(CNN) ニキ・ゴフラニアンさんは、ダンスタフネージ城の石壁の上から周囲を見渡した。ひょっとすると出口が見つかりはしないかと期待しながら。

壁から真下の芝生までは約18メートルの高さがあり、飛び降りるのは賢明ではない。恐らく命を落とすだろう。

遠くに見えるのは丘と入り江、複数の島。近くに目を移せば森に草地、水の流れ。人の姿はどこにもない。

眺めは文句なしに美しい。息をのむほど完璧なスコットランドの風景は、米国人旅行者のニキさんが常々目にしたいと願ってきたものだ。

「閉じ込められる場所としては、まだましな方」。そう思った。

城に入場できる時間は過ぎており、14世紀に作られた城門には南京錠が掛けられていた。ニキさんと姉のリッタ・ニールセンさんは、スコットランドの城の中で立ち往生する羽目になった。

スコットランド西部にあるダンスタフネージ城(Getty Images)

忘れられない旅

それは2019年6月5日のことだった。ニキさんとリッタさんはそれぞれ55歳、66歳の誕生日を祝う特別な休暇を過ごしていた。ぞろ目の年齢には、祝福するだけの価値があるように思えた。

「私たちは『よし、何か豪華なことをしよう』と考えた」。ニキさんは今月、CNN Travelの取材に答えてそう話した。

二人は英国北部のスコットランドに行ってみたいといつも思っていた。

「母方からスコットランド人の血を引いている」と、ニキさんは説明する。

緩やかな丘陵地帯や印象的な湖、堂々たる山々は、二人が目にしたいと夢に描いていた景色だ。そしてもちろん、スコットランドの古城の数々も。

ニキ・ゴフラニアンさん(左)と姉のリッタ・ニールセンさんは2019年、休暇でスコットランドを訪れた/Courtesy Niki Lee Ghofranian
ニキ・ゴフラニアンさん(左)と姉のリッタ・ニールセンさんは2019年、休暇でスコットランドを訪れた/Courtesy Niki Lee Ghofranian

スコットランド西部のオーバンに到着した二人は、ダンスタフネージ城の探索に胸を躍らせていた。城の一部は13世紀に起源を有する。かつてマクドゥーガル一族の拠点だったこの城は、スコットランド王ロバート・ブルース(ロバート1世)が1308年に奪取した。18世紀には若きスコットランド人女性のフローラ・マクドナルドが、「ボニー・プリンス・チャーリー」ことチャールズ・エドワード・ステュアートの脱出を助けたとして、同城で拘束された。チャールズ・エドワード・ステュアートは、ステュアート朝の継承者としてイングランド・スコットランドの王位奪還を目指した人物。

現在、城は堅固な石壁と荒廃した小塔を擁し、入り江を背景に威容を誇っている。一部区域を除き、城の大半は風雨に直接さらされる状態にある。

「そこは美しい廃墟だった」と、ニキさん。

「近づくと、城は巨大な岩山の上に鎮座しており、とても威圧的に映った」(リッタさん)

姉妹がタクシーで現場に着いたのは午後3時前後で、予定よりも遅かった。ただスコットランドの夏は日が長いことで知られる。二人には昼間の時間がまだしばらく続くように思われた。

少しの間城の外に立ちつくし、入り江を見下ろすその姿に見とれた後、二人は入場券を買いにビジターセンターに向かった。

「そこは城そのものから150メートルほど離れていた」と、ニキさんは振り返る。「中に入ると、女性が城について説明してくれた。彼女は料金を受け取り、『6時に閉めます』と言った」

そのときは4時くらいで、時間はたっぷりあった。

「米国では施設を閉めるとき、今から閉めると声を掛けてくれる。ただ黙って閉めるということはない」(ニキさん)

城の敷地内に入ったニキさんとリッタさんは、その場の空気に圧倒された。至る所に歴史の重みがにじみ出ていた。

「ニキはiPhoneを手にして、狭間胸壁を闊歩(かっぽ)した。画像を投稿しながら、これまで読んだ歴史に思いを馳(は)せていた。一方の私は、城の隅々を調べて回った」とリッタさん。建築の構造に大変な感銘を受けたという。

時の流れが止まったようだった。ダンスタフネージ城は事実上、姉妹の貸し切り状態と言ってよかった。

しばらくして、二人は別行動を取った。リッタさんが外観の写真を撮ろうと城壁の外へ向かう中、ニキさんは城壁に上がる。城壁に立ったニキさんは入り江や丘の景色にうっとりと見入った。周囲には誰もいない。聞こえるのは風の音と、入り江に流れ込む水の音だけだ。

「とても平穏で、美しかった」(ニキさん)

ニキさんは大きく息を吐きながら、心の安らぎを味わった。そのとき、静寂が破られた。

「突然、リッタがこちらに向かって叫ぶのが聞こえた」

「大失敗をしでかす」

これより前、リッタさんは城の入り口へ歩いて行き、巨大な扉が開いているかどうか試してみた。扉は閉じていた。

ただ閉じていただけではない。「鍵が掛かっていた。かんぬきを使った見事な方式で」

姉妹は閉じ込められた。

極めて頑丈なかんぬきと錠前を見て、パニック状態に陥るリッタさん。

「二人が大失敗をしでかしたのは明らかだった」

リッタさんは門楼(ゲートハウス)を後にして、妹を探した。城壁の上にその姿を見つけた。

最初のうち、ニキさんはリッタさんが何を言っているのかよく聞こえなかった。

「何て?」。下に向かって叫ぶニキさん。

「閉じ込められた!」と、リッタさんが叫んだ。

「何を言っているの?」と、ニキさんが叫び返す。

姉は冗談を言っている。そう思った。

「本当に。私たち閉じ込められた! 扉が閉まっている」。リッタさんが叫ぶ。

姉がパニックになっているのがその声で分かったものの、ニキさんは思い違いだろうと考えた。

それでも城壁から下りて確認してみると、実際に扉は閉まっていた。

ニキさんは信じられない気持ちで姉を見つめた。

扉を閉めるアナウンスは一切なかった。少なくとも姉妹は全く気付かなかった。二人は笑い出した。緊張感を帯びた、疑わしげな笑いだった。