こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した彗星「C/2025 K1 (ATLAS)」です。左から順に、2025年11月8日・9日・10日と3日間連続で撮影されたこの画像は、C/2025 K1が崩壊していく貴重な過程を捉えたものです。

HST(ハッブル宇宙望遠鏡)が観測した彗星「C/2025 K1」。左から順に、2025年11月8日・9日・10日に取得したデータを使って作成(Credit: Image: NASA, ESA, Dennis Bodewits (AU); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が観測した彗星「C/2025 K1」。左から順に、2025年11月8日・9日・10日に取得したデータを使って作成(Credit: Image: NASA, ESA, Dennis Bodewits (AU); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))】

もともと直径約8キロメートルだったと推定されているC/2025 K1の核(彗星核)が、4つから5つの破片に分裂していく様子が捉えられています。高い解像度を有するハッブル宇宙望遠鏡は、それぞれの破片がガスや塵(ダスト)でできた「コマ」と呼ばれる一時的な大気をまとっている様子を鮮明に観測しました。なお、観測当時のC/2025 K1は、地球から約9000万キロメートル(約0.6天文単位)離れた位置にありました。

また、C/2025 K1は、同時期に太陽や地球へ最接近した恒星間天体「3I/ATLAS(アトラス彗星)」とは異なる天体である点にも注意が必要です。彗星の名前については以下の関連記事もご参照ください。

偶然がもたらした貴重な発見の機会

実は、この観測はまったくの偶然から実現しました。

ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを分析した研究チームの一員であるオーバーン大学のJohn Noonan研究教授によれば、もともと別の彗星を観測する予定だったものの、技術的な制約によって、急遽ターゲットをC/2025 K1に変更することになりました。ハッブル宇宙望遠鏡が彗星に向けられたのは、C/2025 K1が崩壊した直後のタイミングだったというのです。

この出来事についてNoonanさんは、科学的な大発見をもたらした幸運な偶然だったと語っています。

HST(ハッブル宇宙望遠鏡)が2025年11月8日・9日・10日に観測した彗星「C/2025 K1」と、観測当時の彗星の位置を示した図(Credit: Illustration: NASA, ESA, Ralf Crawford (STScI))HST(ハッブル宇宙望遠鏡)が2025年11月8日・9日・10日に観測した彗星「C/2025 K1」と、観測当時の彗星の位置を示した図(Credit: Illustration: NASA, ESA, Ralf Crawford (STScI))【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が2025年11月8日・9日・10日に観測した彗星「C/2025 K1」と、観測当時の彗星の位置を示した図(Credit: Illustration: NASA, ESA, Ralf Crawford (STScI))】観測が示した彗星核崩壊の謎

ハッブル宇宙望遠鏡による観測は、C/2025 K1が近日点(太陽に最も近づく軌道上の一点、C/2025 K1の場合は水星の軌道よりも内側)を通過した約1か月後に実施されました。NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、近日点通過時には強烈な熱とストレスがかかるため、C/2025 K1のような長周期彗星(太陽の周りを長い時間をかけて公転する彗星)は崩壊しやすい傾向にあるといいます。

しかし、今回の観測は新たな謎も提示しました。彗星の核が分裂して内部の新鮮な氷が露出したにもかかわらず、明るいバースト(増光)がすぐには起きず、地上から大規模な増光が確認されたのは分裂の1〜3日後だったのです。

彗星が明るく輝くのは、主に放出された塵が太陽光を反射するためです。ただ、露出したばかりの氷からは、すぐに大量の塵は放出されません。研究チームは、表面の氷が徐々に蒸発したことで乾いた塵の層が数日かけて蓄積し、それが一気に吹き飛ばされたために、増光のタイムラグが生じたと推測しています。

また、太陽の熱が内部へ伝わるのに時間がかかったことと、噴出したガスの反作用で彗星の自転が数日かけて加速し、その遠心力によってさらなる崩壊と大量の塵の放出が起きたことで増光に至ったという別の可能性も研究チームは指摘しています。

太陽系の起源に迫る“古代の物質”

彗星は、太陽系が形成された当時の古い物質でできていると考えられています。論文の筆頭著者であるオーバーン大学のDennis Bodewits教授によれば、崩壊によって内部の物質が露出した彗星は、太陽光や宇宙線の影響を長年にわたって受けていない手つかずの物質を直接観測できる貴重な機会をもたらします。

地上の望遠鏡による予備的な分析では、C/2025 K1は他の彗星と比べて炭素が著しく少ないという、化学的に珍しい特徴を持っていることがわかっています。今後はハッブル宇宙望遠鏡の「STIS(宇宙望遠鏡撮像分光器)」や「COS(宇宙起源分光器)」といった分光器(波長ごとの電磁波の強さの分布であるスペクトルを得るための装置)を用いた詳細な分析が予定されており、太陽系の成り立ちの解明につながることが期待されています。

冒頭の画像はNASAやESA(ヨーロッパ宇宙機関)から2026年3月18日付で公開されています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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