島津 翔=シリコンバレー支局

2026.03.31

出典:日経クロステック、2026年1月30日
 
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 英DeepMind(ディープマインド)が米Google(グーグル)に買収されたのは2014年。研究所としての性格が強かったディープマインドは2018年、初めてCOO(最高執行責任者)を置いた。初代COOに就いたライラ・イブラヒム氏は、「責任あるAI(人工知能)の構築」に向けた組織的な基盤を整備。2023年にディープマインドがGoogle Brain(グーグル・ブレイン)と統合すると、両者の融合に奔走した。「8年間かけて、技術を社会に実装する専門チームを作り上げた」。イブラヒム氏に、Google DeepMind(グーグル・ディープマインド、以下GDM)が変貌した経緯を聞いた。(聞き手は島津 翔=シリコンバレー支局)。

(写真:日経クロステック)

ライラ・イブラヒム(Lila Ibrahim)氏

グーグル・ディープマインドCOO。米インテル、米コーセラなどを経て2018年にディープマインド(現在のGDM)にCOOとして加わる。2025年11月に来日し、GDMのAIに関する取り組みを紹介した

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まず、技術を公開するかどうかの判断基準を教えてください。GDMが開発したタンパク質の構造分析AI「AlphaFold2」はオープンソースでしたが、AIモデル「Gemini」はクローズドソースですね。

 大前提として、我々のミッションは「人類に利益をもたらす責任あるAIを構築すること」。すべての製品や研究、基盤技術はこの考え方を中心に設計されています。最先端の技術に取り組めば取り組むほど、私たちはより慎重である必要があります。技術が高度で強力になればなるほど、その影響が大きくなるからです。

 AlphaFoldはその好例でしょう。生物倫理学者やノーベル賞受賞者を含む科学者たちと協力しながら、「安全に公開できる技術かどうか」を最初から検討してきました。安全であると判断した段階で、私たちはEMBL-EBI(欧州分子生物学研究所のバイオインフォマティクス部門)と連携し、責任ある形で公開しました。

 同時に、創薬などの商業応用については、英Isomorphic Labs(アイソモーフィック・ラボ)というスピンアウト企業が担っています(編集部注:ディープマインドから2021年に分社化。AI創薬を手掛ける)。

ディープマインドから分社したアイソモーフィック・ラボの社員。デミス・ハサビス氏がCEOを務める

ディープマインドから分社したアイソモーフィック・ラボの社員。デミス・ハサビス氏がCEOを務める

(写真:アイソモーフィック・ラボ)

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 一方でGeminiについては、アプローチが異なります。Geminiを製品として提供する一方で、「Gemma」というオープンモデル群を公開しています。重要なのは、「公共の利益」は必ずしもオープンソースだけから生まれるわけではない、という点です。その中に組み込まれる科学的知見そのものも大きく寄与します。

 例えば我々は、学習科学の研究者や教育者と協力して「LearnLM」という教育向けAIモデルを開発してきました。そしてそれを(2025年に)Geminiに統合し、「ガイデッド・ラーニング」という機能をリリースしました。

GDMがオープンモデルとして公開している「Gemma」

GDMがオープンモデルとして公開している「Gemma」

(写真:Koshiro K/stock.adobe.com)

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公共性は重要だが、同時に安全性も重視しているということですね。その点で、安全性を求める研究者と、公共性や社会的影響を求める経営陣との間にギャップはありませんか。COOとして意思決定にどう関わっていますか。

 とても大事な観点ですね。私自身、30年以上テクノロジー業界で働いてきました。米Intel(インテル)やベンチャーキャピタル(VC)、米Coursera(コーセラ)などで、新しい技術が登場する瞬間を数多く見てきました。

 AIは、顕微鏡や望遠鏡のように、人類の世界理解を根本から変える技術です。病気の理解、廃棄物問題、気候予測など、多くの課題解決に役立ちます。一方で、非常に強力だからこそ、慎重な取り扱いが必要です。

 私がディープマインドに参加し、COOとして最初に取り組んだのは、既にあった優れた取り組みを学び、制度やガバナンスとして強化することでした。倫理研究への投資を確保し、技術の影響を受けるコミュニティーと協働する体制を作ることです。問題が起きたときには説明責任を果たし、リスクと機会のバランスを取り、謙虚に学び続ける必要があります。

 デミス(デミス・ハサビスCEO=最高経営責任者)は日本の「カイゼン(改善)」の大ファンで、GDMにも継続的改善の文化があります。新しい技術には、それが不可欠です。

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