かつて日本のゲームは、世界のゲーム産業の中心だった。今日の世界市場では欧米や中国のゲームの存在感が大きいが、近年、小島秀夫の『DEATH STRANDING』をはじめ日本発ゲームの独自性が改めて注目を集めている。転換期にある日本と世界のゲーム産業を展望する。

ゲーム産業の成熟と不安定化が同時進行

1980年代~90年代、ファミコンをはじめとする日本のゲームは世界市場で圧倒的な存在感を誇っていたが、2000年代以降その勢いは失われた。今日、約3兆円の国内市場を有するが、海外展開では劣勢と言わざるを得ない。しかし、近年、日本発ゲームの独自性が改めて注目され、国際的に再評価の兆しが見える。詳しく見ていこう。

ゲームは世界的に巨大な成長産業だといえる。調査会社Newzooによれば、2025年の世界ゲーム市場は1970億ドル(約31兆円)に達する見通しだ。もはやサブカルチャーではなく、主流な文化になりつつある。

その一方で、ここ数年、欧米の大手企業を中心にリストラや雇用調整が相次いでいる。背景には、コロナ禍の巣ごもり需要から人員規模を拡大したものの、収束後に需要ペースが平常化し、構造改革が避けられなくなった事情がある。また、AAAタイトル(大作ゲーム)の制作費が高騰し、開発期間も長期化した結果、成功と失敗の二極化が拡大している。開発費600億円とも言われる『グランド・セフト・オートⅥ』のように、世界中で注目されるタイトルがある一方、短期間でサービス終了に至る作品も現れる。つまり、産業としては成熟と不安定化が同時に進む、転換期にある。

世界市場は欧米、中国がけん引

世界のゲーム市場31兆円の約5割はモバイルゲーム、3割家庭用ゲーム、2割PCゲームである。このうちモバイルゲームではテンセントやNetEaseなど、中国勢が存在感を示す。アニメ調のビジュアル表現や多くの資金・人員を投入した開発体制を武器に、グローバル同時展開を前提としたタイトルを送り出しており、『原神』(上海のmiHoYo社開発)はその好例である。カジュアルゲームでは『キャンディクラッシュ』シリーズをはじめ、欧米企業の存在感が大きい。

PCゲームと(コンテンツを継続的に配信する)ライブサービス型ゲームでは、欧米勢が圧倒的である。『Apex Legends』や『VALORANT』に象徴されるeスポーツ対応タイトルは、継続運営と競技性を軸に新しいゲーム文化を形成してきた。『Minecraft』などの(広大な世界でユーザーが自由に遊び冒険できる)サンドボックス型ゲームも、AI時代に対応するためのSTEAM教育(文系・理系の枠を超えた学際的な学び)の広がりを背景にゲームクリエイターの裾野を広げている。

一方日本ではeスポーツが着実に定着しつつあるものの、海外タイトルがその担い手となっている。子ども対象のプログラミング塾は『Minecraft』の独壇場だ。

家庭用ゲーム機市場にも、構造的な変化が起きている。プレイステーションは日本発のハードとして成長してきたが、PS5の発売前後で開発体制が米国主導になり、「日本国内で思想形成された国産ゲーム機」とは言い難い。かつて日本のお家芸だった「国産コンソール」は、事実上、任天堂に一本化されている。

小島秀夫に見る作家性

こうした市場構造の変化の中で、改めて注目されているのが日本発ゲームの独自性である。象徴とも言えるのが、『DEATH STRANDING』(2019年)だ。小島秀夫が手掛けた同作品は、荒廃した世界で孤独な配達人として各地へ物資を運び、人と人との関係を取り戻していくストーリーを軸としている。プレイヤーは敵と戦うよりも、山野を越え、川を渡りながら荷物を運ぶ「移動体験」に多くの時間を費やす。そこで重要になるのは、オンラインでつながった他のプレイヤーが、世界に残した建造物やアイテムだ。直接言葉を交わさずとも、お互いが助け合う設計になっているのだ。

このように小島はゲーム体験を通じて、現代社会に深く刻まれた「分断」と「つながり」を主題として提示した。とりわけコロナ禍で人々が物理的距離と心理的孤立を同時に経験したことにより、作品のテーマが強い説得力を持ったのだ。2025年発売の「DS2」では、「人がつながりすぎるのは良いことなのか」という問いを投げ掛けている。本シリーズは、ゲームというメディアが単なる娯楽にとどまらず、時代の不安や希望を投影する文化的装置になり得ることを示している。

世界ゲーム市場の柱であるモバイルゲームやライブサービス型ゲームに、過度な作家性は不要だ。しかし、文化的影響力から見れば、強い思想性や個性を備えた作品の存在は大きい。これはゲームというメディアが、文化的成熟段階へと歩みを進めつつあることの一つの証しだと言える。

