焦点:米撤退ならイランがエネルギー供給掌握へ、攻撃は「根本的誤算」か

写真はイランの国旗とオイルジャッキ、上昇するグラフのイメージ。3月2日撮影。REUTERS/Dado Ruvic

[ドバイ 2日 ロイター] – もしもトランプ米大統領(共和党)がイランと合意を結ばずに戦闘から手を引けば、中東のエネルギー供給の生殺与奪の権をイランに握らせておくことになる。イランはタンカーが多く通るホルムズ海峡を事実上封鎖して世界のエネルギー市場を揺るがすことで立場がより強固になり、結果として勢いづきかねない。

他の中東の湾岸地域にある石油・ガス生産国は、自国が引き起こしたわけでも、主導したわけでもない紛争の余波に苦​しむ恐れがある。

トランプ氏はロイターの4月1日のインタビューで、イランとの戦闘を「かなり早く」終結させると表明した。前日の3月31日には、イランとの合意がなくても戦闘を収束させる可能性を示唆‌していた。

アラブ首長国連邦(UAE)ドバイのB’huth研究センターのモハメド・バハルーン所長は「問題は、実質的な成果なしに戦争が終結してしまうことだ」とし、「(トランプ氏は)戦争を止めるかもしれないが、だからといってイランも止めることを意味するわけではない」と指摘する。その上で、米軍が湾岸地域の基地に駐留し続ける限り、イランはこの地域の脅威であり続けると語った。

このような不均衡こそが、湾岸諸国の懸念の核心にある。すなわち湾岸諸国が未解決の紛争による経済的・戦略的コストを背負わされる一方で、イランは敗北すること​なくむしろ影響力を強め、海運やエネルギーの流通、地域の安定を脅かす存在であり続けるとの懸念だ。

バハルーン氏は、イランが「領海カード」を切り始め、世界のエネルギー供給の生命線であるホルムズ海峡​でのルールを決定し始める可能性があるとの見方を示す。

その上で「これはホルムズ海峡の問題にとどまらない」とし、「イランは世界経済の急所を掌握した」と解説した。

イランが⁠エネルギー供給を遮断できる能力を持ったことを通じ、イランへの攻撃を企てる勢力に対して考え直すべきだという明確なメッセージを送っているとの論理に立てば、湾岸諸国が戦闘に巻き込まれるのを避けてきた理由も分かり​やすい。

湾岸地域の当局者らは、米国とイスラエルによるイランへの攻撃に端を発した戦闘がはるかに危険な事態、すなわち数十年にわたって中東の構図を一変させるイスラム教のスンニ派とシーア派の対立へ変質する事態を防ぐこと​が最大の関心事だったと明かす。

<根本的な誤算>

イラン攻撃について政治アナリストらは根本的な誤算だと評する。米国とイスラエルはイラン指導部の排除を意図し、最高指導者だったハメネイ師を殺害した。

ところが、反発したイラン指導部を抵抗と報復攻撃に駆り立て、同国は後任の最高指導者にハメネイ師の息子のモジタバ師を選出した。

中東問題研究者のファワズ・ゲルゲス氏は「トランプ氏と(イスラエル首相の)ネタニヤフ氏は、地政学的な紛争を一挙に宗教的・文明的な紛争へ変質させてしまった」とし、「彼らはハメネイ師を、批判の的​となっていた統治者から殉教者へと格上げしてしまった」と説明する。

地域のアナリストらは、ハメネイ師の殺害はイランでの神権政治指導部の最も強硬な本能に正当性を与える役割を果たし、聖職者層とイスラム革命防衛隊を「​降伏は考えられず、耐え抜くことが神聖である」とする「存亡をかけた抵抗」の物語に結びつけることになったと言及する。その上で、最高指導者を排除すれば体制が崩壊するという想定は、イランの多層的な制度、並行する権力構造、そしてイラク‌との約8年にわた⁠る戦争や米国の数十年来の制裁に耐えてきた歴史を無視していると批判した。

中東研究所のイラン専門家アレックス・バタンカ氏は「ハメネイ師は(シーア派の高位の称号)アヤトラだった。これは通常あり得ないことで、ましてや外国勢力がアヤトラを殺害するなど到底あり得ない」とし、「しかし、相手はトランプ氏だ(中略)ブレーキのかからない男であり、シーア派の聖職者層は(中略)あらゆる規範や儀礼を踏みにじられたと受け止めた」と解説する。

<イランの石油という武器>

テロについて詳しいマグナス・ランストロップ氏は、米国とイスラエルはイランのイデオロギー的な力を認識しないまま戦闘に突入したわけではないものの、その力強さを過小評価していたようだと指摘する。

同氏によると、当初の想定で​はミサイル発射台と指揮拠点を破壊し、要人を殺害す​ることで制空権を得られ、行動の自由と戦略的な封じ⁠込めをもたらすと考えられていた。しかし、実際にはイランの体制は崩壊するどころか、むしろ強固になった。一因として、圧力を受けても再生するように設計された機関が並立し、下支えしていることが挙げられるとした。

また、地域の政治アナリストらは米国がイランの報復能力を誤認していたと指摘する。イランは空中戦に勝つ必要はなく、代​償を強いることが目的なのだと説明した。

イランはエネルギーインフラへの攻撃やホルムズ海峡の事実上の封鎖によって原油価格を押し上げ、世界的な物価上昇を助長し、​米国および同盟国に圧力をかけ⁠た。

アナリストらはイランの目的は戦場での勝利ではなく、経済的な疲弊を強いることだったとの見方を示す。戦闘が経済的に耐え難いものとなれば、生き残ること自体が勝利になるのだと指摘した。

安全保障が確実である保証がないまま戦闘を早く終結させれば、湾岸諸国は無防備な状態に置かれ、将来的なイランの報復は地域内にとどまらない可能性もある。

イランは戦場から遠く離れた場所にあるイスラエル、米国、および同盟国の利益を標的とするために数十年間かけて構築してきたルートを活用し、⁠長年にわたる世界​的なネットワークを動員する能力を保持している。

ランストロップ氏は「彼らはまだ始動していないが、米国とイスラエルに懲罰を与える膨​大な能力を持っている」とし、イランは中東をはるかに超えた場所で触手を伸ばすことのできるヒドラのような脅威だと形容した。

そんなイランの脅威の行方は、米国が撤退するかどうかにかかっている。イスラエルの作戦が大きく依存している米国が撤退することになれば、イランはその結​果を敗北とは見なさないだろう。

そうなればイランの神権政治体制は存続し、勢力図も劇的に変化することはないだろう。そして、イランは湾岸地域で以前よりも危険な存在と見なされることになるというのが地域のアナリストらの見方だ。

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