ペンギン装着ビデオで発見:ペンギンが翼足類を捕食する行動を初記録

2026年3月27日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所の渡邊日向特任研究員、高橋晃周教授を中心とする日本・フランスの国際共同研究グループは、南極に生息するアデリーペンギンに小型ビデオカメラを装着して行動を記録するバイオロギング観測によって、アデリーペンギンが翼足類(注1)を頻繁に捕食していることを明らかにしました。翼足類は南極海に広く分布する動物プランクトンの一群ですが、これまでペンギンを含むクジラ、アザラシなどの大型の海洋動物が翼足類を捕食するという直接的な証拠はありませんでした。本研究は、翼足類が南極海の食物連鎖において大型海洋動物の餌となりうることを示す世界初の映像証拠です。

(左)アデリーペンギン、(中央)Clio pyramidata(フランス国立科学研究センター Dr. Laurent Chauvaud提供)、(右)アデリーペンギンに装着したビデオカメラで撮影された、有殻翼足類(Clio pyramidata)を捕える瞬間のキャプチャ写真。

研究の背景

翼足類は南極海に広く分布し、ときに高い密度で出現する動物プランクトンの一群です。なかでも透明の殻をもつ有殻翼足類は、海洋酸性化や水温上昇などの環境変化の影響を受けやすいことが知られており、個体数の減少や分布の変化を通じて、将来の南極海の食物網に影響を及ぼす可能性が指摘されています。一方で、翼足類が南極海の食物網の中でどのような役割を担い、他の海洋動物にどのように利用されているか、その生きもの同士のつながりについては詳しく分かっていませんでした。

研究の内容

本研究では、南極のフランス基地(デュモン・デュルヴィル基地)周辺で繁殖するアデリーペンギン8個体に小型ビデオカメラ(図1)を装着し、潜水中の行動を記録しました。回収した映像を解析した結果、この地域で主な餌とされるオキアミや魚に加え、アデリーペンギンが有殻翼足類であるClio pyramidataとLimacina rangiiを頻繁に捕食していることが明らかになりました(動画1)。計87時間に及ぶ映像には1449回の翼足類の捕食シーンが記録され、1回の潜水中のわずか2分間に80匹以上を食べる例も確認されました。これにより、翼足類がアデリーペンギンの餌資源となっていることを、映像に基づいて初めて示しました。

これまで、翼足類が南極の大型海洋動物の餌となる可能性は指摘されてきましたが、実際の捕食行動は確認されていませんでした。その背景には、有殻翼足類の殻が薄く壊れやすく、消化後に痕跡が残りにくいため、動物の吐き戻し内容物の分析など従来の方法では検出が難しかったことがあると考えられます。本研究は、動物装着型ビデオカメラを用いることで、従来の手法では捉えにくかった南極海生態系における生きもの同士のつながりを明らかにしました。

今後の展望

今回の観察は単年かつ単一の調査地で得られた結果であり、このペンギンと翼足類の間の「食う・食われる」の関係が南極海全体の食物網に広く見られるのか、それとも一時的な現象なのかを判断するには、今後、複数の調査地や複数年にわたる継続的な調査が必要です。動物に装着したビデオカメラによる観測は、従来の方法では把握が難しかった生きもの同士のつながりを明らかにする手法として期待されます。こうした基礎的な知見を積み重ねることが、将来の南極海生態系の変化を理解するうえで重要になると考えられます。

発表論文

掲載誌:Marine Biology
タイトル :Video evidence of pteropod predation highlights diet flexibility in Adélie penguins
著者 :
 渡邊日向(国立極地研究所 先端研究推進系 生物圏研究グループ 特任研究員)
 加藤明子(フランス シゼ生物学研究所)
 Léo Marcouillier(フランス ウベールキュリアン学際研究所)
 Thierry Raclot(フランス ウベールキュリアン学際研究所)
 Frédéric Angelier(フランス シゼ生物学研究所)
 Yan Ropert-Coudert(フランス シゼ生物学研究所)
 高橋晃周(国立極地研究所 先端研究推進系 生物圏研究グループ 教授)
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00227-026-04827-4
DOI:10.1007/s00227-026-04827-4
論文公開日: 2026年3月16日

研究サポート

本研究は南極地域観測事業(KP309)、JSPS科研費(国際先導研究JP22K21355、研究活動スタート支援JP24K23932)、フランス極地研究所、WWW-UKの助成を受けて実施されました。

注1:翼足類は浮遊性の軟体動物で、翼足と呼ばれる翼のような器官を使って漂うように泳ぐ。透明の殻をもつ「有殻翼足類」と、ハダカカメガイ(いわゆるクリオネ)に代表される殻をもたない「裸殻翼足類」に分けられる。本研究で記録されたClio pyramidata(ウキビシガイ)とLimacina rangiiの両種は有殻翼足類である。

図1: 背中にビデオカメラ( 上)とGPS(下)、頭に小型加速度計を装着したアデリーペンギン。

図1:背中にビデオカメラ( 上)とGPS(下)、頭に小型加速度計を装着したアデリーペンギン。

動画1: アデリーペンギンの背中に装着したビデオカメラによって撮影された、有殻翼足類Limacina Rangiを捕食する様子。手前に映っているのが小型加速度計を装着したアデリーペンギンの頭。

問い合わせ先

研究内容について

国立極地研究所 生物圏研究グループ 渡邊日向
E-mail:watanabe.hina@nipr.ac.jp

国立極地研究所 生物圏研究グループ 高橋晃周
E-mail:atak@nipr.ac.jp

報道について

国立極地研究所 広報室
Tel:042-512-0655 E-mail:koho@nipr.ac.jp