日本企業に生成AIが浸透するにつれ、存在感が増しているのが「Microsoft 365 Copilot」だ。多くの企業に導入されるMicrosoft 365で利用できる生成AIサービスであり、2026年3月9日には、Anthropicとの協業によりマルチモデル化や業務を遂行してくれるAIエージェント「Copilot Cowork」が発表されるなど、大幅な進化を遂げている。
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生成AI活用が日本企業に浸透するにつれ、「Microsoft 365 Copilot」の存在感が一段と増している。既に多くの企業が利用するMicrosoft 365上の生成AIサービスであり、2026年3月9日には、Anthropicとの協業によるマルチモデル化や業務遂行エージェント「Copilot Cowork」が発表されたばかりだ。
日本マイクロソフトが3月24日に開催した旗艦イベント「Microsoft AI Tour Tokyo」の基調講演では、Microsoft 365 Copilotをはじめとした同社の生成AIサービスの現在地が、デモを交えて紹介された。
冒頭、日本マイクロソフトの代表取締役社長である津坂美樹氏は、Microsoft 365 Copilotの導入が幅広い業界で拡大しており、日経225企業における導入率が“94%”に達したことを明かした。
フロンティア組織に共通するAI活用の“4つのフレームワーク”
基調講演の大部分を割いて説明されたのが、AIを有効活用する「フロンティア組織」のあり方と、それを支えるマイクロソフトの生成AI「Copilot」だった。
来日した米マイクロソフトのエグゼクティブ バイスプレジデント 兼 チーフマーケティングオフィサー(CMO)である沼本健氏は、「フロンティア・トランスフォーメーション」という概念を提示した。これは、単なる業務効率化やコスト削減にとどまらず、人を煩雑な作業から解放し、本来向き合うべき創造的な業務に注力できる世界を目指す考え方だ。そして、このビジョンを体現するのがフロンティア組織である。
「AIがもたらす真の未来は『AIの民主化』、つまりは誰もがAIを効果的に活用できるようになることで実現される。フロンティア・トランスフォーメーションは、自然に起こるものではなく、それぞれの組織がリーダーシップを発揮して、AIに対する考え方を定義して、強い意志をもって実現していく必要がある」(沼本氏)
また、マイクロソフトが世界の何千社ものAIプロジェクトに関わる中で、フロンティア組織に共通する要素として、AI活用を成功に導く「4つのフレームワーク」が見られたという。
■AI活用を成功に導く4つのフレームワーク
・従業員体験の強化:優秀な人材を採用・育成する中でAIツールを用意し、さらにその成果を可視化する
・顧客体験の改革:顧客とのつながりをリアルタイムでパーソナライズしたものに変換して、新たな価値を創造する
・ビジネスプロセスの再構築:単純にAIを当てはめるのではなく、AIファーストで抜本的に既存プロセスを設計し直す
・イノベーションの加速:AIを変革の推進力にして、自組織独自の強みをさらに強化する
こうしたフロンティア組織を支える仕組みとして、2025年11月のMicrosoft Igniteで発表したのが、「Work IQ」「Fabric IQ」「Foundry IQ」という、AIエージェントのための3つのレイヤーである。
Work IQは、Microsoft 365から得られた業務や組織のコンテキストを統合する、Microsoft 365 Copilotやカスタムエージェントが業務フローで働くための頭脳にあたる。一方のFabric IQは、データ基盤である「Microsoft Fabric」に統合されたビジネスデータを、AIエージェントが理解できるようにするレイヤーだ。
最後に、Foundry IQは、コンテキストとなるデータソースを統合して、AIエージェントに根拠に基づく回答をさせる、AIアプリケーションの構築・運用基盤「Microsoft Foundry」のナレッジベースである。さらに、3つのIQを活用したエージェント全体のオブザーバビリティ(可観測性)を担う「Agent 365」も用意される。
人の代わりに業務をこなす“Copilot Cowork”の実力は?
