記事のポイント

ChatGPTのインスタントチェックアウトは売上に結びつかず、発見機能に特化する方向へ転換した。

小売業者は顧客体験やデータ管理の観点から、チェックアウトの主導権を自社に残す戦略を選択している。

AIコマースは購買ではなく検索・比較段階で価値を発揮し、既存チャネルを補完する役割にとどまると見られている。

約6カ月前、ChatGPTの「インスタントチェックアウト(Instant Checkout)」は、小売業界において次なるコマースの波に早期参入できる手段として注目を集めていた。しかし現在では、期待外れの結果を受けて、小売業者とOpenAIの双方が新たなソリューションへと舵を切っている。

この機能では、ユーザーが探している商品をChatGPTに尋ねると、Web全体から関連商品がレコメンドされる仕組みであった。インスタントチェックアウトに対応した販売業者の商品については、購入者が配送情報を入力し、そのままChatGPTアプリ上で決済を完了できる設計となっていた。一方で、商品の発送や返品、カスタマーサポートは各小売業者側が担う形である。

今月初め、ジ・インフォメーション(The Information)は、OpenAIがこの機能を縮小し、チェックアウトはChatGPTの検索結果内ではなく、ChatGPTと連携する特定のアプリ内で行う方向にシフトすると報じた。プロジェクト関係者の話として、ユーザーは商品リサーチにはChatGPTを活用しているものの、実際の購入には使っていない実態が明らかになったとされる。

「発見はAI、購入は自社で」へ戦略転換

小売業者は、チェックアウト体験をAIエージェントに委ねる準備がまだ整っていない。インスタントチェックアウトに関与した複数の関係者は、同機能が売上増に寄与しなかったと指摘しており、現在では商品発見はChatGPTに任せつつ、取引そのものは自社で管理する方針に転換している。

この判断はOpenAI側とも足並みを揃えたものである。同社は3月24日のブログ投稿で、販売業者が自社のチェックアウト体験を維持できるようにし、代わりに商品発見領域に注力する方針を示した。

「もっとも優れた消費者体験は、販売業者との深いパートナーシップによって実現される」とOpenAIは述べている。「そのためには、消費者のコンバージョン方法について柔軟な選択肢を提供する必要がある。初期のインスタントチェックアウトは、我々がめざす柔軟性には達していなかった」。

「期待外れ」の結果

Etsy(エッツィー)は昨年9月、いち早くインスタントチェックアウトを導入した企業のひとつである。当時、花瓶からキーホルダーまで数百万点の商品がChatGPT経由で購入可能であった。

しかし同社は、インスタントチェックアウト経由で大きな販売量を獲得するには至らなかった。広報担当者によれば、ChatGPTは依然として新興チャネルであり、ユーザーが積極的に購入に踏み切らなかったことは驚くべきことではない。

一方で、商品発見ツールとしての価値は認められている。ChatGPTのレコメンド機能により、Etsyへの流入トラフィックが増加し、出店者の商品への閲覧機会が拡大している。

インスタントチェックアウトの終了は、Etsyにとって大きな戦略転換にはならない。ただし同社はChatGPT上での存在感を維持するため、同プラットフォーム内でアプリの開発を進めている。販売者やオリジナル商品を強調できる設計をめざしている。既存のテンプレートに依存せずにChatGPT上でアプリを構築することで、ユーザー体験のコントロール性を高める狙いである。

ウォルマート(Walmart)のAI責任者ダニエル・ダンカー氏は、インスタントチェックアウト経由の売上について「期待外れ」であったと語る。チャットボット内で直接購入される商品のコンバージョン率は、外部サイトへ遷移するケースの3分の1にとどまった。

ダンカー氏は「ワイアード(Wired)」誌に対し、顧客は「商品ごとに自動決済されると、1つの箱にまとめてほしいのに、5つの箱が届いてしまうのではないかと懸念している」と語った。「ウォルマートのカートにほかの商品が入っていても、1つの商品ごとに決済が行われるような、分割された決済プロセスは望まれていない」。

小売業者が顧客接点の主導権を握りにいく

小売業者の経営層は、インスタントチェックアウトがどれほど早く効果的な販売ドライバーへと進化し、小売やブランドが期待する機能を備えたショッピングプラットフォームになり得るのかについて、当初から懐疑的であった。

ある大手専門小売業者のCクラス幹部は、昨年10月Modern Retailに対し、インスタントチェックアウトが「本格運用に耐えうる」状態になるためには、リアルタイム在庫の把握、クーポンやプロモーション機能、顧客データの収集、小売業者のロイヤルティプログラムとの統合、店舗受け取り機能との連携などの機能が揃わなければ「実用レベル」には達しないと指摘していたが、結局そこまで進化することはなかった。

一方で、ChatGPT内のアプリはより深い統合体験を提供する設計となっている。たとえばウォルマートのChatGPTアプリでは、アカウント連携やロイヤルティ、決済を同社側で管理できる。さらに同社のチャットボット「スパーキー(Sparky)」もChatGPT内で稼働する予定であり、同様の仕組みは4月、GoogleのGeminiにも導入される見込みだとワイアードは報じている。また、ラスベガスで開催されたショップトーク(Shoptalk)では、セフォラ(Sephora)が美容アドバイスの提供やロイヤルティポイントの利用を可能にするChatGPTアプリを発表した。

市場調査会社、サーカナ(Circana)のチーフリテールアドバイザーであるマーシャル・コーエン氏は、「小売業者やブランドの立場であれば、自社商品をアプリ経由でただ購入してもらうだけでは不十分であり、ほかの商品も提案できる能力をコントロールしたいと考える」と指摘する。