斬新なインディーズゲームの台頭

少人数・小資本のインディーズゲームの台頭も、日本発ゲームを語る上で欠かせない。映画化され、北米配給も決まっている『8番出口』は、同じ地下通路を何度も歩きながら、そこに潜む小さな「違和感」を探すという、ごくシンプルな仕組みのゲームである。しかし、その中で描かれるのは、世界が少しだけゆがんだときに生まれる不穏さであり、『リング』『らせん』に見られるジャパニーズホラー文化にも通じる感性を備えている。過剰な演出ではなく、日常の延長線上にある異界性を題材とした静かな恐怖の美学が、文化を越えて共有され始めている。

こうした現象の背景には、ストリーマー(※1)文化やSNSの普及により、ゲームが「遊ぶもの」であるだけでなく、「見るもの」「語られるもの」として流通するようになった変化がある。少人数制作の作品であっても、コンセプトの鮮烈さと感性の力によって、国境を越えて広がることが可能になった。だからこそ、日本発ゲームのユニークさに注目が集まってきたのだ。さらにその外側には、訪日外国人の増加と、SNSを介した日本文化への関心の高まりという社会的な変化もあるだろう。

ゲーム文化の多様性に貢献

改めて、日本発ゲームの特徴とは何か。第一は、マンガやアニメ文化と強く結び付いたキャラクター表現だ。キャラクターは単なる記号や駒ではなく、人格や物語を背負った存在として受け止められる。プレイヤーはキャラクターとの関係性を体験し、感情を共有する。第二に、作品としての完成度を徹底的に磨き上げる職人気質が挙げられる。これらは商業的成功のための手法というより、文化として長年育まれてきた創作姿勢である。

加えて日本発ゲームの文化を象徴する要素に、「クリエイターのブランド化」がある。先に触れた小島秀夫の他、『スーパーマリオ』の宮本茂、『ダークソウル』の宮崎英高、『大乱闘スマッシュブラザーズ』の桜井政博など、クリエイターの名前がゲームタイトルとともに語られる。もちろん、全ての日本のゲームが作家主義で成立しているわけではない。それでも、作品の背後に思想や人格が感じられるという文化的イメージは、日本発ゲームの評価を支える一因となっている。

フランス最大のゲームショウ「パリ・ゲームズ・ウィーク」で任天堂の『マリオカート』をプレイする人たち(2025年10月/AFP=時事)
フランス最大のゲームショウ「パリ・ゲームズ・ウィーク」で任天堂の『マリオカート』をプレイする人たち(2025年10月/AFP=時事)

任天堂の存在も大きい。同社は1980年代の家庭用ゲーム普及期から現在に至るまで、「遊びの体験」を中心に据えたゲームづくりを続けてきた。最新技術や高性能競争だけに依存するのではなく、コントローラーに触れたときの喜び、驚き、直感的操作といった感覚面を重視する姿勢は、日本発ゲーム文化の一つの源流となっている。前述のように、国産ゲーム機という意味で、この文化的連続性を担っているのは任天堂のみである。

一方、欧米企業は巨大資本を背景に、ライブサービス型ゲームやeスポーツ対応タイトルを発展させてきた。中国や韓国はオンラインゲーム文化とテクノロジー投資において大きな役割を担っている。さらに近年ではサウジアラビアが石油マネーで巨大な投資を進め、ゲーム産業の新たな台風の目になりつつある。そのうえで今日、生成AIによるゲーム開発に世界中がしのぎを削っている状態だ。

これに対して日本は物語性、キャラクター表現、完成度、作家性といった領域で評価を得ている。つまり、世界のゲーム文化は、異なる強みを持つ複数の地域によって、豊かな多様性を保っているのである。

AI使用が変えるゲーム文化

最後に、2026年以降のゲーム産業を展望する。超大作偏重の構造は一定の見直しを迫られるだろうし、運営型ゲーム(※2)も成熟化を背景に、新しい価値の提示が求められるだろう。その間隙を縫うように、中規模タイトルやインディーズ作品の重要性はさらに増していくと考えられる。また、生成AIは個人によるゲーム開発を加速度的に広げていく。同人誌や私小説的な作品が増え、ゲームは単なる消費財ではなく、文化や思想を映し出すメディアとしての存在意義が強まると思われる。

その中で日本発ゲームは、たとえ市場規模では劣勢でも、「文化としてのゲーム」を提示する存在として、国際ゲーム文化の多様性を支える役割を担い続けるだろう。キャラクター文化、作家性、クラフトマンシップ、そして家庭用ゲーム文化の継承という特徴は、他国には容易に置き換えることのできない財産である。ゲームが成熟した文化として社会に定着する時代にあって、日本発ゲームは静かでありながら、確かな存在感をもって世界と向き合い続けるに違いない。

バナー写真:幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2025」で。カプコンのブースでは26年4月発売予定のSFアクションアドベンチャー『プラグマタ』を紹介(2025年9月、千葉県/AFP=時事)

(※1) ^ 「ストリーマー」=YouTubeなどにリアルタイムで動画を配信する個人や集団を指す。ビデオゲームの実況やプレイ動画が中心。

(※2) ^ 「運営型ゲーム」と「ライブサービス型ゲーム」はほぼ同義。前者はスマホのソーシャルゲームを指すことが多く、後者は主に家庭用やPCのAAAゲームを指す。