既報の通り、関東の鉄道事業者11社局は今年2026年3月25日からクレジットカード等の“タッチ決済”による後払い乗車サービスの相互利用を開始する。
本稿執筆時点で開始まで約1ヶ月となったが、同サービスの利用にあたって注意点等を参加事業者らに確認したので、項目ごとにまとめていく。
未参加の鉄道事業者と未対応駅を利用する場合の注意
サービス開始の3月25日時点で利用可能な鉄道事業者と駅は下表の通り。東京都に直接乗り入れている路線としては、京成電鉄(および北総鉄道)、JR東日本(および東京モノレール)、東京臨海高速鉄道(りんかい線)、埼玉高速鉄道らが同日時点で未対応となっている。
もし、対応駅で“タッチ決済”により乗車し、未対応の駅や鉄道路線の駅で出場する場合、有人窓口で“基本的には”現金または交通系ICカードで精算することになる。精算金額の算出基準は、相互直通運転が行われている路線の“境界駅”が基準となる。
例えば東京メトロの千代田線で綾瀬駅を越えてJR東日本の常磐線へと入った場合、松戸や柏などの駅で出場する際には綾瀬駅以降の運賃を“10円単位”で精算する形になる。
ただし、この状態ではクレジットカード等で入場した記録が運賃処理のサーバ内に残っているため、別途対応鉄道事業者(東京メトロ等)の対応駅で入場記録の処理と、前回入場した際の乗車駅から接続駅までの“クレジットカード決済以外”での精算処理が必要になるので注意だ。
そのため、相互直通を行っている電車で未対応の路線に乗り入れることがあらかじめ分かっている場合、手間を防ぐために交通系ICカードの利用をお勧めする。
なお、東京メトロの路線で中野駅のみ「入場不可」となっているが、これについて東京メトロ広報は下記のように説明している。
「中野駅については、改札内でJR線と東京メトロ線がつながっているため、後払い乗車サービスでの入場を認めると誤ってJR線に乗車してしまう可能性があります。JR各線へクレジットカード等のタッチ決済で誤って乗車してしまうことを防ぐため、東京メトロとJR東日本の両社で協議をし、乗車については対象外としました。
なお、導入事業者の駅からすでにクレジットカード等のタッチ決済で乗車しているお客様に対しては、ご不便をお掛けしないよう中野駅で降車できることとしました。この場合、改札窓口でクレジットカード等への処理を行います」(東京メトロ広報)
このように、改札処理を改札機ではなく有人窓口で行うケースがあるので、出場時に困った際には窓口に相談してみるといいだろう。また、改札機ではなく窓口に直接“タッチ決済”用の端末が用意されているケースもある。
割引や改札外乗り換えサービスの注意点
東京メトロや都営地下鉄では駅の構造上、改札外で乗り換えを行う場所がいくつか存在する。磁気切符の場合はオレンジ色の改札機に切符を通し、交通系ICカードであればそのまま改札機に“タッチ”して出場し、後は切符または交通系ICカードで目的の改札から入場すればいい。
現時点では改札外乗り換えは60分間の猶予時間があり、この間に出場から入場を行えば追加の運賃が発生しない。これは“タッチ決済”も同様で、出場から入場までを60分間以内に行えば追加の運賃はない。
このほか、東京メトロと都営地下鉄の間で“乗り継ぎはしないが別の会社の改札から出場する”という「のりかえ専用改札」という特例措置がある。写真は人形町駅の例だが、水天宮前駅方面の出口と人形町交差点側の出口が離れており、それぞれが東京メトロ日比谷線と都営浅草線に紐付いている。
利用鉄道事業者によって遠回りを強いられるケースがあり、利便性を鑑みて「同じ駅で“タッチ”して出場すれば追加の運賃を請求しない」という無料通過サービスが提供される。これは“タッチ決済”でも利用可能であり、交通系ICカードと同じ感覚で使えるようになっている。
また、東京メトロと都営地下鉄で乗り継ぎを行った場合に70円を割り引くサービスがあり、交通系ICカードを利用していた場合に自動的に減額処理が行われているが、これは“タッチ決済”でも有効だ。
これら割引や乗り換えに関する注意点として、必ず同一の(クレジット)カードを利用することがある。当たり前のことではあるが、入場時と出場時を含め、すべての処理は特定のカードを対象に行われるため、途中でカードを変更した場合には無効になる。
特に複数枚カードを所持していたり、モバイルウォレット内でカードの切り替えが容易なApple PayやGoogle Payなどを利用している場合には注意してほしい。
他の乗車券(1日乗車券など)との組み合わせはできない
3月25日からの“タッチ決済”による後払い乗車サービスの相互利用は、逐次利用での運賃払いを行う「PAYG(Pay As You Go)」と呼ばれる方式を採用している。
