25年3月、同氏は22年10月に440億ドルで買収したソーシャルメディアのX(旧Twitter)を、xAIが負債120億ドル含めて450億ドルと評価、株式交換により買収したと発表した。
経営統合で誕生した持株会社xAIホールディングス(以下では単にxAI)の評価額は1130億ドルとなった。
同社は年明け1月6日にもエヌビディア(Nvidia)などから200億ドルを調達したと発表。最新の評価額は2500億ドルに膨れ上がっており、冒頭触れたスペースXへの統合を経て、さらにテスラとも合併するとなれば、マスコノミーは劇的な拡大に向かう可能性がある。
それはマスク氏のビジネス帝国にとって何を意味するのか。単なる版図の拡大にとどまらない、以下のような未来へのインパクトが想定される。

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データセンター開発競争の次なる最前線
ソーシャルメディアのX、物議を醸しがちなチャットボットのGrok、再利用可能な超大型宇宙船「スターシップ(Starship)」の一つ屋根の下での同居は、一見奇妙な組み合わせに感じられる。
しかし、スペースXとxAIの合併は、AIを基盤とし、AIがけん引する未来というマスク氏の長期ヴィジョンに合致するものだ。
同氏は以前から、AIインフラブームは論理的に突き詰めていくと究極的に、極寒の真空空間である宇宙にデータセンターを建設する結論にたどり着くとの考えを語ってきた。豊富な太陽光エネルギーを利用できる上、地上で必要とされる大量の冷却水なしでサーバー機器を稼働させられるからだ。
1月下旬に世界経済フォーラム年次総会(いわゆるダボス会議)に登壇したマスク氏は、AIモデルをトレーニングする「最も低コストな」ロケーションは宇宙空間である可能性が高く、スペースXは今後数年以内に太陽光を電源とするAI衛星を打ち上げ、スケールアップを進めて最終的には数百テラワット規模まで持っていきたいと語った。
同氏はまた、スペースXが開発を進めるスターシップ(によるAI衛星の大量投入)と、拡張の続く衛星コンステレーション「スターリンク(Starlink)」が、多数の低軌道衛星をレーザー(光無線)通信で結んで構築するAIコンピューティングネットワークの基盤になり得るとも発言した。
宇宙インフラへのアクセスは、オープン(Open)AIやグーグル(google)など競合企業がより強力なAIモデルの構築を目指し、コンピューティング能力ないし容量の確保に奔走、自前の宇宙データセンター整備を検討・計画する中で、xAI(ひいては統合後のスペースX)の優位をもたらす可能性がある。
こうした構想は、2月2日のxAIのスペースXへの統合発表に際して、後者のウェブサイトに掲載された声明文の中でも、マスク氏が繰り返し言及している。

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スペースXとxAIの合併に関してもう一つ念頭に入れておくべきなのは、資金調達の問題だ。
巨大AIモデルのトレーニングには巨額のコストが伴う。xAIは数十億ドルを投じる中で慢性的な資金枯渇に悩まされ、定期的に資金調達を行ってきたと報じられている。
一方のスペースXは、再利用ロケットを活用した商業衛星などの打ち上げサービスや前出のスターリンクを基盤とする衛星インターネットサービスで近年収益を伸ばしており、さらには冒頭で少し触れたように、IPOを通じて株式市場から500億ドルを調達すべく準備を進めている。
xAIにとっては、今回の合併によってスペースXの潤沢な資金をトレーニングや今後のインファレンス(推論)の推進剤として活用できるようになる。

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テスラとスペースXの合併、マスク氏は押し切るか?
2010年から上場している巨大企業であるテスラと、IPOを間近に控えたスペースXを合併させるのは、スペースXとxAIの合併以上に困難であり、それによって得られる成果もいまいち判然としない。
テスラとxAIは過去に取締役や経営幹部が重複していた時期があるなど、すでに密接な関係がある。前述のようにテスラ車のインフォテインメントシステムにはGrokが統合されている。
とは言え、現在のテスラが注力する事業分野を見渡す限り、xAIと明確に重複している領域はそれほど多くない。

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一方、テスラはロボティクスとAIに注力するメガテック企業へと変貌を遂げようとしており、テスラがこれまで事業の柱としてきた自動車事業と、スペースXの手がける宇宙開発事業を並べて、その重複領域や相乗効果を考える妥当性は失われてきている。
マスク氏は前出の第4四半期決算発表に際して投資家に対し、高級電動セダン「モデル(Model)S」及び電動SUV「モデルX」の販売を終了し、その生産ラインを人型ロボット「オプティマス(Optimus)」向けに転用する計画を表明した。
新型モデルの投入計画について問われたマスク氏はこう答えた。
「将来、車両による移動の大半は自動運転に置き換わるでしょう。ざっくりした推測ですが、人間がハンドルを握って運転する距離は現在の5%以下、もしかしたら1%まで減る可能性もあると考えています」
自動車業界専門の調査・予測会社オートフォーキャスト・ソリューションズ(AutoForecast Solutions)のサム・フィオラーニ氏は決算発表前、Business Insiderの取材に対しこう語っている。
「テスラは確実に自動車中心からテクノロジー中心へと企業としての重心を移し始めています。収益の柱から自動車事業を外そうとしているのです」
また、テスラはエネルギー事業も好調で、前出のダボス会議に登壇したマスク氏は、スペースXとテスラがそれぞれ米国で年間最大100ギガワットの太陽光発電モジュールを生産する計画を明らかにした。
この点について言えば、両社の統合は人類のエネルギー生産能力を大幅に拡大するというマスク氏の壮大な夢への第一歩になり得るだろう。

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さらに、マスク氏は前出の第4四半期決算説明会で、数年後に(地政学的リスクなどを背景に)最先端のAIチップの供給制約に直面するとの見方を前提に、テスラは自前で「テラファブ(Terafab)」を建設、運営する必要があるとあらためて強調した。
それ以前に、25年11月のX投稿でマスク氏は、スペースXが展開する太陽光を電源とするAI衛星向けにチップを生産する「テスラ・テラファブ」が必要になるとの考え方を明らかにしている。
Starship should be able to deliver around 300 GW per year of solar-powered AI satellites to orbit, maybe 500 GW. The “per year” part is what makes this such a big deal.
Average US electricity consumption is around 500 GW, so at 300 GW/year, AI in space would exceed the entire US…
— Elon Musk (@elonmusk) November 19, 2025
マスク氏率いる全ての企業をつなぐ一本の糸があるとすれば、それは火星への移住に対する執着だ。同氏は人類の長期的かつ持続的な生存には火星への移住が不可欠だと繰り返し語ってきた。
実際、スペースXは早ければ26年中、遅くとも数年以内にスターシップの火星への無人飛行を開始する準備を進めており、その際に人型ロボットのオプティマスを搭乗させる計画をマスク氏は明らかにしている。
最後に、テスラやスペースX、xAIなど自ら率いる(または保有する)企業を持株会社などの形で統合する構想は、ここ最近生まれたジャストアイデア的なものではなく、以前からマスク氏の念頭にあったことを確認しておくべきだろう。
同氏は2020年時点で、スペースXとテスラ、(トンネル掘削企業の)ボーリングカンパニーを合併させるべきではと指摘したTwitter(当時)投稿に対し、ひと言「いいアイデアだ」とリプライしている。
