【Q】メタがAIコーディングツールの社内活用を進めているという、君が書いた記事を読んだ。かいつまんでポイントを説明してもらえないか。
メタの従業員である限り、もうAIから逃れることはできない。
ごく最近まで、コーダーやプロダクトマネージャーは相応に優秀な仕事ができれば評価された。でも、それはもう過去の話。AIスキルを発揮するのはもちろん、それを積極的にアピールしないと昇進はもはや不可能。
業務として記述するコードの50〜80%にAIコーディング支援ツールを使うことは正式な社内目標に掲げられている。
【Q】ザッカーバーグ氏がコーディングツールにこだわる理由は?
生産性に尽きる。彼が求めているのは、基本的なコーディングができる経験年数の浅い開発者ではなく、AIエージェント軍団を指揮管理できる「100倍エンジニア」だ。
そういう彼のスタンスを懸念する従業員も少なくない。AIがそれほど劇的に成果物を増やせるなら、高給を支払って7万5000人超の従業員を雇う必要ある?という疑問が出てくるのも当然だ。
メタでエンジニアリング部門のシニアディレクターを務めた著名コンピューターサイエンティストのエリック・メイヤーと最近話したら、やたらと積極的にAIを活用しようとする従業員たちは「墓穴を掘っているようなものかも」と言っていた。
メタのような大企業になると、いくら頑張ったところで従来の10倍の新機能はリリースできない。ユーザーはそんなにたくさんの新しいものを一気に受け入れられないからだ。だとすれば、効率化の成果はどんな形で表れる?それは人員削減以外にない、というのがメイヤーの見方だった。

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【Q】取り組みの影響が最も大きい部署は?
ここまでのところは、メタバース構想の推進を担ってきたリアリティ・ラボ(Reality Labs)の変化が一番大きいように見える。
1000人規模の社内ツール開発チームでは従来の職種が廃止され、AIネイティブの小規模な「ポッド」群に再編された。従業員は「AIビルダー」に、マネジャー陣は「AIポッドリード」に呼称も変わった。業務成績評価にもAIが使われている。
このアプローチが社内全体に広がって、追加の人員削減の口実になるのではと懸念する従業員も少なくない。従業員総数を減らす計画はないと経営陣は言うものの、不安は払拭されていない。
【Q】取り組みはうまくいきそうか?
AIが誤って重要なデータを削除するといった問題は起きるだろうが、その程度には対処できるだろう。アンスロピック(Anthropic)の「Claude Code」のように劇的な進化を実現できているツールも存在するなかで、メタも社内で実験的な取り組みを推奨して動きを加速させている。
どちらかと言えば、メタよりも、時代を先取りしようと急ぎすぎるスタートアップのほうがリスクは大きいかもしれない。
【Q】これは本当に効率化だけの話なのか?
基本的にはそうだが、それにとどまらない面があるのは事実。
AIを使って効率を向上させるだけでなく、デザインやプロダクト構築、必要に応じた変化への適応、いろんな能力を兼ね備えた柔軟に動けるエンジニアの登場にメタは期待している。
そうした人材を確保あるいは育成することでよりクリエイティブなプロダクトが生まれてくる可能性はもちろんある。とは言え、生産性向上が他の成果に先行して進むのは確実だと思う。

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今週の「勝ち組」と「負け組」
プラネット・ラボ(Planet Labs)の株価推移。Markets Insider
勝ち組:プラネット・ラボ(Planet Labs)が4月1日から2日間かけて28%強の急騰を記録。実はこの1年間で1000%という驚異的な上昇を見せています。
同社は地球観測衛星の設計から製造、運用までを手がけ、衛星画像および地理情報ソリューションを提供。ウィル・マーシャル最高経営責任者(CEO)は米航空宇宙局(NASA)出身です。
テスラ(Tesla)株価の推移。Markets Insider
負け組:テスラ(Tesla)は2026年第1四半期(1〜3月)の新車販売台数が市場予想を下回り、4月2日に株価が5%超の下落を記録しました。
注目すべきこの動き
AIツールによる効率化が急速に進み、ソフトウェア業界やその雇用が消滅するとの見方が広がっていますが、実はソフトウェアエンジニアの求人件数はむしろ増加していることが分かりました。
テック業界専門の情報調査会社トゥルーアップ(TrueUp)によると、足元の公開求人件数は(底値の)2023年との比較でほぼ倍増、年初来だけでも3割増。この3年間で最高水準の6万7000件超に達しています。
ソフトウェアエンジニアの求人件数の推移。TrueUp
パンデミック後の過剰採用に対する調整、人員削減の大波が一段落したことで再び増加に転じたと見ることもできるし、AIの急激な進化により、効率化と同時に(AIを利用するための)大きなエンジニア需要が生まれていると見ることもできるでしょう。
ただし、両手を上げて喜んでいいかどうかは微妙。爆発的に増えたのはAI関連のポジションだけ。エントリーレベルの求人もないわけではありませんが、求職者の母集団もふくらんでいるのでおそらく狭き門です。
トゥルーアップのアミット・テイラー創業者兼最高製品責任者(CPO)はこう指摘します。
「コンピューターサイエンスの学位を持つ人、目指す人がものすごく増えています。募集中の関連ポジションはまだあるのですが、5年前に比べると競争は劇的と言っていいくらい厳しくなっています」