利用ごとに運賃が請求されるシステムだが、世界に先駆けて“タッチ決済”による乗車サービスを採用した英国ロンドンのTfL(Transport for London)では1日あたりの利用金額が一定基準に達すると、以後はその日に限りそれ以上の料金を請求しない“料金キャップ”の仕組みを取り入れている。
料金キャップには1日上限のほか、週間上限があり、こうした制度は後に同様のシステムを導入した米ニューヨークのOMNYも採用している。
毎回運賃を交通系ICカードから差し引くのではなく、1日単位の集計で後から運賃を請求する後払い乗車サービスならではの仕組みといえるが、これは実質的に「1日乗車券」や「週間定期券」のような役割を果たしており、別途これら“企画券”を販売するよりも、システム的に割引運賃を組み込んでしまった方が手間いらずという考えからきたものだ。
だが今回の相互利用サービスで11社局の代表社として回答した東京メトロによれば、クレジットカード等を使った定期券や企画券の販売計画は現時点で未定だという。同様に、小児運賃や通学定期券のような年齢別の割引サービスも現時点での提供計画は未定だ。
東京メトロでは1日乗車券(24時間券)を現在販売しているが、これに該当する「東京メトロ24時間券(クレジットカードタッチ)」と呼ばれるサービスは相互利用サービスが開始される前の2月23日をもって販売を終了する予定だ(サービス終了は2月末)。
複数の鉄道会社をまたぐ企画乗車券を含め、これらサービスの提供について同社では次のように説明している。
「関東特有の入り組んだ路線網においては、定期券や企画券などが有効な区間と、それ以外の区間を連続して乗車するためには、複雑な運賃計算が必要となることから、現状のシステムでは対応しておりませんが、お客様のご利用状況やご要望等をお伺いしながら、引き続き、サービス向上を検討してまいります」(東京メトロ広報)
東京メトロの1日乗車券を含め、QRコード等による乗車サービスは引き続き提供されているが、現時点で“タッチ決済”による後払い乗車サービスとの併用はできない。これら企画券と“タッチ決済”を組み合わせる場合、いちど対象区間の境界駅で改札を出てから、再度利用したい乗車方法で入場する必要がある。
“タッチ決済”の乗車サービスはSuica・PASMOの代替ではない
このように関東エリアの鉄道会社が相互乗り入れを前提に“タッチ決済”の乗車サービスを開始することで利便性は向上するものの、定期券をはじめ、SuicaやPASMOが現在提供しているサービスをそのまま代替するには至っていない。
交通系ICカードでは1円単位で提供される運賃が、“タッチ決済”では10円単位で“丸めた”数字で運賃請求が行われており、事業者側としてもこの運賃体系を交通系ICと同等にする計画はないとのことで、両者には明確な線引きが行われている。
“タッチ決済”の乗車サービスで根幹となるシステム「stera transit」を提供する三井住友カードでは「われわれは交通系ICカードの置き換えを意図していない」と毎回説明しているが、今回相互乗り入れサービスを提供する鉄道会社も同じ認識のようだ。
関東では他社に先駆けて相互乗り入れサービスを提供した京浜急行電鉄では、都営浅草線と相互直通運転を行って羽田空港の輸送需要を担っているが、実際の利用状況について次のようにコメントしている。
「当社は羽田空港へのアクセスを担う交通事業者として、インバウンドを含むお客さまの利便性向上を目的に、2024年12月21日より一部の駅において、クレジットカード等のタッチ決済による乗車サービスを開始しております。
もっとも、当社ではクレジットカード等のタッチ決済をIC乗車券の代替手段とは位置付けておらず、全体に占める利用割合も現時点ではごくわずかとなっております(具体的な数値につきましては非公表のため、ご容赦ください)。
一方、2025年12月23日からは京急線全駅で本サービスをご利用いただけるようになり、利用者数は着実に増加しております。さらに、2026年3月に予定されている相互利用の開始により、今後一層の利用拡大を期待しております。
当社といたしましては、引き続きIC乗車券を主軸としつつ、今後も多様化するお客さまのニーズに応じた利便性向上に取り組んでまいります」(京浜急行電鉄広報)
現在は認知も含めまだまだ利用は少ないようだが、今回相互乗り入れを行ったことでサービスの利用範囲が拡大し、結果として利用者増につながるのではないかとの期待があるようだ。
インバウンドの利用客のみならず、関東圏を含む日本国内でも普段から交通系ICカードをあまり利用しないという層は一定数おり、そうした需要を少しずつ取り込んで、さまざまなニーズに応えることが狙いにある。
現状はまだ最低限のサービスに留まっているが、“タッチ決済”による乗車サービスの最大のメリットは後払いの特性を活かしたさまざまな割引サービスにある。これを機会にぜひ活用していただき、鉄道事業者が新たなサービス導入に向かう機運を高めたいところだ。
