第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展のメイン展示に参加するアーティストやキュレーターが、イスラエル館のアルセナーレへの移転に反対するとともに、同国およびロシア、アメリカの参加に抗議する公開書簡を発表した。
今回のビエンナーレは、準備中に急逝した総合キュレーター、コヨ・クオ(Koyo Kouoh)の遺志を継いで開催される。テーマは「In Minor Keys」。111人のアーティストが参加し、暴力や緊張が世界を覆う現在において、「マイナーキーに耳を傾け、全ての生きとし生けるものの尊厳が守られるオアシスや島々を見出す」ことを目指す。
公開書簡に名を連ねる73人のアーティストの中には、アルフレド・ジャー(Alfredo Jaar)、ゾーイ・レナード(Zoe Leonard)、タビタ・レゼール(Tabita Rezaire)らに加え、日本から参加する嶋田美子とブブ・ド・ラ・マドレーヌも含まれる。
争点となっているのは、ナショナル・パビリオンが集まるジャルディーニ地区のイスラエル館改修に伴い、今回例外的に同館をメイン展示の会場であるアルセナーレへ移転するという決定にある。彼らは書簡で次のように主張する。
クオのキュレーションのビジョン、彼女のキュレーター・ステートメント、そして彼女がこれまでの全活動において明確に表明してきた「Radical Solidarity(急進的な連帯)」の原則を侵害し、真っ向から否定するものです。また、イスラエル館に随伴する軍や警察の駐留により、暴力と恐怖の状況がもたらされることになるでしょう。これは、本展に参加するアーティストとして、私たちに直接関わる問題です
書簡によれば、署名者たちは3月13日にこの決定の撤回をビエンナーレ側に正式に求めたが、同側は中立の立場を表明したという。これに対し彼らは、国連の独立調査委員会やヒューマン・ライツ・ウォッチなど複数の機関がイスラエルによるガザでのジェノサイドを認定していること、さらに国際刑事裁判所(ICC)が2024年11月にネタニヤフ首相に対して出した逮捕状が現在も有効であることを根拠に、「それは中立ではなく加担である」と批判した。
また歴史的先例として、1974年のチリ軍事政権への抗議による国別パビリオン形式の停止、1968年から1993年に行われたアパルトヘイト体制を理由とする南アフリカの排除、2022年から2024年にかけてのロシア排除を挙げ、同様の措置をイスラエル、ロシア、アメリカにも適用すべきだと主張している。加えて、パレスチナの独立したパビリオンがいまだ存在しないことも、不平等の証左として指摘した。
彼らは書簡で次のように語る。
私たちは、世界中の多様な地域で育ち、活動する文化従事者として、また1人の人間として、パレスチナ、スーダン、ミャンマーにおけるジェノサイドや民族浄化、さらにはカメルーン、コンゴ、キューバ、イラン、カシミール、レバノン、モザンビーク、ウクライナ、ベネズエラ、そして数え切れないほどの他の地域で横行する暴力、占領、戦争など、増大する体系的な抑圧、不平等、存在の抹消にさらされている全ての人々への連帯を表明します。これが私たちが生き、創作活動をする世界であり、第61回ビエンナーレが受容されるより大きな文脈なのです
今回の公開書簡は、今年3月中旬に活動家団体「Art Not Genocide Alliance」がヴェネチア・ビエンナーレに対しイスラエルの除外を求めて発表した声明に続くものだ。同声明にはおよそ200人の美術関係者が署名し、「In Minor Keys」に参加するアーティスト数十人や、各国パビリオンのアーティストおよびキュレーター12人も匿名で加わっている。
また、今回のロシアのビエンナーレ復帰の決定をめぐっても批判が高まっており、欧州連合(EU)が200万ユーロ(約3億6800万円)の資金提供を撤回する可能性を示唆したほか、イタリア文化相もロシアの復帰を「支持しない」と表明している。
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