ニューラリンクの元社長マックス・ホダックが2021年に創業したブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)スタートアップのScience Corporationが、新たな部門を立ち上げた。人間の臓器を体外でより長く維持することを目指すものだが、その対象は脳ではない。
カリフォルニア州アラメダに拠点を置くScience Corporationは、臓器が自力で機能できなくなったときに血液を循環させ続けて機能を保つ既存の灌流システムの改良を目指している。灌流システムは、移植用臓器の保存や、心臓や肺の機能が停止した患者の生命維持手段として使われている技術だが、いまある装置は大がかりで費用も高い。そこでScience Corporationは、より小型で持ち運びしやすく、長期の使用にも耐えられるシステムをつくろうとしている。
Science Corporationはこれまで、神経インターフェイスと視覚の回復に事業の焦点を当ててきた。同社は、配線の代わりに生きたニューロンを使って脳と接続する「バイオハイブリッド型」インターフェイスの開発を進めている。
直近では、網膜インプラントの商用化に取り組んできた。このインプラントにより、進行型の加齢黄斑変性症(AMD)の患者が文字や数字、単語を読める程度まで視力の一部を回復させることに成功している。Science Corporationは2024年、経営破綻の危機にあったフランスのスタートアップPixium Visionからこのインプラントの技術を取得した。これにより同社は、視覚障害向けインプラントの開発でイーロン・マスクのニューラリンクに先行する立場に躍り出たのである。
「ある意味では、どちらも延命にかかわる技術です。神経インターフェイスとこの技術で目指しているところは同じです」と、臓器灌流システムについてホダックは話す。
ホダックは2016年にマスクらとともにニューラリンクを共同創業したが、2021年に同社を離れた。その後Science Corporationを創業し、最高経営責任者(CEO)に就任した。ベンチャーキャピタルデータベースPitchbookによると、Science Corporationは創業以来およそ2億9,000万ドルを調達している。
ECMOの倫理的問題
ホダックが臓器保存技術の開発に取り組むきっかけとなったのは、嚢胞性線維症によって肺が機能しなくなったボストンに住む17歳の少年についての記事を目にしたことだった。少年は臓器移植を待つあいだ、体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation、ECMO)によって生命を維持していた。
しかし、待機リストに載ってから2カ月後、少年は合併症を発症し、移植の対象外となってしまう。医師と両親は、次の治療までのつなぎとして使われるECMOで生命維持を続けるべきかどうかという、倫理的な判断を迫られた。やがて装置の人工肺が劣化し、医師は交換しない判断を下した。その後まもなく少年は意識を失い、亡くなった。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいても、肺が機能しなくなった患者の治療にECMOは使われていたが、この装置は非常に高価で、多くの人手や資源を必要とする。稼働には1日あたり数千ドルがかかり、患者は病院内で装置につながれた状態で過ごさなければならない。装置は病床脇のカートで移動させる大きなチューブの回路で構成されており、常時モニタリングと手作業によるこまめな調整が必要だ。こうした高いコストがかかることから、ECMOを備えていない病院もある。