基調講演では、架空のフロンティア組織「Zava(ザバ)」が新製品をローンチするというシナリオのもと、各部門のユーザーがAIエージェントと協働する様子を、デモを交えて披露した。
まず登場したのは、日々の業務フローの中で自然にAIを活用できる「Copilot Cowork」である。これは、AnthropicのClaude CoworkをベースとしたAIエージェント機能であり、これまでのMicrosoft 365 Copilotが文章作成や情報整理などを支援するアシスタントだったのに対し、Copilot Coworkはさまざまな業務を自律的に遂行できる点が特徴だ。現在、研究プレビュー中で、今後Microsoft 365 Copilotに統合されていく。
デモでは、新製品ローンチを準備するマーケティング責任者が、Copilot Coworkに、「会議の設定」「市場調査のビジネス計画書への反映」「経営層向けのピッチ資料の作成」といった複雑な複数タスクを依頼。Copilot Coworkは、これらのタスクを分解して具体的なステップを提示し、バックグラウンドで作業を進めていく。マーケティング責任者は、自身のタスクに集中しつつ、ポップアップで共有される進捗を適宜確認すれば良い。タスクが進行中でも追加の依頼を投げることも可能だ。
出来上がったビジネス計画書のドラフトは、Wordに組み込まれたCopilotと一緒に仕上げていく。「先ほど受け取ったメールに基づいてアップデートして」といった曖昧な指示でも、CopilotがWork IQによって該当メールを見つけ出し、必要な情報を追記してくれる。ピッチ資料も、PowerPointのCopilotが、経営層が一目見て分かるようなデザインにブラッシュアップした。
続いては、財務担当者のデモだ。新製品に対する投資が妥当かを、ExcelのCopilotと共に分析する。Copilotは、タスクに応じてAIモデルを選択でき(デモではClaude)、プロンプトとしてファイル名の一部を入力するだけで、Work IQが先回りをして適切な資料を提案してくれる。結果、簡単な指示だけで分析のためのダッシュボードが生成され、さらにCopilotが参照するデータの機密性に応じてセキュリティラベルが自動更新される様子も紹介された。
あらゆる現場で始まる“エージェントとの協働”とそれを制御する“オブザーバビリティ”
サプライチェーン担当者のデモでは「Copilot Studio」が取り上げられた。同ツールでは、任せたい業務の内容を記述するだけでカスタムエージェントが作成でき、さらに、AIモデルやエージェントが動き出すトリガー、連携するツールやサービスなども指定できる。
今回は、経営層からのメールをトリガーに、サプライヤー選定や生産スケジュールを盛り込んだ「リリース計画書」を自動作成するエージェントが紹介された。Foundry IQと連動することで、組織の規定に則っているかを自動チェックできる仕組みも実装されている。
開発現場のデモでは、「GitHub Copilot」との協働が披露された。キックオフミーティングに参加できなかった開発者は、「GitHub Copilot CLI」とWork IQを接続して、議事録からタスクを抽出し、そこから要件定義を生成してもらう。その情報はGitHub Issuesに登録され、「GitHub Copilot Coding Agent」を割り当てることで、コードを一行も書かずに実装までを完結できる。
こうして作られたのが、Tシャツのデザインをサポートするエージェントが組み込まれたWebサイトだ。このエージェントはFoundry IQによって、Tシャツの価格や送料といったナレッジを参照しながら、顧客サポートまで請け負う。
さらに、このエージェントが不正アクセスやジェイルブレイクなどの攻撃を受けると、Agent 365で検知・通知される。Agent 365では、社内のエージェントの利用状況を把握できるほか、エージェントマップの機能でどのようなエージェントや外部サービスと接続しているかを可視化できる。
AI時代に最も重要なのは“インテリジェンス”と“トラスト”
沼本氏は、「AI時代おいて最も重要なものは何か」を会場に問いかける。それは、AIモデルでも、推論やトレーニングを支えるシリコンでもなく、「組織特有のインテリジェンス」と「トラスト」だという。
「AIは本来、社員がどのように働き、誰と誰が協業して、どのような意思決定をするかを理解すべきであり、マイクロソフトはそれを実現する包括的なプラットフォームを提供する。そして、そのインテリジェンスの対になるのがトラストであり、ガバナンスやセキュリティが担保されなければ、どんなテクノロジーも広がることがない」(沼本氏)
加えて沼本氏は、日本の様々な業界でフロンティア組織、フロンティア・トランスフォーメーションを推進するリーダーが生まれていると強調する。「これらのフロンティア組織は、ビジネスの課題を解決し、成果を生み出すためにAIを活用しており、 もはや実証実験の段階ではない」と締めくくった。
文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp
