21世紀は四半世紀が過ぎた。時間や場所を問わずに誰とでもつながることが出来る一方、足もとが揺らぐような不安も感じる。人々の営みに現れたほころびは紡ぎ直せるのか。古都・京都からヒントを探る。      文・清水美穂、写真・永尾泰史

 ふっくら丸く膨らんだ袖のフレアドレス、美しい曲線を描くマーメイドドレス――。昨年12月中旬、京都市中京区の京町家が華やいでいた。

手作りしたドレスを手に笑顔を見せる堀井さん(右)と父・正彦さん(京都市中京区で)=永尾泰史撮影手作りしたドレスを手に笑顔を見せる堀井さん(右)と父・正彦さん(京都市中京区で)=永尾泰史撮影

 柄のモチーフは「幸せな結婚」や「満ち足りた心」が花言葉のシャクヤク。並ぶ8着は全て、京丹後市出身の堀井綾美さん(29)(兵庫県在住)が手作りした西陣織のウェディングドレスだ。

 SNSで知って展示会を訪れた大阪府吹田市の女性(32)は「糸の光沢や柄の立体感が織物ならでは。和と洋がうまく融合している」と感激。「作ってほしい」との注文も複数入り、自信を深めた。

人気ナンバーワンの緑のドレス人気ナンバーワンの緑のドレス

 ブランド名は「tsumugu.(つむぐ)」。昨年8月、本格始動した。生地も自らデザインし、丹後ちりめんの産地で、西陣織の技術を受け継ぐ
機屋(はたや)
「梅武織物」3代目の父、梅田正彦さん(58)が織ったオリジナルだ。

 実家の機屋は西陣織の下請け工場「
出機(でばた)
」として1950年代に創業。先代が90年に和装から転換した。現在はネクタイ用を中心に小物の生地や
金襴(きんらん)
を手がける。

 幼い頃から裁縫好きで大学も家政学部へ。だが織物は「昔っぽい」と関心が持てず、服飾と違う分野で就職した。

 ドレス作りのきっかけは2022年夏、自らの結婚式だった。節約で2着目のドレスを自作すると評判は上々。着てもらう当てはなかったが、その後も未利用の布で作り続けていると、父から「うちの生地で作ってみるか」と提案された。二つ返事で応じ、親子で生地作りを始めた。

赤の新作ドレス。角度によって色の濃淡が出るのが織物の特徴だ赤の新作ドレス。角度によって色の濃淡が出るのが織物の特徴だ

 糸の交わり方や配色、仕上げと様々な技術があることを初めて知った。23年11月、オリジナル生地で初の1着が完成。織物への関心が高まり、帰省した際に思い切って尋ねた。「今どんな感じなん」。父からは思いがけず業界の苦境を打ち明けられた。

 分業の各工程で高齢化と人材不足が深刻化。織機の更新も高額で、廃業を選ぶ事業者が相次いでいた。「新しいことを始めなければ」と表情を曇らせる父に向くと、とっさに伝えた。「ドレスをやっていきたい」。父は「誰でもできることじゃないし、才能だと思う」と賛同してくれた。

同じ熱量、立場で

 心は決まった。本格的なドレス作りに入り、24年7月にブランドを設立。レンタル事業を掲げた。生まれた長男の育児と両立するため、昨年8月には勤め先を退職した。父らに比べれば知識は浅い。だが、慣習にとらわれない発想が自分の強みだと信じる。

体の曲線を強調した黒のドレス体の曲線を強調した黒のドレス

 「若い人の手に取ってもらいたい」と、多くが絹の西陣織に化繊を用いて低価格と手入れの容易さを実現。結婚式で和装と迷い、洋装を選んだ経験から「第3の選択肢に」と願う。父からの資金援助は断り、材料も西陣織工業組合の企業を通し、実家の機屋から正規価格で仕入れている。

背中のリボンが印象的。着物の帯をイメージしている背中のリボンが印象的。着物の帯をイメージしている

 家業に打ち込む父は誇らしいが、事業を始めるまで込み入った話は出来なかった。今は課題や将来を話し合うことが増え、「同じ熱量、立場で話せることがうれしい」と笑い、父も「生地のことは何でも任せてほしい」と見守る。

 SNSでは、ドレスや制作への思いを発信。「まさに温故知新」「10年前にあったら(結婚式で)着たかった」と前向きなコメントが多い一方、「着物でよいのでは」と冷めた声も、中にはある。

 けれども折れはしない。「そのままの形で受け継ぐことは素晴らしいが、それでは衰退を止められない。自分ならではの強みで、西陣織を守りたい」。伝統、世代、地域――。思いを紡ぐ挑戦は始まったばかりだ。

海外のショーへ打診も

 江戸時代、西陣織の技術を土台に発展した丹後ちりめん。西陣織と工程は異なるが、下請け工場の「出機」は丹後地方に多い。製品は西陣織工業組合の業者を経て、正規品だけが名乗ることができる「西陣織」として扱われる。

 ただ着物の普段使いは減り、西陣織の出荷額は落ち込んでいる。組合の西陣生産概況によると、2024年の出荷額は153億円で、ピークの2794億円(1990年)の1割に満たない。

 国内市場が縮小する中、海外に目を向ける動きもある。組合所属の織元は21年度から、イタリア・ミラノの生地見本市「ミラノ・ウニカ」に出展を続けている。

 西陣織の高い技術力は注目されており、堀井さんにも海外のショーへの出展打診があるという。

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