なお、昨年のAIプリンシプルのアップデートでは、兵器や監視ツールの開発、もしくは「全体として人々に危害を加える、もしくは加える可能性のある技術」の開発にAIを使用しないとの誓約を示す文言が削除されている。
テック企業が防衛関連契約に殺到
冒頭でも若干触れたように、AI技術の軍事・監視用途への転用は、ここ数カ月の間に市民を巻き込んだ大きな議論に発展している。
アンスロピック(Anthropic)は国防総省との契約延長協議をめぐって対立。国防総省が無制限の(あらゆる合法的な)利用を認めるよう求めたのに対し、アンスロピックは大規模な国内監視や完全自律型兵器の開発を目的とする利用を不可と主張して引かず、協議は決裂に至った。
国防総省は最終的に、これまで敵対国と直接関係する企業などに適用されてきた「サプライチェーン上のリスク」にアンスロピックを指定。続いてトランプ大統領も同社の技術使用を停止するよう全ての連邦政府機関に指示を出し、政府契約から段階的に排除すると主張したため、事実上のブラックリスト入りとなった。
アンスロピックは3月9日、サプライチェーンリスク指定を違法な報復措置として国防総省を提訴。競合するオープン(Open)AIやグーグルの従業員有志、さらにはマイクロソフト(Microsoft)がアンスロピックの主張を支持する法廷助言書(アミカス・ブリーフ)を提出し、すかさず連帯する姿勢を示して注目を集めた。
しかしその一方で、戦争ビジネスへの関与から頑なに距離を置いてきたテクノロジー企業が態度を翻(ひるがえ)し、巨額の防衛契約に殺到している現実を見落とすわけにはいかない。

Anthropicでは入社わずか1年で億万長者の仲間入りを果たす社員が続出している | Business Insider Japan
ディープマインドのルー氏は先述の社内ミーティングで、防衛関連の契約が今後さらに増えていくことを予告している。
「また、皆さんにお伝えしておきたいのは、この(防衛関連の)領域の事業に当社は今後も積極的に取り組んでいくということです。目下、各国の政府と国家安全保障上の懸念に関する議論を行っています」
なお、同氏は協議中の分野の具体例として、サイバーセキュリティやバイオセキュリティ(病原微生物などの生物剤や毒素を武器とするテロを防止する安全対策)を挙げた。
グーグル・ディープマインドの広報担当にコメントを求めたところ、3月11日付のブログ記事へのリンクが送られてきた。同記事には、グーグルが国防総省との提携を拡大し、文書作成やプロジェクト管理など機密指定されていないタスク向けのAIエージェント構築ツールを提供したことが記されていた。
ハサビスCEOはこう語った
ディープマインドの共同創業者で現在CEOを務めるハサビス氏は、グーグルとの買収協議に際してAIの軍事目的利用を不可と主張し、それを前提に両社は2014年1月に合意に至った経緯がある。
そのハサビス氏は先述の社内ミーティングで、グーグルの(防衛契約に関する)バランス感覚に「とても満足しています」と前置きした上で次のように語った。
「皆さん見ての通り、露骨なほどに複雑極まりない世界が目の前に広がっています。それでも、民主的手続きを経て選ばれた各国の政府と協力し、世界トップクラスを誇る当社独自の能力を提供することで世界をより安全にし、世界の利益に貢献するのが私たちに課された責務であると考えています」
グーグルがAIプリンシプルをアップデートした際にも、ハサビス氏は公式ブログ「キーワード(The Keyword)」にこう投稿している。
「地政学的な様相が複雑さを増し、AIをめぐる覇権争いが地球規模で広がりつつあるいま、自由や平等、人権尊重といったコアバリューに沿う形で民主社会こそがAI開発をリードすべきと当社は考えています。
そして、そうした価値観を共有する企業や政府、組織は手を携え、市民を守り、世界の成長を促し、国家安全保障を強化につながるAIの創出に取り組むべきと確信しています」

【独自】OpenAIが極秘に進める人型ロボット開発計画。訓練データ収集「第2ラボ」も開設 | Business Insider Japan
グーグルの従業員は2018年、同社と国防総省が締結した軍事向けAI技術(ドローン撮影の映像解析)の供与契約に猛抗議。
結果として同社は「プロジェクト・メイブン(Project Maven)」と呼ばれる計画からの撤退を決定し、兵器や監視ツールの開発に技術供与しないことを定めた先述のAIプリンシプルを策定した。
しかし、すでに何度か言及したように、グーグルは昨年2月にAIプリンシプルをアップデートして軍事・監視向け技術供与に関する記述を削除し、7月には国防総省と2億ドル規模の契約を締結するなど関係を改善。12月には国防総省のAIプラットフォーム「GenAI.mil」のエンジンにGeminiの政府専用モデルが採用されることが判明した。
社内ミーティングで発言したグーグル・ディープマインドの経営幹部らは、国防総省に提供しているAI技術は大部分が事務的な用途向けで、標的の特定や追跡、攻撃のために使われることはないと説明。
前出のルー氏はさらに具体的に、情報の要約や契約書からのテキスト抽出など「バックオフィス的な」タスクに利用されていることを明らかにした。
なお、グーグルの従業員たちが懸念するのは政府契約だけではない。

ボストン・ダイナミクスCEOが単独取材で明かした人型ロボット開発「本当のタイムライン」 | Business Insider Japan
グーグル・ディープマインドは今年1月のテックカンファレンス「CES 2026」で、ヒョンデ(Hyundai)傘下のボストン・ダイナミクスが開発中の人型ロボットに「Gemini Robotics」モデルを統合するプロジェクトを進めていると発表。
社内ミーティングではその軍事転用の可能性に関する質問が出て、ルー氏は次のように回答している。
「ボストン・ダイナミクスはこの技術を兵器用途に使用しないことを条件として明確にしています」
