、2028年までには世界28都市で運行させる。ワービ(Waabi)への出資および戦略提携:コースラ・ベンチャーズ(Khosla Ventures)らがリード投資家を務める、ワービの7億5000万ドル資金調達ラウンドに参加。戦略提携も締結し、自動運転システム「ワービ・ドライバー」搭載のロボタクシー2万5000台を展開するため、マイルストーン達成に応じて2億5000万ドルを追加出資する。ロシアから来たAIデータセンター業界の異端児「メタとの巨額契約は成長の燃料にすぎない」 | Business Insider Japan

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死亡事故経て事業売却へ

ウーバーが10年以上前に大規模な自動運転開発プロジェクトを進めていたことを覚えていますか。

創業者のトラビス・カラニック氏がまだ最高経営責任者(CEO)として同社を率いていた2015年、グーグル(Google)やテスラ(Tesla)と真っ向から競合する新部門のアドバンスト・テクノロジーズ・グループ(ATG)を立ち上げたのが始まりでした。

技術開発の道のりは苦難の連続。2017年2月、カラニック氏の直下で自動運転事業を担当していたアンソニー・レヴァンドウスキー氏が企業秘密を盗用した疑いで、その直前に同氏が在籍していたグーグル兄弟会社ウェイモ(Waymo)は、ウーバーを提訴。

翌18年3月には、アリゾナ州で試験走行中だったウーバーの自動運転車両が歩行者をはねて死亡させました。運転席にはセーフティードライバーが座っていたのに、(のちに調査を通じて判明したように)テレビ番組を視聴していて事故を防げませんでした。黎明期の自動運転業界が最も恐れていた悪夢が現実となったのです。

カラニック氏は相次いで発覚した社内の不祥事の責任を取って、17年6月に辞任しており、死亡事故の発生時点ですでに後任のダラ・コスロシャヒ氏が陣頭指揮を執っていました。

コスロシャヒ氏は18年5月に公道試験を一時中止したものの、同年12月に再開。

その動きと前後してトヨタ自動車やソフトバンクグループなどから出資を受け、技術開発を継続しつつ飛躍の機会を模索しますが、2020年12月には自動運転開発部門をオーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)に売却するに至っています。

アマゾン出資の自動運転開発オーロラ、トヨタ・デンソーと長期戦略提携。ウーバーも絡むその背景とは | Business Insider Japan

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ウェイモとテスラの進化が脅威に

ウーバーは公道試験再開後の2019年5月に新規株式公開(IPO)を果たし、競合する配車サービス大手リフト(Lyft)を突き放して順調な成長を維持。2023年に初の通期黒字を達成すると、収益性や財務の健全性を高く評価され、株価も踊り場を挟みながら堅調に推移していきます。

ところが、ここに来てウェイモとテスラのたゆまぬ努力が実を結び始めました。自動運転車両はついに実用レベルに達したのです。

私自身、テスラの運転支援システム「フルセルフドライビング(FSD)」を定期的に使っていますが、まさに驚異的なパフォーマンス。サンフランシスコの街中を駆け抜けるウェイモのロボタクシーも、いまや人間が運転するウーバー車両と日常的に競合する存在にまで成長を遂げました。

投資家もそうした市場の変化に気づいていて、自動運転分野の落伍者になり得るウーバーに売りを浴びせています。独自のロボタクシーサービスを構築中のテスラとウェイモも、ウーバーにとっては(協業の事例はあるものの)脅威です。

ウーバーの開発断念は失敗?

過日、米投資銀行エバーコア(Evercore)傘下の金融調査会社インターナショナル・ストラテジー&インベストメント・グループ(ISI)のトップアナリスト、マーク・マヘイニー氏に聞いてみました。

ウーバーは自動運転開発を断念せず続けるべきだったのではないか。少なくとも理論上は、いまのようにかつての競合を一方的に追いかける立場にはならずに済んだのではないか、と。

マヘイニー氏の回答はこうでした。

「見方としてそう間違ってはいないと思います。ただ、実際に開発を継続できたかどうかは、ウーバーが自分たちの技術スタックにどれだけ確信を持っていたか次第でしょうね」

11年前、ウーバーが自動運転開発に乗り出した当時、それは確実な未来ではありませんでした。

私は当時、グーグルが開発中だった初期段階の自動運転車両に試乗しましたが、多くのエッジケース(特殊な条件下で発生する稀な問題や状況)は解消されておらず、それだけにビジネスとして成立する技術へと成熟するのか、疑念が生じていました。

深い知識を持つ真のテクノロジストだけが未来を見通して賭けに出られる、いまはそういう時期です。グーグルとテスラは自動運転に果敢に挑み続け、競合他社の何年も先を行くことでその見返りを得ています。

一方のウーバーは、巻き返しに向けてようやく躍起になり始めたところ。先に挙げた直近の相次ぐ戦略提携は、まさにそうしたウーバーの実情を反映した動きと言えるでしょう。

しかし、そうやって躍起になったからと言って、完全自動運転を本当の意味で正しく実現し、この不利な形勢から先行するテスラとウェイモに追いつけるとは限りません。それはまた別の話です。

それでも、一度は開発部門を手放したウーバーが、自動運転に対する考えを改めたことだけは間違いありません。