乗りこなせていないから、乗り続ける
第2回目に記した通り、当企画に協力してくれたバイクショップAndyの安藤さんは、16歳のときに入手したCB250RS-Zを約45年に渡って愛用している。
そして見方によっては誠に失礼な質問になるものの、僕は安藤さんがこのバイクに乗り続ける理由を知りたかった。
白/赤カラーが目を引く安藤さんのCB250RS-Zは、1981年に販売された特別仕様車がベース。なお安藤さんが過去に手がけた過給機装着車は、以下のアドレスを参照のこと。https://www.youtube.com/@2375cando
と言うのも、若き日の安藤さんは全日本選手権GP125クラスに参戦していたし(1989年に国際A級ライセンスを取得)、過去には並列4気筒エンジンのリッターネイキッドや750ccスーパースポーツを所有していたこともあるのだ。そんなライダーがどうして、4スト250cc単気筒ロードスポーツにこだわっているのだろうか。
当記事に協力してくれたバイクショップAndyの安藤 聡さんは、1965年2月生まれの61歳。近所の空き地や川原でミニトレを走らせていた15歳の頃を含めて考えると、46年に渡ってバイクのある生活を続けている。
「親父に買ってもらった大切な宝物だから、という事情もありますが、一番の理由は乗りこなせていないからです。それは電子制御式インジェクションとターボを導入して、最高出力が45psに向上する以前からの話で、若い頃も61歳になった現在も、私はこのバイクの潜在能力をきっちり引き出せたとは思っていないんです」
1981年にデビューしたCB250RS-Zは、前年に登場したCB250RSの上級仕様。最高出力は26ps/8500rpm、最大トルクは2.3kg-m/7000rpmで、乾燥重量は129kg。
その言葉を聞いた僕は思わず、ドキッ‼としてしまったものの、改めて考えると250cc以上のバイクのオーナーで、愛車の潜在能力をきっちり引き出せているライダーは、世の中にはほとんど存在しないのかもしれない。
「バイクの楽しみ方は人それぞれですから、大排気量車ならではの重厚なトルクや扱い切れないほどのハイパワーに、異論を述べるつもりはありません。でも私の場合は、ほどほどのパワーと車体の軽さ、いじりやすさが重要で、そういう視点で考えると、CB250RS-Zから他機種に乗り換える理由が見つからなかったんですよ」
CB250RSを入手した経緯と以後の進化
さて、冒頭からいきなり核心的な話を記してしまったけれど、以下の文章では安藤さんがCB250RS-Zを選択した経緯と、入手後の進化の過程を順を追って紹介したい。
1981年に出かけたツーリング先で撮影した、安藤さんとほぼ新車のCB250RS-Z。
「初めて公道を走るバイクとしてRS-Zを選んだ理由は、1980年代初頭の2輪業界の流れとして、これからは4ストローク?という雰囲気があったから……でしょうか。
と言っても私は中型二輪免許を取得する以前から、近所の空き地や川原で2スト単気筒のミニトレ、ヤマハGT50を走らせていたので、当初はDT250やRZ250も検討したのですが、峠道が楽しそうな4ストという視点で考えると、RS-Zが最も魅力的と思えたんです」
安藤さんの人生初の愛車は、ヤマハのミニトレGT50。
ただし、16歳の安藤さんは速度違反を繰り返し、わずか1年で免許を失ってしまう。そんな状況で注目したのがミニバイクレースで、まずはミニトレ、後にGR50に乗り換えて、ライディングとチューニングのスキル向上に没頭。中型二輪免許は18歳のときに再取得し、以後は再びCB250RS-Zであちこちに出かけたそうだ。
1970年代中盤~1980年代の無限は、モトクロッサーのCR125/250R用チューニングパーツとなるMEキットや、完成車のME125/250を発売していた。写真は1980年のモトクロス世界選手権アメリカGPで、ジョニー・オマラが優勝を飾ったME125W1。
「あの頃は寝ても覚めてもバイクのことしか考えていなかったので、高校卒業後は無限(現在はM-TEC)に入社して、エンジンチューニングに関するいろいろな勉強させてもらいました。もちろん、当時の無限が販売していたCB250RS/Z用の300ccボアアップキットは組み込みましたよ。
とはいえ、私の中ではライダーとして成長したい気持ちもあったので、1986年に無限を退社して、全日本選手権への参戦を開始したんです」
レーシングスーツ姿の安藤さんが腰かける市販レーサーのホンダRS125Rは、シリーズ初のアルミツインスパーフレームを採用した1987年型NF4。
