太田 萌枝=日経クロステック/日経コンピュータ

2026.03.26

出典:日経クロステック、2026年1月23日
 
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 Google DeepMind(グーグル・ディープマインド、以下GDM)が明確に持つ、挑むべき問題の選択基準を全てクリアし、大きな成果を生んだ研究がある。タンパク質の立体構造を予測するAI(人工知能)「AlphaFold」だ。解明に数十年の単位で時間を要していた立体構造が、AIによりわずかな時間で予測できるようになったことは、科学界にとってまさに革命と言える出来事だった。

 AlphaFoldが科学界にもたらしたインパクトとは何か。GDMが科学の領域でこれから挑んでいく問題は何か。サイエンス部門を率いる幹部への取材から明らかにする。

 化学者は長い間、生命の化学ツールであるタンパク質を完全に理解し、マスターすることを夢見てきた。この夢は今や手の届くところにある――。

 2024年のノーベル化学賞受賞者を紹介するドキュメントは、こんな文章から始まる。この「夢」を手に届くところまでたぐり寄せた画期的なツール。それが、GDMが研究・開発を続けるタンパク質の立体構造予測AI(人工知能)「AlphaFold」シリーズだ。

 あらゆる生命を構成する非常に重要な成分でありながら、その複雑さから、立体構造の理解や予測が困難だったタンパク質。2024年のノーベル化学賞受賞者でGDMのCEOを務めるデミス・ハサビス氏は、科学者たちの前に50年以上にわたって立ちはだかってきた壁にAIで風穴を開けた。

AlphaFold3が予測するタンパク質と分子の結合構造のイメージ

AlphaFold3が予測するタンパク質と分子の結合構造のイメージ

(出所:Google DeepMind)

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 AlphaFoldが科学界に最初の衝撃を与えたのは、2018年だった。タンパク質の立体構造を予測する研究を加速することを目的に1994年から始まった国際的なプロジェクト「タンパク質構造予測精密評価(CASP)」の場に登場すると、40%程度にとどまっていたそれまでの予測精度を圧倒する約60%の精度を発揮。実用化を見据えると十分な精度ではなかったものの、AIによって同領域の研究が大きく進み解決する兆しを見せた。

 2020年11月、この兆しが現実となる。既知のタンパク質構造や立体構造の形状を大きく作用するアミノ酸配列など、膨大なデータで強化したモデル「AlphaFold2」が登場したのだ。モデルの強化学習には、当時のGoogle Brain(グーグル・ブレイン)が見いだしたニューラルネットワーク「Transformer」を用いた。

 CASPの場で再び評価されたAlphaFold2の予測精度は驚異的であり、「生化学の50年来の課題が終了した」と評されるほどだった。AlphaFold2は翌2021年に一般公開され、世界中で多くの科学者が利用するモデルとなった。

 ことタンパク質に限定すると、長年の大きな問題が解決し1つの終着点へたどり着いたように見えるが、GDMの研究は以降も続いている。2024年5月には、DNAやRNA、タンパク質と他分子が結合した状態の立体構造予測を可能にするモデル「AlphaFold3」を発表した。

AlphaFoldは2018年の登場以降、科学界に衝撃を与えてきた。2024年にはその功績が認められ、GDMのデミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏がノーベル化学賞を受賞

AlphaFoldは2018年の登場以降、科学界に衝撃を与えてきた。2024年にはその功績が認められ、GDMのデミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏がノーベル化学賞を受賞

(出所:日経クロステック)

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