「顧客基盤のコントロールを他者に渡してしまえば、自社は単なるコモディティビジネスになってしまう。それは小売にとって理想的なモデルではない。その場合、単に商品を補充する存在にとどまり、顧客を一連の購買プロセスへと導く力を失うからだ」と述べている。

AIは「入口」であり「決済の場」ではない

フードデリバリーサービス、ドアダッシュ(DoorDash)の広報担当者は、OpenAIがインスタントチェックアウトを終了する決定は、既存のドアダッシュ体験を顧客に提供しつつ、ChatGPTを発見手段として活用する同社の方針と一致していると述べた。

さらに同社は今後、食料品以外の領域にも統合を拡大していく計画である。ドアダッシュは昨年12月にChatGPTアプリを公開しており、特定のレシピに基づいて買い物リストを作成する機能などを提供している。

同様に、食料品即日配達サービス、インスタカート(Instacart)の広報担当者も、現在AIエージェント経由で発生する注文は全体のごく一部にすぎないとしつつも、エンゲージメントの高さには手応えを感じていると語る。同社は取引量よりも、AIが食料品の購入計画における摩擦をどれだけ減らし、より購買意欲の高いバスケットを生み出すかに注目している。

同社は、ChatGPTのようなAIインターフェースを商品発見の拡張手段と位置づけており、実際の取引を行う場ではないと見ている。インスタカートのChatGPTアプリも、チェックアウトは同社のWebサイトへリンクする仕組みになっている。こうすることで、複数商品を含む食料品バスケットの複雑性に対応しながら、リアルタイムの在庫や価格、パーソナライズを提供できるほか、代替商品、在庫状況、食事制限、予算などの要素にも対応できるとしている。

AIコマースは「発見」であり「取引」ではない

中古車販売のカーマックス(CarMax)は、より多くの顧客が会話型AIを使って選択肢を検討し、質問をし、候補を絞り込んだうえでWebサイトや店舗を訪れるようになっていることを受け、ChatGPTアプリを開発した(今年2月に公開)。ただし同アプリは、同社の全在庫、明確な価格設定、顧客に対する分かりやすいガイダンスを提示することに主眼を置いている。

同社の広報担当者は、「我々の焦点は、顧客がどのようにこの体験に関与し、どの場面でもっとも役立つのかを学ぶことにある」と述べている。

旅行予約サイト、エクスペディア(Expedia)の企業提携およびAI担当バイスプレジデントであるクレイトン・ネルソン氏は、AI検索からのトラフィックが急速に増加し、コンバージョン率も高いとしつつも、顧客はAIプラットフォーム内で予約するのではなく、信頼できるブランドを通じて予約することを望んでいると指摘する。

同氏はメールで、「旅行者は生成AIを使って旅行計画を立て、その後、エクスペディアで直接予約することができる。我々のブランドは、長年の旅行業界での専門性、豊富な供給、そして何よりも、問題が起きた際にもサポートされるというエンドツーエンドのサービス体制に支えられている」と説明している。

また「生成AIは重要かつ急成長するチャネルであるが、ほかの顧客接点を置き換えるものではなく、それらを補完する存在である」と述べている。

AIコマースはすぐに主流にはならない現実

ホームセンターチェーンのロウズ(Lowe’s)もまた、ChatGPT内にアプリを展開し、商品情報や在庫状況を提供しているが、実際の取引は同社のWebサイトへ誘導する仕組みを採用している。また同社は、自社モバイルアプリ内の「マイロウ(Mylow)」アシスタントにもOpenAIの技術を活用している。

同社の店舗・データ・AI・イノベーション担当シニアバイスプレジデントであるチャンドゥ・ナイア氏は、「顧客が商品や解決策を見つける場所が新しい購買形態へと移行しているのであれば、我々もそこに存在することが重要だ」と語る。

「小売業者として、自社ブランドがそれらのプラットフォーム上で適切に表示されるようにする必要がある。そのためには時間がかかる。過去のインターネットや検索の進化ほど長くないだろうが、多くの人が考えているよりは少し時間が必要になるだろう」と述べている。

ナイア氏は、エージェント型ショッピングが売上にどの程度影響を与えているかについての具体的な数字は明かさなかったが、それは当初からの目的ではないと説明する。

「即座に売上が伸びることを期待しているわけではないし、それが当然の結果だとも思っていない」と同氏は語る。代わりに注視しているのは、顧客がすでにロウズのサイトで文章形式の検索クエリを入力するようになっているなかで、AIエージェントが検索行動全体にどのような影響を与えるかである。

「AIに読まれるEC」が新たな競争軸に

さらに、小売業者は自社プラットフォームへのAI導入を進めるとともに、自社のECサイトの商品情報がChatGPTやGeminiなどのAIプラットフォーム上で適切に表示されるようにする投資も行っている。

ITリサーチ会社、ガートナー(Gartner)のシニアディレクターアナリストであるグレッグ・カルルッチ氏は、「多くのクライアントから聞くのは、まず自社サイトがこれらのツールに読み取れる状態になっているかを確認するための内部監査に投資しているということだ」と語る。また、「AIが商品詳細ページを適切に評価できるようにするにはどうすればよいか」も重要な検討事項になっていると指摘する。

ナイア氏は最後に、業界の一部ではAIコマースへの移行スピードが過大評価されている可能性があると示唆する。

「消費者がこうした購買形態へ移行するスピードについては、多少の誇張がおそらくある」と同氏は語る。そして、「今後はエージェント型コマースにおいて多くの実験が行われ、その中からもっとも採用される形が見えてくるだろう。しかし重要なのは、そうした実験が行われている場所に我々も存在することだ。顧客がそれを受け入れたとき、そこにいる必要がある」と締めくくった。

[原文:What went wrong with ChatGPT’s Instant Checkout]

Mitchell Parton and Julia Waldow(翻訳・編集:的野裕子)