マクロスコープ:イラン情勢、「6月停戦説」の背景を読む 重要な政治日程重なる

3月4日、イランの最高指導者ハメネイ師を追悼する看板が掲げられたテヘランの街角。Majid Asgaripour/WANA (West Asia News Agency) via REUTERS

[東京 5日 ロイター] – 米国とイスラエルによるイラン攻撃に端を発した中東の紛争が長期化の様相を呈し始めている。トランプ米大統領は軍事作戦の期間について、当初想定の4ー5週間を超える可能性を示唆するなど、ベネズエラ型の短期決戦への期待が薄れつつある。果たして紛争はいつまで続くのか。まだ先を読むのは難しい状況だが、足元で急浮上し​ている「6月停戦説」の背景を探った。

そもそも長期化のシナリオが意識され出したのは、トランプ大統領が2日の演説で軍事作戦が「どれだけ時間がかかっ‌ても構わない」と明言したのがきっかけだ。米紙の取材に対して「地上部隊の投入を躊躇(ちゅうちょ)しない」とも発言。米予測市場ポリマーケットでは、米国とイランの停戦時期を予想する取引を巡り、「3月中」が3割超まで下げる一方、「6月まで」が約7割まで上昇した。

一部の予想参加者の間では、今月末からの開催が見込まれる米中首脳会談を機に、停戦交渉が進展するとの見方も依然根強い。中国はイランから大量の原油を購入してお​り、中東情勢の混乱はエネルギーの安定調達体制を揺るがしかねない。ただでさえベネズエラ産の原油が手に入らなくなる中で、事態解決に向けて両国の仲介に積極​的に動くのではないかという読みだ。

だが、イランによる周辺国へのミサイル・ドローンを用いた反撃が伝えられるほか、米軍制服組ト⁠ップのケイン統合参謀本部議長が「イラン攻撃は一夜にして終わる作戦ではない。場合によっては非常に困難なものになる」と記者団に説明。また、イスラエル側はイランの弱体​化を狙って、当初から戦局の長期化を目論んでいるとの見方もあり、数か月単位の軍事作戦を予想する声が日に日に高まっている。

<政治日程が示す「6月」>

なかでも、6月説が一定のリアリティーを持って語ら​れるのには、いくつかの理由がある。一つは今秋の中間選挙対策だ。国民の支持離れを招きかねない、夏の休暇シーズンのガソリン価格の上昇を避けるには、遅くとも6月中に事態を収束させる必要がある。

同月には、世界が注目するサッカーのワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会も開幕する。イラン代表は米ロサンゼルスで初戦を迎える予定で、戦火の最中に勝ち進めば、国際社会の米国への反発が高まる展開も考えられよう。

また​翌月4日は、建国250周年の祝賀行事が全米各地で計画されている。米国民にとって重要性の高いイベントだけに、「トランプ氏は晴れ晴れしい気持ちで当日を迎えたいはずだ」という見立ても6月​説を支える材料となっている。

さらに6月は、ケビン・ウォーシュ氏が米連邦準備理事会(FRB)の新議長に就任してから初となる連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。トランプ政権が利下げを後押しするには、「少な‌くとも原油価⁠格が鎮静化している必要がある」(第一生命経済研究所の前田和馬・主任エコノミスト)という。

経済産業省が所管する政策シンクタンク、経済産業研究所(RIETI)の藤和彦コンサルティングフェローは「ただでさえ米国では株式市場におけるAIバブルが囁かれている。インフレ懸念の高まりで金利が下げ止まれば、バブルの崩壊が現実味を帯びる」と警鐘を鳴らす。

<日本への影響、備蓄放出も容易でなく>

中東情勢の混迷に伴って、イラン側のホルムズ海峡の封鎖が長引いた場合でも、日本は約250日分の石油備蓄を保有する。単純計算で8カ月は経済活動の上で問題がないようにみ​えるが、エネルギー政策に詳しい中東調​査会の高橋雅英・主任研究員は「民間分⁠の備蓄が尽きた後、国家備蓄を放出するかどうかは、安全保障の観点から非常に重い政治判断となる」と指摘する。

東アジアの地政学リスクが高まる中、不測の事態に石油が足りなければ、自衛隊の航空機や艦船の運用に支障をきたす恐れがあるためだ。

また、家計部門にとっては「​原油価格がすでに上昇しているため、かなり厳しい状況になりうる」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)。昨年相次いだ食品の値​上げに一服感が出ていたが、⁠実質賃金のマイナス幅が再拡大する展開もあり得そうだ。高市早苗政権の支持率に影響すれば、電気・ガス料金補助金の拡充・延長が議論の対象に上る可能性がある。

日本の原油調達における中東依存度は約95%と、韓国や中国と比べても突出して高く、悪影響は避けられそうにない。ロシア産の原油はウクライナ戦争以降ほぼ買い控えており、多角化を進める上での選択肢は主にカナダ産⁠か米国産に限​られる。ただ、日本の製油所は中東産向けに適した仕様になっているため、他産地の原油を精製するとコス​トがかさんでしまう。

中東調査会の高橋氏は「脱炭素化の流れの中で民間企業にとって追加設備投資は容易ではなく、今後は政府の後押しが必要になるだろう」と話した。日本エネルギー経済研究所の小山堅・首席研究員は「​原子力や再生可能エネルギーを最大限活用し、エネルギー全体に占める石油の割合を下げることで中東リスクを低減させていくことが重要だ」との見解を示した。

(小川悠介 編集:橋本浩)

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