生活の必需品である洗濯機は、マイクロプラスチックによる環境汚染の主な発生源のひとつと考えられている。4人家族の家庭では、年間で最大約500gものマイクロプラスチック繊維が洗濯排水とともに環境へ放出されている可能性もあるからだ。その大半は下水処理場で捕捉されるものの、汚泥に蓄積した繊維は農地に散布される肥料を通じて再び環境中に戻ってしまう。
これまで多くのメーカーが、洗濯排水からマイクロプラスチックを除去する方法を模索してきた。だが、既存のフィルターにはさまざまな構造的な欠点があるという。「多くのフィルターはすぐに目詰まりするか、そもそも適切なろ過性能を備えていません」と、ドイツのボン大学で生物学を研究するレアンドラ・ハマン博士は説明する。
そこでハマンらの研究チームは、魚のえらの構造に着想を得て、洗濯機から排出されるマイクロプラスチック繊維を効率的に捕捉するための革新的なフィルターを開発した。
進化が育んだろ過システム
研究チームは今回、サバやイワシといったろ過摂食(水中のプランクトンや有機物をえらでこし取って栄養を摂取すること)する魚のえらに着目した。これらの魚は口を開けて泳ぎながら、えらを使ってプランクトンをこし取る能力を、数億年かけて進化させてきた。

カタクチイワシの口の内部の様子。えらを構成する弓状の骨である鰓弓(さいきゅう)が見える。
Photograph: Jens Hamann
魚のえらは、主軸となる弓状の骨である鰓弓(さいきゅう)、鰓弓から扇状に広がるひだ状の薄い器官である鰓葉(さいよう)、鰓弓の内側に並んだくしのような突起物の鰓耙(さいは)によって構成されている。この鰓耙は、吸い込んだ水に含まれるプランクトンなどの固形物をふるい分けるろ過装置の役割を果たしている。なお、鰓葉は水中の酸素を取り込むと同時に、体内の二酸化炭素を放出するガス交換を担う。
鰓弓は口から食道に向かって狭まっており、ろうとのような円錐形の構造をしている。その壁面は小さな歯のような鰓耙で覆われており、鰓弓全体に広がる精密なメッシュとして機能する。魚が吸い込んだ水は、この透過性の壁を通ってろ過され、鰓葉から環境へと戻される。

くしのような突起物である鰓耙(さいは)の拡大写真。吸い込んだ水に含まれるプランクトンなどの固形物をふるい分けるろ過装置の役割を果たしている。
Photograph: Leandra Hamann
その過程で、大きすぎるプランクトンは鰓耙のメッシュにさえぎられ、円錐の中を転がり落ちて蓄積される。これを魚が定期的に飲み込むことで、えらが空になって洗浄されるという仕組みだ。
この自然が育んだ設計には、2つの重要な利点がある。粒子が平らな障壁に直接衝突せず表面に沿って移動することから目詰まりしにくく、同時に水中のプランクトンをほぼ完全に除去できる高いろ過性能を兼ね備えているのだ。まさに洗濯機のフィルターに求められている特性といえる。
99%以上の捕捉率を実現
魚のえらの仕組みを洗濯機用のマイクロプラスチックフィルターに応用するために、研究チームは鰓弓の構造を工学的に再現し、メッシュのサイズや円錐の開口角度を変えながら実験とコンピューターシミュレーションを繰り返した。その結果、実験では水から99%以上のマイクロプラスチック繊維を分離でき、なおかつ目詰まりを起こさない最適なフィルターの構造にたどり着いたという。

研究チームは鰓弓の構造を工学的に再現し、マイクロプラスチックのフィルターに応用した。
Illustration: Christian Reuß/Leandra Hamann
捕捉されたマイクロプラスチックはフィルターの出口に集められ、1分間に数回自動的に吸引される仕組みだ。ハマンによると、収集された物質を内部で圧搾して水分を除去し、プラスチックペレットとして固形化することもできるという。数十回の洗濯ごとにこのペレットを取り出して一般廃棄物として処理できれば、環境負荷を抑えられる。
