「AGIとは、AIシステムが複雑性と速度において人間の脳に匹敵する、あるいはそれを凌駕する力をもち、一般的な知識を獲得し、活用し、思考できるようになった状態を指す。この人工知能は基本的に、通常人間の知性が必要とされる産業的または軍事的な行為のいかなる側面にも利用可能である」
最後の一文を除けば、彼の定義は現在ほとんどの人が理解しているAGIの定義と同じだ。
「当時のAIに対する人々の認識と、わたしがそこで論じていたAIとを区別する言葉が必要だったのです。当時のみんなが知っていたAIとは、限られたごく専門的なシステムのことでした。それが一般的な知能へと進化するようなものではないことは、わたしにははっきりわかっていました」と彼は説明する。だが、この論文が広く読まれることはなく、世間にはほとんど影響を与えなかった。
未来のAIインフルエンサーたち
時間を2000年代初頭まで早送りしてみよう。まだAIの冬の名残が色濃く漂っていた時代だ。だが勘の鋭い研究者のなかには、雪解けが近いことを感じ取る者もいた。99年、レイ・カーツワイルは自著『スピリチュアル・マシーン:コンピュータに魂が宿るとき』で、2030年ごろまでにAIは人間の認知能力に匹敵しうる知性を獲得すると予測した。
この予測はコンピューターサイエンティスト、ベン・ゲーツェルの心に大きな共鳴を呼び起こし、ゲーツェルは同じ考えをもつ協力者カッシオ・ペンナキンとともに、幅広い用途に使えるAIに関する本の編集に取りかかった。
この本は、チェスをするとか医学的診断を下すといった限定的な領域のみに対応するために機械学習を使うのではなく、もっと一般的な目的にAIを用いることを目指すアプローチについて論考をまとめたものだった。
カーツワイルはこうした汎用的なテクノロジーを「ストロングAI」と呼んでいたが、その表現ではやや曖昧すぎると感じたゲーツェルは、「リアルAI」あるいは「総合的知能」と呼んではどうかと提案した。だがこの言葉はいずれも寄稿者たちの評判が悪く、そこで彼は寄稿者たちを集め、話し合いの場を設けることにした。
このメンバーには、シェーン・レッグ、ペイ・ワン、エリーザー・ユドコウスキー(そう、のちに世界でもっとも有名なドゥーマーとなるあの人物)といった、未来のAIインフルエンサーたちが名を連ねていた。
AIに「汎用(general)」という言葉を付けることを思いついたのはレッグだった。レッグは当時、大学院を終えてゲーツェルのもとで働いていた。そのときのことを彼はこう振り返る。
「こんなEメールを書いたんです。『ベン、“リアルAI”はやめておいたほうがいい。それじゃAIという分野全体に向けて中指を立てることになってしまう。もし特定分野ではなく汎用的な知性をもつマシンのことを指したいのなら、“汎用人工知能(AGI)”と呼ぶのはどうかな。なんとなく語呂もいいし』」
ゲーツェルによると、実はワンは別の語順を提案していたという──General Artificial Intelligenceと呼ぶべきだ、と主張していた。だがそれでは略語がGAIとなり、望ましくない連想を呼びかねないことにゲーツェルは気づいた。「別にそれが悪いということではないんですけどね」と彼は急いで付け加えたが、結局、彼らはレッグの提案したAGIを採用した。
現在テンプル大学で教えているワンは、その議論をはっきりとは覚えていないものの、確かにいくつか代替を出した記憶はあるという。だがワンによれば、より重要なのは、寄稿メンバーが02年ごろにAGIと名づけたものが、「本来の意味でのAIだった」という事実だ。