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オープンAIのメディア買収をめぐる若干の懸念
先週金曜日のカッティングエッジでも、オープン(Open)AIが動画・ポッドキャスト配信メディア「TBPN」を買収したニュースをお伝えしましたが、あらためて、デピュティーエグゼクティブエディターのダン・デフランチェスコ記者が論点や想定される今後への影響について整理しました。
動画・ポッドキャスト配信メディア「TBPN」がオープンAIに買収された。Getty Images; Tyler Le/Business Insider
TBPNと聞いてピンと来なかった読者も多いのではないでしょうか。テック分野の経営幹部や起業家たちをゲストに迎え、平日に3時間だけ配信される番組は、極めてニッチな中身(創業者で共同ホストのジョン・クーガン氏はそれが戦略であることを公言しています)。
それでも、スポーツ専門チャンネルESPNの看板番組になぞらえて「シリコンバレーのスポーツセンター」と呼ばれるほど、業界内での人気は絶大です。
だからこそ、その業界で最も影響力のあるメディアを買収したのが、世界の最先端を走るAI開発企業だったことに驚愕せざるを得ませんでした。
先週のニュースレターでも紹介した、ビジネスインサイダーの創業メンバーでもあるピーター・カフカ記者の分析は的確だったと思います。
「広告ビジネスをゼロから構築しようとしていたTBPNにとっては渡りに船。一方のオープンAIは、コミュニケーションおよびマーケティングを強化する強力な人的資産を得られます。買収予算が仮に数億ドル規模だとしても、オープンAIにとって誤差の範囲」(カフカ記者の記事より)

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TBPNの「魔法」は失われる?
私の周辺では疑問の声が渦巻いています。一番多いのは、オープンAIの傘下に入ったTBPNがその「魔法」を保てるかどうか、という点です。
共同ホストのジョルディ・ヘイズ氏とジョン・クーガン氏は買収後も編集上の独立性は維持され、そのことは契約書にも明記されていると強調しています。
一方で、二人は定期配信を続ける番組とは別にオープンAIのマーケティングや広報を支援するとも語っていて、そうなると報道と宣伝の境界線があいまいになる可能性も。
ただ、カフカ記者も前出の記事で指摘していることですが、TBPNは大スクープやCBSニュースの『60ミニッツ』のような調査報道特集を目指しているわけではなく、ヘイズ氏もクーガン氏ももともとテック起業家なので、業界寄りのスタンスを包み隠そうとすることもありません。
これまでテレビ番組には登場しないような業界の大物が次々と出演してきたのは、そうした二人のスタンスに依るところが大きい。
TBPNの共同ホスト、ジョルディ・ヘイズ氏(左)とジョン・クーガン氏(右)。Screenshot of TBPN Official YouTube Channel
問題は、と言うより興味深くウォッチしたいのは、番組の背後に競合他社がいると分かったあとでも、大物たちは快く出演を引き受けるのかどうかです。
(オープンAIを率いる)サム・アルトマン氏がTBPNに資金を提供する立場になったいま、ザッカーバーグ氏は(メタの本社がある)メンローパークにヘイズ氏もクーガン氏を迎え入れるのでしょうか。アンスロピックのダリオ・アモデイ氏はインタビューに応じる?
オープンAIの競合他社はこれから自問自答を強いられるでしょう。TBPNのニッチだが熱狂的な視聴者にリーチすることと、市場シェアを激しく争うライバルを助けることと、その価値は釣り合うのか?と。
TBPNの「焼き直し」番組が大量発生する?
金曜日の買収発表後、ビジネスインサイダーでメディア取材を担当するシドニー・ブラッドリー記者らは、TBPNの「焼き直し」番組が大量発生する可能性を記事で指摘しています。
ライブ配信のトーク番組は以前から人気沸騰の気配を見せていて、今回オープンAIが数億ドル規模(とされる)の買収資金を投じたことで、さらに注目が集まる可能性もあります。
模倣はテック業界の常套手段。他のAI開発大手も別途、TBPN的なライブ配信メディアを手に入れようと動くかもしれません。
でも、似たような番組があふれ返ると、市場が希薄化する恐れもあります。
ESPNのスポーツセンター(前出)が大成功を収めたのは、それがスポーツのハイライトを視聴できる唯一の場所だったからです。その後、ソーシャルメディアが登場して市場を席巻したことで、スポーツセンターの覇権は崩壊に向かいました。
TBPNは現時点ではテック業界の話題の中心にいますが、いつまでそこにいられるのか、あるいは他の番組に取って代わられる日が来るのか、それはまったく分かりません。
