
4月2日、東京都内のディーリング・ルームで、イランを巡るトランプ米大統領の演説を聞く関係者。REUTERS/Kim Kyung-Hoon/File Photo
[東京 2日 ロイター] – 米国のトランプ大統領が日本時間2日午前、イラン攻撃の現状と見通しについて演説した。米国が勝利を収めていると強調したものの、今後2─3週間は攻撃を続けるとの考えを改めて表明した。停戦に向けた具体的な見通しが示されなかったことで、原油高や中東戦略で気を揉む日本政府内からはため息も漏れる。マーケットに再び情勢不安の長期化懸念が広がると危惧する専門家もいる。
<「みんな疑うようになっている」>
「単にこれまでの発言の繰り返しだ。新しいことは何もなかった」。首相官邸関係者は演説後、ロイターの取材にこう漏らした。日本のエネルギー供給は、原油の9割以上を中東から調達することで成り立ってきた。情勢不安の長期化は、国内の物価高に加え、ナフサなどの石油関連製品の枯渇や国民不安に直結する。
高市早苗首相はサプライチェーン(供給網)の多角化などを打ち出すが、各国ともに原油や関連製品が不足する状況では限界がある。経済官庁幹部は「トランプ氏が何を語っても、マーケットを含めてみんな疑うようになっている」とし、「演説を受けて実態がどう変わるかが重要だったが、内容を聞く限り何も変化はないだろう」と指摘。「引き続き米国の動きを見ながら、国内向けに何ができるかを考えなければならない」と語った。
木原稔官房長官はこの日の記者会見で、トランプ氏の演説について「米国とイランとの協議が良い方向に向かうことを期待している。日本は国際社会と緊密に連携しながら事態の早期沈静化に向けた外交努力を粘り強く続けていく」と、これまでの立場を繰り返すのみだった。
<「マーケットが懸念深める恐れも」>
専門家の間からは演説の意味を疑問視する声や、マーケットへの影響を懸念する意見が聞かれた。中東・イスラム地域研究を専門とする国立民族学博物館グローバル現象研究部の黒田賢治准教授は、「目新しさが全くなく、演説する意味があるのだろうかと感じた」と述べた。「大きな公式の場で発言することで、トランプ氏を信奉する人たちに対し『米国は勝っている、米国は偉大である』と強調するプロパガンダ的意味合いはあるのだろう」と分析した。
演説を機に事実上の封鎖状態が続くホルムズ海峡に変化はあるのか。英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)フェローの玉木直季氏は、「トランプ氏の今回の発言で石油や石油製品がスムーズに出荷されるようになるとは思えない」と言う。早期停戦の公算は依然として大きいものの、失望したマーケットが情勢不安の長期化への懸念を深める恐れもある、とも述べた。明治安田総合研究所チーフエコノミストの小玉祐一氏も、「停戦が早期に実現するなら原油価格は落ち着き世界経済に好影響となったが、演説を聞いても停戦の実現は不透明だ」と語った。
<「敵対国と見られない関係を」>
日本政府は引き続き情勢を見極めつつ対応を決める構えだ。木原氏は会見の中で、英国からホルムズ海峡の安全確保を目指す多国間協議への参加の呼びかけがあり、対応を検討中だと明らかにした。その上で、「海峡における航行の安全を含む中東地域の平和と安定は、エネルギー安定供給の観点を含め、日本に限らず国際社会全体にとって重要だ」と強調。3月19日に欧州主要国などと共同で発出した首脳共同声明を引き合いに、「国際社会と緊密かつ広範囲に連携しながら必要なあらゆる外交努力を行ってまいりたい」と述べた。
ただ、海峡の安全を確保するための「貢献」について、日本は法的にも多くの制約を抱える。日本政府関係者は、仮に米国の攻撃が終結したとしてもイスラエルとイランの関係が読めないことや、テロの恐れなど不確定要素が残り続けることを挙げ、「日本の艦船がペルシャ湾に出ていくのはハードルが高い」との立場を崩していない。機雷除去のための掃海艇派遣も、敷設された機雷が武力行使のためではなく遺棄されたものであると認定できなければ不可能だ。
チャタムハウスの玉木氏は日本が原油不足を脱する方策として、「対イラン外交を継続し、新しい体制からも原油を買い入れること」が重要だと指摘。米国やロシアからのエネルギー調達を増やす必要もあると話す。民族学博物館の黒田氏も「イランは日本が米国との関係を重視せざるを得ないことはよく理解している」とした上で、「イランとの関係を維持し、敵対国と見なされないポジションを確保し続けることが大切だ」と提起した。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)
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