そして以後の約7年間、CB250RS-Zは休眠することになったものの、全日本選手権参戦を終えた1990年代中盤に復活。当時の安藤さんが驚いたのは、タイヤの状況がかつてとはガラリと変わっていることだった。
最新のラジアルタイヤが履けることを念頭に置いて、高砂エキセルに特注したアルミリムのサイズは、フロント:2.50×17・リア:3.25×17。
「16~18インチにさまざまな選択肢が存在した1980年代中盤とは異なり、1990年代中盤のスポーツバイク用タイヤは前後17インチが主力になっていて、RS-Zに適合する細身の前後18インチは激減していたんです。
これは何とかしなくてはと考えて、ホイールのリムとスポークを特注品の前後17インチに変更し、車体姿勢の調整用として、オフセットがCB250RS-Zより15mmほど少ないCBR250R用ステムと、フルアジャスタブル式のオーリンズ製リアショックを導入しました」
インジェクションとターボを導入

安藤さんがここまでに行ったチューニングは、一般的と言って差し支えないものだと思う。ただし2000年代に入ってから着手した気化器のキャブレター→インジェクション化とターボチャージャーの導入は、2輪の世界では、中でも250ccクラスでは、相当に異質だろう。
CB250RS-Zのパワーユニットの透視図。1980年代からインジェクションが一般的になった4輪とは異なり、2輪の気化器は2000年頃までキャブレターが主役だった。
「2輪の気化器の変化が急激に進んだのは2000年代前半で、今後のバイクライフを考えると、今の時点で電子制御式インジェクションを勉強しておかなきゃならないだろうと思ったんです。
もっともそれ以前の話として、過去に本気でレースをやっていたからでしょうか、私の中には常に最先端技術を理解しておきたい気持ちがあるんですけどね。でも作業にかかる膨大な手間暇を考えると、2000年代前半の自分の年齢が50代以上だったら、キャブレター派を貫いたかもしれません」
電子制御式インジェクション関連パーツはFCデザイン製。ノーマルの倍のサイズとなる、φ60mmのスロットルボディはスズキ用。
安藤さんが気化器の刷新に使用したのは、当時のFCデザインが販売していたキャブレター→インジェクション変換キットである。そして説明書を入念に読み込んだ安藤さんは、“過給機に対応”という文字を発見。
「ターボブームの1980年代に多感な青春時代を過ごした身としては、過給機という文字に心が躍りました(笑)。と言っても過給機にまで手を伸ばしたのは、インジェクションの基本を理解して、セッティングがある程度決まってからですし、FCデザインのキットにはタービン/コンプレッサーや補器類は含まれていませんから、ターボを装着してまともに走れるようになるまでには、数限りないトライ&エラーを繰り返すことになりました」
排気ポートの直後に設置したコンプレッサーとタービンは、660ccの軽自動車用がベース。当初は“250cc単気筒でまともに回るのか?”という心配をしていたものの、その点についてはまったく問題がなかったそうだ。
ちなみに、旧車好きの中にはインジェクションに抵抗を示す人が存在するけれど、安藤さんにそういう意識は微塵もなく、むしろ気化器を刷新してからは、インジェクションならではの美点に感心してばかりだと言う。
「インジェクションの最大の美点は、緻密な燃料噴射ができることです。ターボとスーパーチャージャーに精通した人には何を今さらかもしれませんが、自然吸気と比べると空燃比が相当にシビアな過給機装着車には、燃料の吐出が良くも悪くもアバウトなキャブレターは向いていない……と思いました。
ただし、私は必ずしもインジェクション信者ではなくて、キャブレターならではの味には、やっぱり捨て難いものがあると思います」
最高の素材にして相棒
メーターを交換しているので正確な数字は不明だが、現在までの走行距離は余裕で10万kmオーバー。とはいえ、エンジン腰下は一度も開けていないと言う。
最後はちょっとベタな質問を。CB250RS-Zは、安藤さんにとってどんなバイクなのだろうか。
「最高の素材にして相棒です。と言うのも、このバイクは整備性が非常に良好で、いじったらいじったぶんの答えを返してくれますし、エンジンは抜群の耐久性を備えているんです。今どきのバイクで過給圧を1.0bar前後かけたら即座にブローしますけど、RS-Zはそのくらいの数値なら余裕ですからね。
逆に言うなら、基礎体力が高いCB250RS-Zに16歳で出会えたからこそ、これまでの私は充実したバイクライフを過ごせたんでしょう」
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